夜逃げした僕達はホームレスになり、車での生活をしていた。そこからやっと抜け出せると思っていた。信じていればいつか幸せになれると思っていた。そんな希望を持っていた僕達に待っていたのは、さらに分厚く堅い絶望の壁だった。

「シャトークレール」
夜逃げして新居が見つかった後、知人に預かってもらっていた荷物を新しく住む事になった家に運んだ。各部屋はダンボールの荷物でいっぱいになり、家族5人はリビングで寝るようになった。最低限生活出来る様な状態にし簡易的な生活が始まった。それがシャトークレールというマンションだった。

「前触れ」
生活が出来るだけでかなりホッとしていたが、その頃母の強迫性障害という病気が静かに始まっていた。そのせいで荷物の片付けは一向に進まなかった。

「転校」
小学校6年生になっていた僕は、引っ越し先の学校に行く事になった。そこに通ったのは本当に一瞬だった。すぐに学校に行ける生活ではなくなり、家にひきこもってしまう様になる。友達は1人も出来なかった。そして母の病気はどんどん酷くなっていた。

「強迫性障害」
あまり聞いた事がないと思うが、これは精神的な疾患だ。嫌なイメージや思考、思い出などが自分の意思に反して何度も繰り返し感じられるもので強い不安や嫌な思いを伴う。例えば鍵はきちんとかけただろうか、火は消しただろうか、手に汚いものがついたままじゃないかなど、不安になり強迫行為を繰り返す様になる。

「エスカレート」
強迫行為は、何度も確認作業をしたり、強迫観念から生じる不安や嫌な思いを振り払うために行う儀式の様な行為。母はそのせいでお風呂やトイレから十数時間出る事が出来なかった。この行為はどんどんとエスカレートし酷くなっていった。

そしてついに想像していた最悪の事態が起こる

続く