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『月はキレイかもしれないね』①(創作小説)

前回予告(?)した通り、今回から創作短編小説を書いていきます。
タイトルはテキトーに付けました。
今後、変えるかもしれない。
元々は前回の記事に書いた通り「月がキレイですね。」を使いたかったので。


1.はじまり


「カイル、もっと音を大きくしてよ。」
車内にはblink-182のFirst Dateがかかってる。
助手席に座るカイルに頼んだのは、ルイ。
後ろの席で曲に合わせて一緒に歌いながら、外を見ているのはユーゴ。
運転しているのは、アオ。

夏休みが始まってから1週間。
4人は、アオの父から車を借りて地元から可能な限り離れたビーチで
夏休みを過ごすことに決めたのだ。
高校の卒業時から決めていたこの計画。

4人に共通していることは「新しい世界に進むこと」だ。
旅を通して、小さい頃から一緒にいる4人が協力し合う、
そういう旅行にしようと計画を立てていた。
とはいえ資金もないので車は借りるし、宿泊先はユーゴの親戚の持つ別宅。

旅に出る前に一応、確認し合う。
お互いの新しい世界に進むことの意義。

アオは、地元を離れて新しい世界を見て地元で退屈だと思う理由を探る。
新しい出会いがあれば、それが理想。
ルイは、普段の生活から経験出来ない学びを通して新しい世界に進みたい。
思慮深い性格のために、先に進めなくなってしまうことから抜け出したい。
この旅行自体が、第一歩。
ユーゴは、向かう先を海の側であることを最初にひらめいた。
親戚の別宅とは別に、海の向こうの先にある世界を知りたかったのだ。
もっとも今の時代、足を運ばなくてもいくらでも知れそうだが。
新しい世界に進むことは、きっと美しい。
そう思っている。
カイルは、夏休みの間に新しい言語をマスターして新しい世界に進むこと。
というのも、前の学年でカイルは単位を落としたからだ。

「いい加減、blink-182聞き飽きたよ。出発してからずっと聴いてる。」
そう言ったのはアオだ。
「じゃ、次何にするー?」
そうきくのは、早速スマホをいじるユーゴ。
「Simple Planだな。」
カイルがユーゴのスマホから操作する。
「思い切って違う方向にいこうよ。そうだ、Mêléeは?」
全員が笑う。
「今ドライブしてるからな。そうだ、Ed SheeranのCastle On The Hillが聴きたい。」
窓を開けて4人で歌う。

向かっている先は行ったことのない場所。
でも、もしかしたら戻りたい場所となるかもしれない。
4人が夢見る、先に進むことのようには上手くいかないかもしれない。
それでも「そんな風になるなんて知らなかったよ。」
こんな体験でも最高じゃないか。

夕飯は、古ぼけたダイナーで。
車内に座っているだけでも、しっかりお腹は空くものだ。

窓から見える景色はすでに普段と異なるもの。
お腹を満たしてから車に戻って、今度はルイが運転。


山と表現するには不十分な、丘を登ったり降ったり。
しばらくは、ヒップホップを聴いていた。
車が揺れるほど音楽に酔っていたのは、地元から離れる楽しさと夜のテンションだろう。

「さっきの曲、Ed SheeranのCastle On The Hill聴きたい。」
そうユーゴが言ったのはダイナーを出てから、2時間以上運転してからだ。
「んー。」
そう言いながらカイルがスマホを操作する。

「ヤベェかも。」
そう言うのは運転しているルイ。
「何が?」
アオが後ろから気だるそうにきく。
「ガソリン、Empty表示出てたわ。」
ルイがボソッと言う。

それまでのテンションが消え去り全員無言となる。
助手席に座っていたユーゴが素早くクーラーを消して、全席の窓を開ける。
丘の上を走ってきているが、周りには驚くほど何もない。
動物の飛び出し注意の看板を、フロントライトが照らす。
車内で1泊などしたくない。

もう、すれ違う車もないので道端に車を停車させる。
ルイは、とりあえず休む。
アオは、近場にガソリンスタンドがないかを確認。
カイルは、ガソリンを運んでもらえる会社がないか確認。
ユーゴは、最悪の事態に備えてスマホを使わないことにした。

時々、シカやアライグマの親子が道を渡る。
何がガソリンを使ってしまうのか分からないから、エンジンも切っている。
暑いから、どうしても窓を開けるが無力さを感じる。

動物たちに気付けるのは、月があるからだ。
信じられないほど真っ暗。
ルイは動物たちがこちらを見る度に、動物園の動物の気分になった。
今の状況は、自分たちが鉄製のかたまりに入って動物から見られているからだ。

「あいつら何してんだ?さぁな。」

動物たちは、そんな風に思ってるのかもしれない。
ルイは内心ふと考えたのだ。
月に反射した眼光がやたら鋭いから、攻撃的な目で見られているような気持ちになるのだ。


「あ、ガソスタあった。」
アオが力なく言う。

ガソリンを運んでくれる会社は営業時間を過ぎていたので不可能。
そんな状況下で、アオの光の差すような一言。

全員、絶望的な気持ちだったのはガソリンスタンドが7km先だから。
たかが、7km。
だけど、いつからEmpty表示になっていたのか誰も知らないからだ。

窓を開けたまま、夜中でもライトは可能な限り暗めに設定して運転。
無事にガソリンを入れる。
まるで、自分たちに力が与えられるような感覚だ。

ガソリンスタンドに設置されているコンビニで飲み物を買う。

気を取り直して、ヒップホップを流して歌う。
下手くそでも、無事に動く車に感謝せずにはいられない。

ユーゴの親戚の別宅に到着したのは、とっくに日付が変わってから。
各自の部屋をどこにするかっていうのは、目が覚めてからにしよう。

入ってからすぐに広がるリビングのソファーに横になる。
部屋が暗いので、暖炉が少し不気味に見える。

「新しい世界、もう進んだかもしんないな。」
ボソッとアオが言う。
「明日からだよ。」
とユーゴ。
「新しい世界に進むのってどんな感じかな。」
カイルが床に落ちたクッションを拾う。
「起きたら会議を…」
言いながらルイは寝てしまった。

新しい世界への1日目は、こうして始まった。



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