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タイ南部国境県テロ取材「今日も現場にいます」

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世界有数の観光立国、微笑みの国のタイの最南端は、長い間テロが続くムスリムたちの土地。バンコクからマレーシア国境まで1,300キロ超、いつ終わるとも知れない当地テロを2004年から… もっと読む
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2018年2月の記事一覧

Chapter 2 陸軍分隊を従軍取材② 真の任務はテロが起きない環境作り

Chapter 2 陸軍分隊を従軍取材② 真の任務はテロが起きない環境作り

 第4軍管区の広報担当幹部の陸軍大佐が帰っていき、しばらくして従軍させてもらう部隊の兵士数人がバンで迎えに来た。M16A1小銃を手にした兵士に促されてバンに乗り込むと、その兵士はドアの前で小銃を左右に構えて警戒し、後ずさりしながら滑るように入ってきた。自分のようなしがない記者のためにそこまでしてもらわなくても、と申し訳ない気持ちになった。

 その部隊は、南部からだとバンコクよりも遠い東北部ブリー

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Chapter 3 美人軍医に歯の治療をお願い

Chapter 3 美人軍医に歯の治療をお願い

 2007年6月11日朝。従軍取材を終えてホテルに戻る準備をしていたら部隊長がやってきて、「近くの村に医療支援に行くがついてくるか?」と聞いてきた。過去24時間歩き続けて仮眠は2~3時間。眠くはない。でも疲れていない、というとウソになり、ホテルに戻ってさっさと寝たい。しかし物事は何でも見ておくべきだし、こういう仕事は現場ありきだし、何よりせっかくの誘いを断りにくい。元気に「行きます!」と答える。

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Chapter 4 分離独立派組織か? 単なるテロ組織か?

Chapter 4 分離独立派組織か? 単なるテロ組織か?

 「単なるテロ組織か?」というより、「単なる山賊か?」という表現の方が良いかも知れない。テロ組織に限って大義名分を振り回すが、山賊は主義主張なく騒ぎを起こして強奪して終わり、だからだ。南部国境県一帯に存在する組織はまさしく、山賊まがいが多いという。

 南部国境県のテロ組織は決して新しい存在ではない。分離、独立、併合を求めるために結成された組織は、遅くとも1930年代には存在していたらしい。太平洋

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Chapter 5 単なる不良の集まりレベル? 中核は極めて小さな組織

Chapter 5 単なる不良の集まりレベル? 中核は極めて小さな組織

 自分はタイに長く連れ合い(女房)もタイ人で、その連れ合いの同級生に海軍特殊部隊の分隊隊長という兵士がいる。彼いわく「タイのネイビーシールズ」だ。訓練ではまさしく、米国の映画のような機密作戦やハイジャック鎮圧といった訓練を繰り返しているようだが、平時に訓練の成果を発揮する機会はそうそうなく、いつもはタイの海岸沿いや河川の国境を中心に麻薬犯罪の捜査を続けており、南部国境県にも数年に1年という単位で任

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Chapter 6 陸軍兵士になった地元ムスリム

Chapter 6 陸軍兵士になった地元ムスリム

 2007年9月1日、ヤラー県ヤラー国鉄駅前。事件もなく、やることなく、暇。

 駅前で警戒中の陸軍兵士に話しかけてみる。警戒というよりは仲間の兵士と何やら買い物中で、みんなが戻ってくるまで時間を潰しているような雰囲気。彼が手にしているドイツ製HK33が気になる。

 「あんた外国人か? え、日本人か? 日本人がなぜ南部なんかに取材に来るんだ? うちの部隊はこの銃とM16A1だ」。
「ああ、それじ

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Chapter 7 常に否定されてきたイスラム

Chapter 7 常に否定されてきたイスラム

 南部国境県では常に、イスラムは否定されてきた。北から南までタイ全土にこれだけムスリムがいて、日常生活にこれだけ馴染んでいるのに、おかしな話である。現在にも続くことだが、民族問題が宗教問題にすり替わっている証といえる。

 1909年の英国領マラヤを統治する英国との英泰協定以降、タイ中央政府は南部国境地域に中央タイ人(他地域からやってきたタイ人として、地元の仏教徒住民と区別)を入植させる。スルタン

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Chapter 8 テロは日常生活の一部

Chapter 8 テロは日常生活の一部

 2007年9月1日、昼間は暇だったが、夕方に事件が起きた。ヤラー市ではこの日、毎年恒例のフルーツフェスティバルが開催され、バンコクから駆け付けたティラウット・ブッシリープーム副内相やヤラー県のティーラ・ミントラーサック県知事といった要人が参列した。

フェスティバルの開会式では、過去数週間テロが収まっていたことから「これを機にテロ撲滅に向けて官民が結束すべき」という言葉が挙がった。しかしそんなこ

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Chapter 9 テロ浸透度で色分け、赤色地域のレンジャー部隊

Chapter 9 テロ浸透度で色分け、赤色地域のレンジャー部隊

 「おい、今度バーチョ取材しろよ、セットアップするからよ」。

件の第4軍管区の広報担当幹部にフレンドリーな部下がいて、彼が自分の行きたい場所を押し付けてきた。バーチョといえば、南部国境県でも危険と呼ばれる町だ。

 タイには信号機の色のように地域を分ける習慣がある。タイといってもここで取り上げるのはタイ国軍で、習慣といっても過去に前例があったというだけだが、南部国境県のではテロ浸透度を3色で色分

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