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おじいちゃん注文された生ビールを少し飲んで出す。


ここ最近、お客さんからの
クレームが多い。

どうやら生ビールを頼んだら
コップの半分くらいしか入ってないのに出てくる。

そんなクレームだ。


うちは、焼き鳥屋を経営している。

正式には、
おじいちゃんが自宅の一階で近所の常連と
一緒に飲んでるくらいの義理人情のみの店だ。

ただ、春になると桜の名所の神社で
大々的な出店をする。

こんな感じの店である。

そこでは親戚一同が集まり
毎日店員として手伝って店を切り盛りしている。


そんな意識も高くやってないので
親戚みんなで楽しくワイワイやってはいるが

さすがに生ビールが半分しか入ってない。

そんなクレームは無視できない。


しかも1テーブルだけじゃなく
ほとんど全部のテーブルからだ。


なにがどうなってるんだ!?

そんな風に全員は原因追及をしているが
心の中では犯人は絞られている。


そう。おじいちゃんだ。


理由は2つある。


まず1つ目は
「今日はわしが生ビール係をする」


この発言だ。
もうほとんどこれで黒だ。

普段おじいちゃんは
店の手伝いなどはしない。

七輪の炭を作るための
焚き火の前で座ってるだけだ。


その姿を見てみんなで
スナフキンと呼んでいる。


そんなおじいちゃんが
生ビール係というよく分からない役割を
挙手した時点で、
持ち前のアルコール中毒のギアがかかったのは
明白である。


そして2つ目の理由



ベロッベロに酔っ払っている。



完全にこれで黒だ。
いや、漆黒である。

店の定員がベロベロで
接客してる光景はなかなかレアである。


僕は小さい頃からそれを見たから
それが普通だと思ってたがどうやら違うらしい。


そして、新たに生ビールの注文が来た。

おじいちゃんはルンルンで
ビールサーバーから生ビールを注ぐ。


「生ビール持っていきゅよーー」
と、完全に呂律が回っていないが

会計係に報告してそれをお客さんのテーブルに
運ぼうとしている。


僕は親戚のおばさんと
その後をこっそりと付けた。

身内を尾行するのは初めてだし
今後もなかなか無いだろう。


すると、おじいちゃんは急にピタッと止まり

生ビールを持っている左手に付いてる
腕時計で時間を確認する。


「なんで今時間見るんや?」
「分からへん」

僕と叔母さんは物陰からコッソリ話した。


その次の瞬間。

時計を見ているジェスチャーのまま
そのまま生ビールを飲んだ。


ちゃんと飲んだ。


100歩譲って一口なら分かる。


グビグビグビッ。

3口分くらい飲んだ。


居酒屋の一杯目くらいの勢いで飲んだ。

3口分を飲むと
何事かも無かった様に、
生ビールを頼んだお客さんの所に出した。


もう衝撃である。


その半分しかない完全に飲まれた形跡のある
生ビールを受け取ったお客さん。

さすがにおじいちゃんを呼び止める

「すいません、これ誰かの飲みかけちゃいますか!?」


おじいちゃんは何て言うんだ。


このお客さんの完全に逃げれない
申し出になんと答えるのだ。

30年以上店を切り盛りして
接客業もしてきた、このおじいちゃんは
何て言うんだ。

僕は息を潜めてその言葉を待った。


「すいません、これ誰かの飲みかけちゃいますか!?」




「…。」



無視した。

お客さんの正当な申し出を

おじいちゃんはシンプルに無視した。


お客さんも鳩が豆鉄砲を食ったように

去っていくベロベロの老人店員の
背中を、ただ見ている。


あんまりである。
生ビールは一杯800円取っている。

高いくらいの値段設定だ。


それでも、外で夜桜を見ながら
呑めるからと800円出して生ビールを頼んでくれているのである。


そんな生ビールを勝手に
飲んで当たり前の様に出して
何か言われた無視をする。


よく30年も店が続いたと
心の底から思う。


しかし、僕と叔母さんを
その現場を完全に見ていた。


叔母さんと僕で
おじいちゃんの前に立ち
逃げられないぞというばかりに言ってやった。


「おじいちゃんお客さんの生ビール勝手に飲んでそれ出してるやろ!クレーム来てるんやぞ!」


目の前に立ったから無視はできまい。

逃がさない。

おじいちゃんは
酔っ払った半目のまま僕たちの顔を
ゆっくり見てこう言った。



「そんなんしてない」




…なかなかの博打を打ってきやがった。

正面から嘘をついてきた。
根性だけは立派なもんだ。


「嘘つけ!その現場全部見てたんやぞ!」


現場を見られていたなら言い訳のしようがない。

とぼけても無駄だ。
完全に僕達は見たのだから。

勝ち誇った僕達に
おじいちゃんはゆっくりと言った。


「見てへんわ!!」


…そんなのアリか?
見たって言ってるのに、
見てない。と言われたら何て答えたら良いんだ。


「見た」「見てない」
この水掛け論に僕達は持っていかれた。


そして、最終奥義を
おじいちゃんは出して来て僕達は
諦めざるを得なくなった。


おじいちゃんの最終奥義


「酔っ払ってるから分からへん」




これを言われたらおしまいだ。


だって酔っ払ってるんだもの。
僕と叔母さん口をアグアグさせながら
2人でお客さんの所に謝りに回ろうと話した。


新しい生ビールを持って
1テーブルずつに謝って回る。


「生ビール申し訳ありませんでした。こちら新しいやつです。」

お客さんにそう言って謝ると

「あー、ありがとう!
親父さん(おじいちゃん)のお陰で
おもろい話題で酒飲めるし楽しいわ!
また来年も来るから!」


どのテーブルでもこんな感じで
みんなエピソードトークとして笑っていた。


よく見たら去年も見たことある人達ばかりだ。


頼まれた生ビールをちょっと飲んで出す。


これはもしかしたら、
30年店を続けたおじいちゃんの
辿り着いたリピーターを増やすテクニックなのかもしれない。

僕達は凄く接客を浅く考えていたのかもしれない。

お客さんの気分を害さない事が
【接客】だと思っていたが

お客さんに結果的に楽しかったと思われる事が
【接客】の本質なのかもしれない。

おじいちゃんの人柄を存分に使い
おじいちゃんにしかできない

"お客様を楽しませる接客"

これを学ばせて貰ったと
感動に浸っていると


近くのテーブルから声が聞こえてくる。



「俺は昔、戦争で活躍した!
 今お前らが飯食えてるのも俺のおかげや!
 感謝せいよ!!」


大学生の新歓コンパの団体に
おじいちゃんが叫んでいる。


僕はそっと目を逸らし
新しい生ビールを手に取って
謝罪の続きに回った。




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