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「犬のお巡りさん。」/ショートストーリー

自分は第1号であることを名誉に思います。
みなさんが拍手してくれたのが嬉しかったです。

自分は本当に心からそう思っています。
公務員の自分がその仕事を担うことになったのは必然だったのではないでしょうか。
というか、僕が最も適任していると自負しています。

自分の顔の真ん中にある鼻が犬仕様第1号になる前から、嗅覚には自信がありました。

それでも。
やはり。
ワンコにはかなわない。
あっ、すみません。犬と言ったほうが正しいのでしょうね。
動物好きなんで、つい。
猫のこともニャンコと言ってしまいます。
よろしいでしょうか。
ありがとうございます。
つまり言いたいことは。
警察犬に深い尊敬の念を持っているということです。

人間の鼻だったときでも、きな臭い匂いや嘘くさい匂いには敏感でした。
それで警察官として手柄を立てたことが何回もありました。
表彰状はたくさんいただいております。
先輩たちは、それは嗅覚でなくて刑事の勘だろうとよく自分に言ってくださいました。

でも。
自分としては嗅覚の方がしっくりくるんです。
嗅覚も勘もきっと本能からきているのかと思っています。
自分は本能の人間なのでしょう。

そして。
もっと、市民のみなさんのお役にたつべくですね。
今回、この市で初めての犬仕様の鼻にしていただきました。

これできっと市民の皆さんの期待に応えられると存じます。

取材ありがとうございます。
自分は。取材されたのは初めてなものですから、おかしな日本語になっている場合はどうぞそちらでお直しいただけますでしょうか。
よろしくお願いいたします。


ようやっと、新聞社からの取材から解放された。
そのような扱いを受けたのは生まれて初めてだったせいか。
なにをどのようにしゃべったのかはあまり、覚えていない。
ただ、やたらと写真を撮られていたことを覚えている。
と言っても、ワンコ仕様の黒い濡れた鼻が中心だろうと想像できる。

僕の鼻がワンコ仕様になってから、確かに人間の鼻が劣っていたのかが理解できた。
やっぱり。
警察犬はすごいよな。
ただし、彼らはあまりきな臭いとか嘘くさいとかの匂いに反応できないけれどね。

あと。取材の時には言えなかったけれど。
彼女のフェロモンという匂いもわかってしまって。
それは良いことなのか、悪いことなのか僕にもわからない。

まあ、いいさ。
子供たちにも大人気だからね。
「犬のお巡りさんだ。」って。


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