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「眠れない夜に。」/ショートストーリー

不眠症と診断されて長い。

処方される薬は時々変わる。

それというのも。

あういう薬は耐性ができてしまって。

そのうち効かなくなる。

これじゃいかんと思って色々と試すのだが。

もともと、継続ということがたちに合わない。

散歩だって運動だって。

規則正しい生活だって、継続できない。

だから。

簡単な薬を選んでしまうのだが。

最近はなんとなく罪悪感がある。

どうしたら良いものやらと。

ネット検索していたのだが。

その私の目に入ったのが、「眠れない夜に」というタイトルの本だった。

本はオークションにかけられていた。

説明文にはこの本をひらけばたちまち眠れると書いてあるだけ。

ちゃんとしたところで購入したいと思った私は。

色々と検索してみたものの。

結局。

そのオークションでしか、見つけ出すことはできなかった。

まだ、だれも入札者はいないようだったので。

好奇心も手伝って落札してみた。

本はきちんと送られてきたが。

相手の住所も名前もわからないと言うシステムだ。

本と一緒に便箋が1枚。

落札のお礼と本は夜しか読むことはできないと端正な字で書かれていた。

なんだそりゃとなって。

本が届いた昼間にひらこうとしたら。

接着剤でつけられているようにぴったりと閉じられている。

なんか、まがい物というか変な本を落札したなと思うぐらいで。

あまり怒りなどもわかなかった。

大した落札金額でもなかった上に匿名ときてはどうしようもない。

私は本とかいうものに執着はなかった。


夜。

いつものように薬を飲んでベットに入る。

最近、また薬の効果が薄らいだ気がしている。

なかなか眠れないので。

暇つぶしに見てみるかと思って本を手にとると。

昼間と違ってペラペラとひらくではないか。


翌朝。

気がつくと全然記憶が残っていない。

本になんて書いてあったのか覚えていない。

そして。

本は昼間のあいだ、また固く閉じられたままだ。

薬を飲まなくても。

眠たい時に本をひらけば。

すぐさま、朝を迎えている。

最初は薬を飲まずに眠れるということが単純に嬉しかった。

ただ。

本になんて書かれているのかと興味を持ってしまった。

だが。

どうしても覚えていられない。

もしかしたら。

本当に文字が目に入った途端、寝ているのかもしれない。

これは薬替わりのものだと思うことにした。


半年が過ぎようとした頃。

私は違和感というものを感じるようになった。

なんだが、寝ている間に自分の中から何かが奪い取られるような。

自分の内側が削がれているような感覚。

生きている楽しさとか苦しさとかも希薄になっている。

なにを食べても飲んでも。

なにを見ても聞いても。

感じられない。

私は一体なんで生きているのだろう。

なとど考えるようになって。

急に私は怖くなった。


それで。

仕方なく、その本をオークションにかけてみることにした。

薬を再開することにしたが仕方ない。

私は不眠症ではあるが厭世的なたちでない。

早くだれか落札してくれれば。

それこそ、安心して眠れるのに。


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