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Web3×まちづくりの可能性|ブロックチェーンでまちづくりはどう変わる? 地域資源活用から市民参加まで

日建グループは「オープンプラットフォーム(組織を開く)」を掲げ、社会の様々な課題に、社内外の多くのみなさんと共に取りくむため、ゲストからの異なる視点をかけ合わせて議論を深め、イノベーションに向かう、クロストークラジオ「イノラジ」を開催しています。今回のテーマは「Web3 x まちづくりの可能性 ブロックチェーンでまちづくりはどう変わる? 地域資源活用から市民参加まで」。Web3、ブロックチェーンなどの言葉を耳にする機会も増える中で、意外とまちづくりとの関係が深いことが分かってきています。 今回は、NFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン:ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータ)による地域活性化を仕掛ける林篤志さんと、大阪大学でブロックチェーンを研究実践する落合渉悟さんをお招きし、Web3の可能性を探っていきました。

小松航樹
日建設計総合研究所 都市部門 研究員
道家浩平
日建設計 都市社会基盤部門
都市開発グループ 都市開発部 プランナー

まず、Web3とはなにか?

Web3は一般的に、ブロックチェーン技術を使って実現する、特定の管理者がいない分散型ネットワークと定義されます。Web1.0は、Googleの検索結果に出てくるような、一部の配信者から一方通行の情報の流れがある状態。Web2.0は、SNSのように、双方向の発信ができるもの。Web3は、参加者全員が分散して、データを保持・保管しているような状態です。
 
Web3を実現するうえで肝となるのが、ブロックチェーンです。ブロックと呼ばれる単位でデータを管理し、それを鎖(チェーン)のように連結してデータを保管する技術です。長所としては、分散型で単一障害点がないこと、非中央集権的であること、改ざんが非常に難しいことがあります。
 
イメージとしては、取引の内容を記載したメモ帳をみんなで持っているような状態です。どれか1つを書き換えることはできても、全て書き換えることが非常に難しいので、改ざんに対して強くなっています。この技術の応用として、よく聞く言葉にNFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)があると思います。NFTは、デジタルデータにおける唯一性を証明することを目的とし、主にアート分野で所有者の証明に活用されています。

スピーカーのご紹介とWeb3との関わり方

落合渉悟さん:大阪大学で特任研究員として、 医療データの流通を促進するスマートコントラクト(*1)の研究などをしています。例えば、難病の患者会に対して中心のない組織を適用し、難病のデータを製薬会社等に提供することで、病気が将来治ることにつなげていきます。 しかも、その病気が治るような研究結果が出たら、売り上げの一部が患者会に戻ってくる。そういうインセンティブシステムの設計や特許の提案などをしています。

*1:特定の条件が満たされた場合に、予め決められた処理が自動的に実行されるなどの、契約履行管理の自動化

サブプロトコル

会社もやっていて、そちらでの専門はDAO(分散型自律組織:Decentralized Autonomous Organization)です。スマートコントラクトのプログラムを実行可能にするブロックチェーンにおいて、誰でもDAOを作成できる仕組みを作っています。組織を作るデータベースなど、色々なものを組み合わせられます。スマートコントラクトは、これまで金融で使われることが多かったのですが、僕は自治における活用を提唱しています。町内会、部活、PTAなどを中心のない組織として運用することができます。スマートコントラクトを利用した債券の発行にも注目しています。預けた人、受け取る人が直接契約を結ばなくても、自治体などがお金を利用できるようになるイメージです。銀行のような、中央集権的な管理者のいない金融システムを作れる可能性があります。

ロードマップ

今後のロードマップとしては、2024年には医療系の活用事例を、2025年には町内会やマンション理事会の活用事例を作りたいです。2026年には、誰でも当たり前に使える道具にしていけたらと思います。
 
林篤志さん(Next Commons Lab代表):僕はWeb3の技術がどう社会実装できるか、手探りしています。そもそも、あらゆるものが市場経済の中で成立しているかのような時代において、どうしたらポスト資本主義を作れるか考えてきました。
 
その中で、日本の地方や限界集落に目が向き始めたんです。これまで、醸造所の立ち上げなど、地方のスモールビジネスを生み出す人の伴走をしてきました。一方で、地方の構造的な課題解決のため、Web3のような新技術の導入を進めています。

例えば、2040年までに日本の自治体の半数が消滅すると言われ、公共交通などが維持できない限界集落が生まれています。では、どうするか? よく「自助」「共助」「公助」と言われますが、新しい「共助」の仕組みを提案していくアプローチとして、「Local Coop」という第二の自治体のフレームワークを作っています。

その手法の1つが、デジタル住民という考え方です。事例として、新潟県長岡市の旧山古志村があります。旧山古志村は、人口760名、高齢化率56%の限界集落です。そこで、NFTを利用してデジタルアートを販売し、デジタル村民を募集しました。これは、デジタルアートのNFTであると同時に、「デジタル住民票」という意味も兼ね備えています。まちづくりを一緒に考えて、手足を動かしてくれる人たちをボーダレスに集めたんです。結果、リアル人口の2倍以上、1600名強のデジタル村民が生まれ、この1年間で 2500万円くらいの予算が集まりました。今は、みんなで議論して意思決定をして、プロジェクトを進めています。デジタル村民の3割近くがリアルな山古志村を訪ねて、お祭りや雪かきの手伝いをしてくれています。これまでは閉じて流出しないようにしていたけど、徹底的に外に開いた方が、実は守りたいものを守れるんです。
 
※以下敬称略

道家:今日のテーマである都市・まちづくりと日建設計の関わりについては、これまでの日建設計のまちづくりを担う「都市・社会基盤部門」がメインとしてきたのは、渋谷のような大規模な都心の開発でした。しかし最近では、地方や、デジタルとまちづくりなどが話題になることが増えています。他にも、2023年に発足した企画開発部門コモンズグループでは、人の行動変容を促す仕組みとしての建物や空間を提案しています。公園など、公共空間の運営マネージメントに関わっていく事例も出てきました。

Web3の価値とは?ディスカッションから探る

道家:Web3を初めて聞く人に対して、その価値をどう説明されえいますか?
 
落合:Web3をネットで検索すると、価値が価値となるインターネット、個人主権でデータを管理できるとか出てくるんですけど、本質は「書きかけ」の契約をネットに放流できること。これまでは、双方向契約をベースに産業や行政が定義されてきました。しかし、Web3では、 一方向契約ができます。
 
:従来の契約における甲乙の関係性とは異なりますよね。例えば、甲は乙のいない状態で、ウェブ上に契約を投げられる。そしたら乙が現れて契約を履行する。相性のよい10個の契約が1つになって、ワンクリックで同時契約することも可能です。例えば、国の制度設計など複雑になりすぎたものを、よりよい設計に変換できる可能性があります。契約の管理費用も、これまでに比べて0に近くなります。オープンソースのソフトウェアの世界と近いんですけど、多様性がある中で使われるものだけが残っていくのでは。

Web3とまちづくり

道家:Web3とまちづくりについて、お考えを教えてください。

:山古志村の事例をあげると、NFTを購入した瞬間に、多くの人は「デジタル村民になりました」とSNS上で言ってくれます。自分たちで枠組みを作り、デジタルを活用してアイデンティティを拡げる。そして、多様なステークホルダーと新しいものを生み出していく。それが、あるべき姿の1つではないかなと。

落合:まちの体験を向上させていかなくてはいけないなと。発展より景観を大切にするなど、それぞれまちのフェーズ、ペルソナが違います。その中で体験をよくしていくことが、まちづくりだと思います。
 
僕がツールを作るときに、提供したい価値が4つあります。1つ目はコンポーザブル性(複数の要素の結合や組み立てが可能であること)。すでにあるツールを組み合わせたら、急にまちの価値が上がることもあり得ます。2つ目が透明性。今、町内会の決め事はクローズドで家単位です。でも、もっとたくさん掬い上げなくてはいけない個人の声があるはずです。僕のDAOの仕組みでは、リーダーがいなくても議題や法律を提案でき、内外に対して透明性を保ちながら可決できます。3つ目が反脆弱性。大恐慌など偶発的な悪いイベントが起こった時に、もっと強くなるということ。特に、紛争地帯の自治に適用できればと思います。紛争中も共有のお金を守れる、紛争後に避難先から戻ってきたら自治を再開できる、ということです。4つ目が、自己増殖性。誰かが使えば使うほど、他の人もどんどん使っていく。その4つです。
 
道家:Web3と相性のよいまちづくりはありますか?
 
:都市か田舎かは関係ない気がします。デジタル空間上だけで完結するDAOが圧倒的なボリュームを占めている中で、どちらも物理空間があることが強みです。山古志村デジタル村民からすれば、山古志は聖地や総本山なんです。それが、都市部にあったら行きやすいし、体験価値がすごくあるはずです。
 
あと、山古志が元気になる以上に、デジタル住民として、まちづくりに参加している個人が元気になっています。まちを元気にするためのまちづくりではなくて、 まちづくりに参加する人が元気になるまちづくりという風に、視点を変えた方がいいですよね。新たなコミュニティが、アイデンティティの1つになります。
 
道家:アイデンティティは、愛着とか、シビックプライドに言い換えられますね。これまでのまちづくりも、まちに愛着を持っている人が中心になっていました。それをNFTに乗せて、広範囲に届けていくイメージですか。
 
:アイデンティティとかプライドって、強まれば強まるほど、排他性も高まります。だから、そこはいくつかのレイヤーに分けていくことです。 リアルな山古志では、数百年以上住んでいる人たちが、圧倒的なプライドを持っています。でも、プライドだけでは村は続かないので、新しい形のプライドを作っていく。グラデーションをうまく設計することが重要では。
 
道家:都市には、そこの住民だけでなく、週1回や年1回などたまに訪れるような人からも愛される場所や資源がたくさんあります。都市に愛着を持つ多様な人々を、グラデーションを持ってどう巻き込んでいくか。エリアや規模を定量的に定めるよりも、アイデンティティが形成されている範囲を探すことが大切ですね。
 
:多くの人は、都市部のまちづくりに自分が参画できると思っていあせん。でも、プロセスに関わることには、すごく価値があります。まちを舞台に生産活動ができる。 小さくても、金銭的な価値を帯びていなくても、何かを作って残せるという発想の転換が、まちづくりの根本にあるのでは。
 
落合:今まで出た話、技術的にはWeb3で全て可能です。いろんなケースに対応できるように、拡張性を残して設計してきました。

Web3と企業の可能性

道家:企業がWeb3を活用してできることはなんでしょう?
 
落合:主に2点あうと思います。例えば地方で必要な取り組みに、スーパーの商品を村の郵便局に届けてもらう、ごみの資源循環などがありますよね。それらを付け替え可能なパーツとして自治体に情報提供し、予算をつけてもらう。「隣の村でこういう取り組みをしている。同じやり方で自分たちの村も誘致しよう」ということがあり得るでしょう。Web3を利用すれば、そういったことがより簡素化できるかもしれません。もう1つは、提案や発言ができるオブザーバーとしてWeb3を利用した自治に参加し、議論の流れを整えること
 
:これからの時代、企業がWeb3を使って自治体になる、ある地方の自治体を日建設計が担う、なんて世界もあり得ると思います。企業が持つ技術や資本力を、今までとは違うポジションで振る舞うことで、新しいシステムを作っていける可能性を感じます。自治体や国家というビジネスモデルは最強です。よい世界を作れば、みんなが税金を払ってくれる。企業がそのポジションまで行けるかっていう話な気がします。日建設計も、大企業ではなく、Web3上の1万人の個人から受託する日が来るかもしれません。
 
道家:まちづくりそのものを捉え直す可能性を議論できたことが、非常に大きな収穫でした。お2人ともありがとうございました。

<ゲストプロフィール>

林篤志 paramita共同代表 / Crypto Village共同代表 / Next Commons Labファウンダー
ポスト資本主義 社会を具現化するための社会OS「Local Coop」を展開する。自治体・企業・起業家など多様なセクターと 協業しながら、新たな社会システムの構築を目指す。新潟県長岡市山古志地域で2021年2月に始まった「デジタル住民票を兼ねたNFTの発行プロジェクト–NishikigoiNFT」もプロデュースする。


落合渉悟 大阪大学特任研究員 sg代表社員
ブロックチェーン開発者・研究者。大阪大学大学院情報科学研究科特任研究員。Cryptoeconomics Lab創業者。『マスタリング・イーサリアム ─ スマートコントラクトとDAppの構築』の技術監修を手がける。パブリックチェーンが社会に与える影響を遠く見通しな がら、多くのユニークなプロジェクトに知見や実装を提供している。


小松航樹
日建設計総合研究所 都市部門 研究員
専門分野は参加型まちづくり・コミュニティデザイン、都市経済・計量経済、情報システム・アプリケーション開発。技術・都市・人間の関係についての研究に携わる。

道家浩平
日建設計 都市社会基盤部門
都市開発グループ 都市開発部 プランナー

主に東京都心部の都市開発コンサルティング、地区計画策定、都市計画調査業務を担当しています。本業の傍ら、スマートシティ実現に向けた社内外の取り組みに携わる。


イベントは、2023年4月にオープンした、日建設計が運営する共創スペース“PYNT(ピント)”で開催されました。社会を共有財の視点で見つめ直し、思い描いた未来を社会に実装するオープンプラットフォームを目指しています。暮らしにある「違和感」を一人一人が関わることのできる共有財として捉え直すことで、よりよい未来を考えるみなさんと共同体を作りながら、イベント・展示・実験などを通して解像度を上げ、社会につなぐステップを歩みます。

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