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コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(下)

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*****令和5年7月23日(日)第161号*****
 
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コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(下)
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 【以下、本紙第160号「コロナ渦で、介護事業者を取り巻く環境は、どのように変化しているのか?(上)から続く】
 
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多くの地域包括支援センターは、相談件数の多さと、その対応に「手をこまねいている」
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 次に、地域包括支援センター(以下「センター」)がら見た「地域の状況」について説明したい=画像は東京都医師会HPより。黄色のラインマーカーは、弊紙による加工。まず、相談件数がものすごく増えている。特にコロナ渦は電話の件数が多かったが、来訪された件数も多かった。
 
 具体的には、あるセンターでは、令和3年度は8千件の相談があったが、その前年度(令和2年度)も6千件あった。これはどのセンターも同様の傾向だ。件数も多さもあるが、例えば「病気の問題」とか、単独の問題ではなく、複数の相談事項を抱えた事例が多い。
 
 その結果、これに応じるには職員の手間がかかるし、相談対応時間や期間もかかる。そのため、センターとしては「手をこまねいている」状態だ。さらに、相談内容をもう少し詳しくみると、コロナ渦の自粛で、フレイルや重度化が加速している。
 
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センターへの相談内容は経済問題等の「生活保護未満」の境界領域の内容が増加している
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 あるいは、初期の認知症であるMCIや、疾病(癌末期・精神疾患等)、経済的問題など「生活保護未満」の境界領域が増加している。さらに、長らく病院に行けなかったこと等もあり、ガン末期の相談件数が増加している。
 
 そして、施設に入所している家族に「久しぶりに会いに行こうか」となった時、新型コロナの5類移行後、家族が直接本人と会い、心身の変化に改めて気がついて、慌ててセンターへ相談に来るケースも増えている。
 
 また病院でも、コロナ渦では退院を止めていたが、退院が動き出し、退院に関わる在宅支援も増加傾向にある。これに伴い、当然ながら介護保険の申請とか、介護保険関連の相談、ケアマネの支援も並行して増加している。
 
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フレイル対策として、デイサービスと「ジム」の端境期にある「通いの場」が求められ…
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 それから一方で、コロナ渦の自粛生活の苦しさを経験したためか「これではまずい」と思ったお年寄りたちが「ボランティアに参加したい」とか「自分でも新規事業に取り組みたい」とか「就労したい」など、前向きな相談もある。
 
 結果的に、地域支援事業では、デイサービスに行くほどではないが、買い物ついでや仕事帰りに通える「時短フィットネスジム」(以下「ジム」) は「きつい」と感じているような、ちょうどフレイルとの間の「端境期」にいる方々が増えている。
 
 そういう方々向けの、気軽に運動ができる「通いの場」が今、求められている。また、介護予防プランの作成依頼も増加している。きつい言い方になるが、介護予防プランは、通常の介護保険のプランよりも単価が高くない。
 
 これはセンターが請け負って、どうしても受け入れることができないものを民間にお願いしているのだが、この数も増えてしまっている。センターには様々な事業があり、相談が寄せられる。
 
 特に、この介護予防のプラン作りに労力を取られてしまい、本来業務を圧迫している状況も生じている。そもそも単価が低いわけだから、ここはもう少し、人員増や事務作業の軽減が望まれる。そうしないと、現場が持たない。
 
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地元のドクターや一般市民を交え、サービスが必要な住民をその地域で支えることが重要
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 (センターでは)インフォーマルな(=公式ではない)サービスの充実化に向けて、生活支援コーディネーターとの連携が必須だが、この生活支援コーディネーターの姿が地域で見えて、地域をどのように「かき混ぜていくか」が課題だ。
 
 最後に、地域に設置された高齢者向けの「サロン」の維持について説明したい。サロン活動は、コロナ後におおむね再開して(コロナ後も存続できるのか)危惧していたが、意外と生き延びていて再開している。ただし、運営者の高齢化が進行して後継者がいない。
 
 このため「端境期」の方々の行き場がなくなってしまっている。これにより、サロン活動の事業の継承・運営にまでセンターが関与する必要性が出てきた。今までは、センターでは「(利用者をサロンへ)つなげれば良い」で終わっていた。
 
 しかし今後は「サロンをどうやってセンターが盛り立てて、経営を成り立たせるか」が大きな課題となっている。この点でもセンターの仕事が増えてきて(超高齢化社会に入って)これからが本番なのに、現場では「アップアップの状態」で、私は危惧している。
 
 これらは、コロナ渦の前からあった問題かも知れないが、それがコロナ渦で増してしまい、さらにコロナ渦で悪化した問題もある。これらの問題を少しずつ整理して「ウイズコロナ」「ポストコロナ」の時代に対応する必要がある。
 
 【※弊紙注=「ウイズコロナ」と「ポストコロナ」=「ウイズコロナ」は、感染拡大が続く新型コロナと共存・共生すること。「ポストコロナ」は、コロナ禍の後のことを指す。「アフターコロナ」と同意で使われることも多い
 
 この「超高齢化社会」の時代に、一昨年からセンターではサロン活動と、地域の支援事業、フレイルサポート活動にも力を入れている。また地域支援事業は、国内でも(活動状況に)バラつきがある。
 
 東京都医師会では、都内の区市町村単位でできる、包括的なフレイル対策の予算を、東京都に「包括的モデル事業」として予算要求している。これに、各地域の「地産地消のサービス」を組み合わせていくことが必要だ。
 
 そこにわれわれドクター等が入って、さらに一般市民も入って、サービスが必要な住民を、その地域で支えることが重要だ。
 
◇─[おわりに]───────────
 
 今回の記事を書いていて強く感じたのは「コロナ渦を経て、もともと余裕がなかった介護現場では、さらに余裕がなくなった」ということです。講演した平川副会長はその要因を、主に老健のデータを中心に、利用率の低下や職員の人材不足の点から説明しました。
 
 この傾向は、訪問系サービスでは異なるかも知れませんが、他の施設系サービスや通所系サービスでも当てはまるのではないかと思います。気になるのは、平川副会長が「人・モノ・金の全てが不足してきている。その原因は訳がわからない」と指摘している点です。
 
 前号の冒頭の「はじめに」で、弊紙発行人の母親が、通所サービスから帰宅して「職員の入れ替わりが激しくなった」とか「どうも、サービスの質が低下しているような気がする」等と話すようになったことをご紹介しました。
 
 個人的な見解ですが、その要因は施設に「余裕がなくなった」ことではないかと想像しています。施設側で、その原因が認識できていれば良いのですが、それが「わからない」と、ますます「負のスパイラル」に陥ることになります。
 
 本紙は介護事業者の方々から、記事に対して意見を寄せられるケースが多々あります。もし、本記事を介護事業者の方々が読んでいたらぜひ、直近で自らのサービス内容で変化したことがないか、チェックをしてもらいたいと思います。
 
 そしてぜひ、サービス利用者に「最近、何か気になった点はありませんか?」等と尋ねてもらいたいと思います。本紙のこれまでの取材経験で、わずかな「マイナス点」が「負のスパイラル」の入口となったケースをみてきました。
 
 また、本紙の主な読者である介護サービス利用者の方々も、これまで継続して利用してきたサービスが、今後もより良い形で持続できるよう、ぜひ身近な職員に「気になった点」を指摘してもらいたいと思います。
 
 新型コロナの感染症法上の位置づけは5類に移行したとはいえ、現在は「第9波」の感染拡大が懸念されている状況です。本紙では、介護サービス利用者と事業者の、相互の信頼関係を継続していくことこそが、最も重要な「コロナ対策」ではないかと考えます。
 
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