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「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(上)

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*****令和6年1月31日(水)第168号*****

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「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(上)
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◇─[はじめに]───────────

 元旦に発災した「能登半島地震」で、被災された多くの皆様に心からお見舞い申し上げます。誰しもが「まさか、元旦から」このような大災害が起きるとは思いもよらなかったでしょうが、約1ヶ月が経過した現在も多くの方々が避難生活を強いられています。

 そのような中、テレビや新聞の一般マスコミでは、被災地や避難所の様子をニュースとして伝えていますが「断水」や「停電」に悩まされている困難な状況は、心に強く響きます。

 それを承知の上で、弊紙発行人は「高齢者や、介護サービスを受けていた利用者は、避難所でどのような生活を送っているのか?」を知りたいと考えました。それを知るため、介護や医療の従事者が、現地で見聞きした「体験」を語っているサイトを探しました。

 そして、日本環境感染学会という医療従事者等の団体が、避難所等での衛生環境の指導のために医師を派遣して、その医師が現地の様子を語っている動画をホームページにアップしているのを見つけました。

 そこで、被災地の様子を語っている古宮(こみや)伸洋医師は、現地(輪島)に入り、その後に金沢への帰路で車の移動中に「絶望的な渋滞」に入ってしまい「かれこれ6時間くらい車の中にいる」状況の中で、学会の事務局からの取材に応じました。

 古宮医師は感染症の専門家として、避難所での衛生管理状態について現状を報告し、さらに改善点も指摘しています。この中で特に、トイレ周りの衛生環境の保持の重要性について述べています。

 さらに、避難所のゾーニング(感染症の病原体によって、汚染されている区域=汚染区域=と、汚染されていない区域=清潔区域=を区分けすること)の必要性にも言及しています。

 今回の「能登半島地震」の発災に関係なく、新型コロナと季節性インフルエンザは、現在「同時流行」の兆しを見せています。被災地の能登半島に住む高齢者の方々だけでなく、全国でこの「同時流行」に対する備えが必要な時期に入っています。

 そのなような状況で、今回本紙では「大震災が起きた時、避難所で高齢者が感染症にかからないために、どうしたら良いか?」を、古宮医師の「現地ルポ」を踏まえて考えてみたいと思いました。

 今回の「能登半島地震」のように、大災害はいつ起きるかわかりません。不幸にして、本紙の読者の皆さんがそのような状況に遭遇してしまった際に、また避難所に逃れるような事態に陥った時に、どのような行動を取れば良いのか──。

 今回の記事(2回連載)が、その参考の一助になれば幸いです。どうか最後まで、ご一読いただければ幸いです。

 日本介護新聞発行人

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 上記の「はじめに」にも記したように、今回の記事は日本環境感染学会がホームページにアップしている動画「感染症よもやま話・震災時の感染対策」の中から、本紙の読者の皆さんに参考になる部分のみを抜き出して、記事としてご紹介いたします。

 動画は発災から10日後の1月10日、現地の輪島市に赴いた古宮(こみや)伸洋医師が、金沢への帰路で渋滞にはまってしまい午後9時30分頃、その車中から学会の事務局の2人(笠原敬医師と山本剛医師)の質問に答える形で、進行しました=画像・日本環境感染学会HPの動画より

 また動画では、これをリアルタイムで視聴していた、主に医療関係者がコメントを寄せる形で古宮医師に質問も投げかけています。これらの点を踏まえ、今回の記事にお目通しを頂けますと幸いです。

 なお事務局の2人の医師は、どちらが古宮医師に質問を投げかけたか、動画では不明な点もあるため、質問側は「事務局」(=冒頭の□と▽印)、回答側は「古宮医師」(=冒頭の■と▼印)に分けました。

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「断水により、トイレ周りの衛生環境が維持できなくなり、ノロウイルスの発生が…」
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 □事務局=現地の活動状況は、いかがか?

 ■古宮=私はまだ(被災地に)来たばかりなので、全体像を把握している訳ではないが、今日は朝から輪島市内に赴いて避難所をいくつか確認させて頂いた。私は以前にも(東日本大震災等の)いくつかの災害で、避難所を訪問したことがある。

 ▼しかし(今回の輪島の避難所は)感染管理の面で、非常に厳しい環境にあると感じた。

 □事務局=それは、具体的にどのような状況なのか?

 ■古宮=一般的に、災害後には感染症が流行しやすい要素がいくつかある。一つは「人の密集」だ。狭い空間で人が密集することで、主に呼吸器感染症が流行しやすい状況が形成される。

 ▼もう一つは、ノロウイルスに代表されるような消化管感染症だ。その原因は主に「インフラの破壊」だ。「水が破壊される」(=断水)ことによって、清潔な環境が維持できなくなる。特にトイレ周りだ。トイレの衛生が維持できなくなり感染症が拡がる。

 ▼現地の避難所では、予定されていた収容人数を大幅に上回る避難者の方々が入られ、さらに水道が復旧していないので、トイレの排泄の処理に非常に苦慮しているのが実情だ。

 ▼さらに、現地ではインフルエンザ、新型コロナ、ノロウイルス、いずれの感染症も増加している。

 □事務局=(石川県のホームページ等で公表されている情報をみると)被災地では、断水している病院がかなりあるようだ。ここが本当に大変だと思う。この水については、水道の復旧がなかなか難しそうで、数ヶ月単位でかかると思われる。

 ▽古宮先生が行かれた輪島市では、避難所が166ヶ所に対して避難者が1万2千人、平均的には1避難所で100人くらい。七尾市は31ヶ所に対して2,100人と、いずれも結構な密度で人がいることになると思う。

 ▽つまり、狭いところにかなりの人数が避難されていると思われるが……。そもそも避難所は、小さいところなのか?

 ■古宮=避難所の規模は様々だ。おそらく皆さんが想像するような、大きな体育館のような数百人が収容できるところから、小さいところでは個人宅まで、本当に様々だ。公的に認められた「指定避難所」から小さなところまで、いくつもある。

 □事務局=今日(1月10日)は、古宮先生は何ヶ所周られたのか?

 ■古宮=今日は輪島市内で、特に感染症の発生が増加傾向にある避難所を3ヶ所を回った。いずれも医療的にアクセスの条件が良いところだ。他の医療チームの話しを聞くと「おそらく輪島市内で、把握できていない避難所が3割程度ある」とのことだった。

 ▼その「3割」は、車で行くことが難しい避難所になる。

 □事務局=具体的に、現場ではどのような(環境衛生上の)指導をされたのか?

 ■古宮=(この日に古宮医師が訪れた避難所は)いずれも大きなところだったので、医療関係者の皆さんもいらっしゃったので聞き取りと、施設の管理者の方に案内してもらい避難所の内部、例えばトイレ周りとか室内の状況を確認した。

 □事務局=その中でも、避難所のトイレ周りの状況はどうか?

 ■古宮=断水の影響で、通常通りには使用できていない。ふだん使っているトイレにビニール袋を入れて、そこに排泄する。そして排泄ごとに、そのビニール袋を本人が袋の口を結んで、1ヶ所にまとめて捨てている。このスタイルのトイレが一番多かった。

 ▼徐々に、工事現場等で利用されている仮設のトイレを、グランドの端などに設置し始めている。また屋内で使用する簡易型トイレも、少しずつ拡がりつつある。

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「東日本大震災当時とは比較にならないくらい、避難所ではゾーニングが出来ている」
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 □事務局=避難所の室内の状況で、ゾーニング(=建物の空間を機能や用途別にまとめて、効率的に配置すること)は? 具体的には、発熱者とかコロナやインフルエンザに感染された方がいらっしゃる中で、ゾーニングは出来ているのか?

 ■古宮=これまでに入られた医療チームの皆さん、避難所で活動されている保健師の方々がかなり努力されているので、ゾーニングはかなり意識されてやっておられると、私は感じた。

 ▼例えば、東日本大震災の時と比べると(この震災の後に)コロナを経験されて、保健所でも感染症に対応する機会が増えた。10年前は(これらの関係者ですら)「ゾーニング? なんですか、それは?」という感じだったが、今は「共通言語」になっている。

 ▼今はかなり、このゾーニングを意識して(現地の関係者は)避難所の運営に当たられている。

 □事務局=そういう意味では、コロナを経験したことで、呼吸器感染症に関しては理解や対応はスムーズに出来ている、といった感じか?

 ■古宮=以前(東日本大震災当時)とは比べものにならないくらいだ。こちらで説明したことが「共通言語」として受け入れられている。以前の「何、それ?」から「そうですよね。どのように工夫すれば、コレが出来ますか?」といった議論が出来ている。

 ※【以下「能登半島地震」の避難所は高齢者にとって、衛生面でどのような環境下にあるのか?(下)」に続く】

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