書評「Date of DATE 伊達公子の日」

大坂なおみさんが、2018年の全米オープン、2019年の全豪オープンとグランドスラム2大会連続優勝という快挙を成し遂げ、2019年1月28日時点で世界ランキング1位になりました。

大坂選手の前に、世界ランキングトップ10に入った選手といえば、伊達公子さんです。世界ランキングは最高4位。グランドスラムの優勝も現実味を帯びてきた26歳の時、突如引退を発表。鮮烈な印象を残しました。

そして、2008年。伊達公子さんは突如12年ぶりに現役に復帰します。この時、伊達さんは38歳。僕は伊達さんの現役の頃にプレーしていた姿や、ピリピリした姿を映像で見ていたので、復帰したことに本当に驚きました。そして、年齢のことを考えると、プロとしてレベルの高い大会に出場することは難しいだろう。そう考えていました。

僕は、伊達公子さんという選手のことを甘く見ていました。

WTAツアーに優勝、グランドスラムに出場し、2010年の全仏オープンでは、当時世界ランキング9位だったサフィナに逆転勝ち。2011年のウィンブルドンでは、ビーナス・ウィリアムズとセンターコートで3時間以上にもおよぶ激闘を繰り広げます。そして、2013年のウィンブルドンでは3回戦進出。年齢を感じさせないプレーは、多くの人々を驚かせました。まさか、こんなに凄いプレーをするとは思いませんでした。

しかし、誰にでも加齢による衰えは、等しく訪れます。伊達さんも例外ではありません。2014年以降は怪我に苦しみ、2016年には2度の手術。そして、2017年に2度目の現役引退。実は1度目の引退より、2度目の引退までのほうが、長くプレーしたことになります。

前置きが長くなりましたが、本書「Date of DATE 伊達公子の日」は、現役復帰の経緯、復帰後に何を考えていたのかについて、伊達さんのブログと、金子達仁さんによるノンフィクションとインタビューによって構成した書籍です。

世界4位に導いた「killer insinct」

僕が本書で印象に残ったのは、伊達さんのトレーナーが語っていた「killer instinct」という言葉です。

killer instinctは直訳すると、「殺し屋の本能」という意味です。伊達さんは、様々なものを捨て、自分にとって大切なものに集中し、絶対に負けを許さない。そんな覚悟でプレーしていたのだと思います。今でも伊達さんが若い頃にミスをすると「あー!もうっっっ!!!」と叫んでいた姿が思い出されます。友人にも、身体の大きい相手にも、声の大きな相手にも、技術がある相手にも負けたくない。そんな「殺し屋の本能」は、どうやったら身につくのでしょうか。

そんな伊達さんでも、1度目の引退の頃には「このままでは世界のトップには立てない」と感じたのだそうです。

すべてを捨てても立てない世界のトップとは、どんな世界なのか。そして、伊達さんが立てなかった頂きに立った大坂なおみさんは、どう感じているのでしょうか。

一人の女性として

もう一つ印象に残ったのは、テニスプレイヤーではなく、一人の女性としての伊達公子さんの姿です。

特になかなか子供を授からず、不妊治療を続ける姿は、killer instinctを備え、相手選手を恐れさせた姿とは全く異なり、多くの女性が悩むことでもあります。不妊治療を続ける中で生じたパートナーとの意見の相違、そして、離婚。

本書を読み終えて、伊達さんの魅力は、他の人にはできないことと、他の人と同じことのギャップの大きさにあるような気がしました。そのギャップの大きさが、誰もが魅了される素晴らしい笑顔に現れるのだと思います。

そして、伊達さんの本なのに、読み終えてから大坂なおみさんのことを考えました。急激に成長し、世界ランク1位に登り詰めた選手は、何を考えているのか。伊達さんが1度目の引退の時にかかえていた悩みに近い悩みを抱えてはいないか。そんなことを考えてしまいました。





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