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特許法 判例 知財高判平成24年2月29日(平成23年(行ケ)第10127号)

 この判例では、国内優先権主張の効果が認められるか否かの判断基準が示されました(判決文全文)。

 基礎となった出願の明細書等と、優先権主張を伴う出願の明細書等の間に、発明のポイントに関連する相違点がある場合、その相違点については優先権主張の効果は及びません。

 具体的には、優先権の基礎となる出願では、クランプロッド下摺動部分の外周面を展開した状態における螺旋溝に傾斜角度を付けることまでは開示されていますが、その具体的な傾斜角度までは開示されていませんでした。
このため、この傾斜角度の具体的範囲を限定した請求項については優先権主張の効果は認められませんでした。一方、この傾斜角度の具体的範囲を限定していない請求項については、優先権主張の効果が認められています

・・・平成13年11月13日にされた特許出願(第1基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先1,甲16)にも,平成13年12月18日にされた特許出願(第2基礎出願)に係る明細書(図面を含む。優先2,甲17)にも,平成14年4月3日にされた特許出願(第3基礎出願)に係る明細書3(図面を含む。優先3,甲18)にも,クランプロッド5の下摺動部分12に4つのガイド溝を設けることを前提に,下摺動部分12の外周面を展開した状態における螺旋溝27(旋回溝)に傾斜角度を付けることは開示されているものの(例えば甲16の段落【0016】,図2),傾斜角度の具体的範囲については記載も示唆もされていない。本件発明3の構成のうち,「その旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定した,」との構成すなわち第2摺動部分(12)の外周面を展開した状態における上記の旋回溝(27)の傾斜角度(A)を10度から30度の範囲内に設定したとの構成(発明特定事項)については,平成14年法律第24号特許法等の一部を改正する法律附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものでないから,本件発明3についての特許法29条の規定の適用については,優先権主張の利益を享受できず,現実の出願日である平成14年10月10日を基準として発明の新規性を判断すべきである。
・・・しかしながら,本件発明3にいう「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との限定(発明特定事項)は,具体的な数値範囲を限定するものであるところ,基礎出願に係る各明細書添付の図2は,寸法や角度等の数値が一切記載されておらず,左右の端を合わせても一つの円筒としてきれいに繋がるものではないことからも明らかなとおり,ガイド溝の構造を示すために用いられる模式図にすぎず,これから傾斜角度の具体的な数値範囲を読み取ることはできない。また,本件発明3のクランプ装置のようなクランプ装置において,クランプロッドの旋回動作をガイドするガイド溝の傾斜角度を従来のクランプ装置におけるそれより小さくすると「10度から30度の範囲に」なるとの当業者の一般的技術常識を認めるに足りる証拠はない。そうすると,原告の上記主張を採用することはできない。
・・・そうすると,本件発明1,2では,ガイド溝の傾斜角度に関する特定はされていないから,上記傾斜角度に関する本件発明3の発明特定事項である「傾斜角度を10度から30度の範囲にした」との事項が第1ないし第3基礎出願に係る明細書(図面を含む。)で開示されていないからといって,本件発明1,2が上記事項を発明特定事項として含む形で特定されて出願され,特許登録されたことになるものではない。この理は,例えば請求項3(本件発明3)が特許請求の範囲の記載から削除された場合を想定すれば,より明らかである。したがって,本件発明1,2(請求項1,2)の特許請求の範囲の記載に照らせば,旧特許法41条1項にいう先の出願「の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明に基づ」いて特許出願されたものといい得るから,本件発明1,2については原告が優先権主張の効果を享受できなくなるいわれはなく,特許法29条の規定の適用につき,最先の優先日(平成13年11月13日,第1基礎出願の出願日)を基準として差し支えない。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/044/082044_hanrei.pdf

●判決文全文   https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/044/082044_hanrei.pdf

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