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角倉 円佳/マドリン

法人名/農園名:株式会社マドリン
農園所在地:北海道広尾郡広尾町    
就農年数:17年
生産品目:酪農
HP:https://mowmow-madelyn.com/

no158

酪農・畜産女性の仲間作りを通じて、男性と対等な関係を!

■プロフィール

 新規就農で牧場を立ち上げた両親を持ち、子供の頃から牛舎の手伝いをしていたが、中学・高校時代は、酪農家にはなりたくないと思って育った。

 帯広緑陽高校時代、友人の家庭を見るうちに将来は母親のように働く女性になりたいと志すようになる。帯広畜産大学別科(2年制)を修了後、カナダ・ケベック州に渡り、2年半にわたって牧場研修を続けるなかで、女性経営者と強い信頼関係を育む。

 2005年12月の帰国後は、実家に就職し、乳牛250頭の搾乳を担当。2007年、独立就農を決意し、株式会社マドリンを設立。24歳で30頭の繁殖牛を導入し、分娩から搾乳まで自分1人で手がけることに喜びを感じる。

 2012年には畜産・酪農に携わる女性の仲間や情報交換の場を作りたいと、「SAKURA会」を結成。仕事やプライベートの相談、地域社会の人間関係の悩みなどを共有できる仲間が増えた。

 2015年、施設の老朽化に伴って現在地に移転し、搾乳牛を60頭に増加。2017年には道内各地の酪農女性を集めた酪農女性サミットを開催(〜2019年には全国規模に拡大)。

 2018年には、全国酪農業協同組合連合会(全酪連)の青年女性酪農発表大会で最優秀賞受賞。2019年、農水省の食料・農業・農村政策審議会委員に就任。

 2020年、優れた農業経営者が選ばれる「北海道農業士」に認定。同年、FM帯広で「とかちウーマンフロンティア」をスタート。2021年には北海道女性・高齢者チャレンジ活動表彰事業の最優秀賞受賞。同年から、大学生や高校生などを受け入れて、酪農実習を経験してもらう取り組みに力を入れている。

■農業を職業にした理由

 帯広畜産大学の酪農コース(2年制)を卒業後、学び足りず、ワーキング・ホリデー制度を利用して、カナダ・ケベック州で酪農研修を受ける。

 牧場主の家族と過ごした2年半で、男性と対等に働く女性経営者に理想を見出すとともに、カナダでは非農家であっても幅広い世代で酪農に触れる機会が多いことを知って衝撃を受ける。

 帰国後は父親の牧場で250頭の搾乳や子牛の世話を担当していたが、ヨーネ病の発生により、第2牧場の計画が持ち上がった2007年に独立。乳牛の導入やライフサイクルを決定できる立場にやりがいを感じながらも、「24歳の娘が牧場経営なんてできるわけない」「結婚したら、すぐ辞めるだろう」という周囲の声に落ち込むこともしばしばだった。

 相談相手だった父から、ある日「何でも俺に頼るな!」と突き放されたことで奮起し、それからは孤軍奮闘を続けてきたが、同じような悩みを持つ女性酪農家同士で温泉旅行を企画したことがきっかけとなって、2012年、「SAKURA会」を結成。

 その後、獣医や酪農ヘルパー、人工授精師など、酪農・畜産業を中心に、農業に関わる仲間が増えた。2019年には全国規模の「酪農女性サミット」を開催し、2020年からは、酪農や農業の魅力を伝えるFMラジオ番組がスタートするなど、現在進行形で活動の幅が拡大中だ。

■農業の魅力とは

 乳牛が「絞って!」と近寄ってくる搾乳時間が私にとってのリラックスタイムです。

 酪農の仕事は、毎日同じことの繰り返しに見えますが、1頭ごとのわずかな変化に気づくことで健康が保たれ、生活が成り立っています。

 カナダから帰国後、実家の牧場でも搾乳を担当しましたが、独立して、自分の牧場を持ったことで、生まれた子牛が成長して母牛になり、生涯を終えるその日まで、牛のライフサイクルを自分が決定できることにやりがいを感じています。

 2021年には、独立当時に生まれた「マフィーユ」が13歳で役目を終えましたが、その子のひ孫が数日後に生まれた時は、命をつなげることの価値を感じました。

 酪農の仕事に対して、日本では「休みもないし稼げない3K」と思われていますが、カナダでは「牧場を持っているなんてカッコいい!」と正反対の評価なんです。今の私を作ったのは、カナダでの経験が大きく、視野を広く持つ重要性を学びました。

 酪農家に嫁いだ女性は、外部の人と交流する機会が少なく、同じように働いて家事や子育てもこなしているのに、夫や義父に比べて発言権や決定権がありません。「SAKURA会」は、そういった女性たちが悩みを共有したり、一緒に考えたりできる場所にしたいと結成したグループで、今では農業に関係するさまざまな仕事をしている女性が参加しています。

 それとは別に、飼料や燃料などが値上がりする一方、飲用の乳価がすえおかれ、生乳を廃棄しなければならない状況下で、なんとか一般の消費者に牛乳の魅力や酪農の仕事を知ってもらおうと、広尾町の酪農家の女性グループ「豊栄会」に参加して、小中学校で人形劇や紙芝居の食育活動をやったり、北海道大学の学生と交流イベントなどにも力を入れて、一般の人たちが考える酪農のイメージを少しでも変えたいと思っています。

■今後の展望

 農家や酪農家と結婚した女性の多くが、夫の手伝いという立場に甘んじていますが、農業経営には女性ならではの視点や感覚がプラスに働く部分が多いと思っています。

 そこで、疑問や無駄だと思うことに対しては、女性でも男性と対等に意見できるよう、日ごろから経営や管理について勉強する必要があると思います。

 私の牧場では、2021年から大学生や高校生をはじめ、ワーキングホリデーを利用した社会人などを酪農研修として受け入れています。彼らを単なるお手伝いとして扱うのではなく、仕事として主体的に取り組んでほしいと思っているので、短い期間とはいえ、さまざまな教えを通じて、酪農の魅力を伝えています。

 アルバイトならば時間内に作業をこなすだけですが、例えば、「この牛とあの牛は同じ母親から生まれた姉妹」だとか、個体ごとのクセを教えることで、ミルカー(搾乳機)の付け方を変えたり、私がやっている行動の全てに意味があることを教えることで、搾乳の仕事を理解してもらっています。

 こういった活動の源には、消費者に牛乳をもっと飲んでほしいという気持ちが込められています。私たち1人1人ができることは限られていますが、消費者に牛乳を飲んでもらうよう働きかけることは生産者でもできるのです。

 コロナの感染拡大で学校給食が中止になった期間が長く続きましたが、この値段で、これだけ栄養価の豊富な飲み物は他にありません。

 私が住む広尾町にも、大手乳製品メーカーの加工場がありますが、作っているのはチーズが中心です。まずは地元の人たちに酪農の素晴らしさを知ってもらいたいと思っています。

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