『アウシュヴィッツのタトゥー係』ヘザー・モリス(著)金原瑞人(訳)笹山裕子(訳)
イギリスで130万部、全世界で300万部を突破したベストセラー、待望の翻訳。第二次世界大戦下のアウシュヴィッツで同胞に鑑識番号を刺青する役目を割り当てられたユダヤ人の男がその列に並んでいた女性と恋に落ちて「絶対に二人で生きてここを出る」と心を決め、あまりに非人間的な日常の中でささやかな人間らしさと尊厳を守り抜くために重ねた苦闘と誓いの物語。「タトゥー係」本人の証言による実話に基づく。
1日で一気読み。アウシュヴィッツでラブ・ストーリーとは斬新だな、と楽しく読んでいたら、まさかの実話!
主人公は最高に優しくて強かで要領が良い。そもそも無条件に人を助けるほど善良。その業が回り回って、比較的楽で安全なタトゥー係になる幸運につながる。助けられた人が命をかけてラリを助ける。そしてラリはまた他の人を助ける。アウシュヴィッツという極限でなされる善意の連鎖。
さらにラリは、外から働きに来る人から食糧を買い付け、ユダヤ人達に施したりする。さぞモッテモテだったろう。そんな男が一人の女性に一目惚れし、彼女だけを愛し励ます所が健気でさらに良い。
しかし当然アウシュヴィッツなので、エグい行為もガンガン出てくる。こけただけで銃殺されるし、医者には遊びで睾丸を切り取られる。そんな悪夢以下の世界で、ラリはそれらの悪意をなんとか躱し、紙一重で生きてゆく。あまりにピンチが続くので、読む方もかなりハラハラする。
さらに、ふと油断すると絶望と恐怖が追いついてくる。なぜ自分はこんな目にあっているのか。発狂しそうになるプレッシャーを希望だけで跳ね除けてゆく姿が本当に格好良かった。
また、アウシュヴィッツが開放され、トンチを利かして逃げ出す場面は最高に笑えた。ラリの胆力には唸るばかりだ。
終章で、ラリとギタの笑顔の写真を目にすると、今まで読んでいた辛い話が事実だとは信じられないほど幸福そうで、涙がこみ上げてくる。嫌なユダヤ人もいただろうし、ナチスからは、もっと非道い仕打ちも受けただろうが、そういう事にはあまり触れられず、軽く読ませてくれる。実に素晴らしい小説だった。
読後、果たして自分がこの状態になった時、生き残れるだろうか、と考えさせられる。秒で死ぬだろう。
別件で衝撃だったのは、アウシュヴィッツで日曜日が休日だったこと。日曜だけはユダヤ人達は重作業から開放される。(タトゥー係は人が移送されれば駆り出されるけど)
なので、7連勤とかしてる人は「アウシュヴィッツでさえ日曜は休みなのに!」って言ったらいいと思う。
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