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(ほぼ)毎日更新ブックレビュー【ふくほん】野中幸宏選02

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講談社BOOK倶楽部のブックレビュー「ふくほん(福本)」に掲載された野中幸宏レビュー分をまとめています。
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記事一覧

国内に格差を作り〝周辺化〟しようとしているさまざま動きの中で──水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』

国内に格差を作り〝周辺化〟しようとしているさまざま動きの中で──水野和夫・大澤真幸『資本主義という謎 「成長なき時代」をどう生きるか』



この本の末尾で水野さんはこう記しています。

「政治は何をすべきでしょうか。イリイチの言葉を敷衍すると、「未来の制度設計をする」ことだと思います。その際に(略)『春秋左氏伝』が参考になります。「国が興るときは、民を負傷者のように大切に扱う。これが国の福です。国が亡びるときは、民を土芥のように粗末に扱う。これが国の禍です」。(略)日本で、現在「民」は大切に扱われているとはまったく思えません。新自

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自己保身・自己肥大に走る行政権力へのチェックをし続ける必要があるのです──周防正行『それでもボクは会議で闘う』

自己保身・自己肥大に走る行政権力へのチェックをし続ける必要があるのです──周防正行『それでもボクは会議で闘う』



周防さんたいへんごくろうさまでした、そして普段私たちが目にすることのない委員会、審議会というものの内実を明らかにしてくれてありがとうございます、というのがまず頭に浮かびました。この本は法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」(メンバーはhttp://www.moj.go.jp/content/000122717.pdfでわかります)に参加した周防監督の苦闘の日々を綴ったものです。周防さんが委

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「新・帝国主義の時代」、私たちはこの現在にどのように立ち向かえばいいのでしょうか……──佐藤優『世界史の極意』

「新・帝国主義の時代」、私たちはこの現在にどのように立ち向かえばいいのでしょうか……──佐藤優『世界史の極意』



佐藤さんの恩師である藤代泰三先生の言葉が後書きで紹介されています。

「他人の気持ちになって考えること、他人の体験を追体験することを、どれだけ繰り返すで、歴史理解の深さが変わってきます。そして、歴史を類比として理解するのです」
この本は佐藤さんのこの師への恩返しのように思えました。

「いま自分が置かれている状況を、別の時代、別の場所に生じた別の状況との類比にもとづいて理解する」ことの重要性を

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だれが、どの国がユーロを支配しているのか!?──エマニュエル・トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』

だれが、どの国がユーロを支配しているのか!?──エマニュエル・トッド『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告』



〝ドイツ帝国〟といって怪訝な顔をする人がどのくらいいるでしょうか。もちろんあの悪名高い第三帝国の後を継いだものではありません。けれどヨーロッパの金融帝国として出現した〝帝国〟だというと、そうかもしれないと納得される人も多いのではないでしょうか。とりわけ近年のギリシャ問題でイニシャティブをとっているのがドイツだということを思い返すと……。

「人は政府債務というものをたいてい借りる側に目つけて眺

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「言論の自由が、人びとの自由を保証し、前進させる、いちばん根本的な自由になるのです」──橋爪大三郎『面白くて眠れなくなる社会学』

「言論の自由が、人びとの自由を保証し、前進させる、いちばん根本的な自由になるのです」──橋爪大三郎『面白くて眠れなくなる社会学』



「その昔、社会学の教科書を、ひと通り読みました。私には使えない言葉が並んでいました。そこで、そういう言葉を使うのはやめ、自分で納得した言葉だけを集めて磨き、自分の社会学をいちから築くことにしました」

橋爪さんのこの言葉がジーンと浸みてくる一冊です。
〝言語〟から始まり〝幸福〟で終わる16編の項目、いえ項目というよりテーマが、人間というもの、人間が背負わざるをえない社会というものの不可思議さを

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混乱した非常時が抱かせる〝強さ〟や〝英雄待望〟こそがファシズムの誕生を促すものなのです──片山杜秀『国の死に方』

混乱した非常時が抱かせる〝強さ〟や〝英雄待望〟こそがファシズムの誕生を促すものなのです──片山杜秀『国の死に方』



「政治的判断能力なき大衆が気分で投票しては、そのあとの展開があまりに選挙時の話と違うので当惑し、次の選挙で怒りをぶちまけようとする。しかし相変わらず判断能力は劣ったままなので、選挙を重ねれば重ねるほど、国のかたちが狂ってゆく」

このような片山さんの一文にドキリとしますが、この文はこう結ばれています。
「それが昭和初期だった」
と……。けれど現在の日本により当てはまっているように感じてしまいま

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「匿名という壁の陰に隠れ、ネットに下劣で愚劣な書き込みを繰り返すような人間に、言論や表現の自由という崇高な権利で守られるべき正義は一ミリたりともない」──青木理『抵抗の拠点から』

「匿名という壁の陰に隠れ、ネットに下劣で愚劣な書き込みを繰り返すような人間に、言論や表現の自由という崇高な権利で守られるべき正義は一ミリたりともない」──青木理『抵抗の拠点から』



木村社長を退任へと追い込んだ朝日新聞誤報騒動(従軍慰安婦をめぐる誤報と福島第一原発所長だった故・吉田昌夫さんの調書報道)から半年が経ちました。この事件はいったい何だったのか、改めて冷静に考えさせるものに出会いました。

誤報は正されなければなりません。報道として当然のことです。
「信用性が乏しいと判断したなら訂正せねばならず、それが「遅きに失した」のは難じられても仕方ない」のは確かです。
けれ

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「民主主義の権利を反民主的なやり方で利用している」ナチズムの本質を見抜いた男の悲劇──ジャック・エル=ハイ『ナチスと精神分析官』

「民主主義の権利を反民主的なやり方で利用している」ナチズムの本質を見抜いた男の悲劇──ジャック・エル=ハイ『ナチスと精神分析官』



1945年8月4日、精神科医であるダグラス・マクグラシャン・ケリー少佐にある辞令がおりました。それはニュルンベルク裁判の公判に逮捕されたナチスの高官が出廷できる状態にあるかを診断せよというものでした。野心家だったケリーはその役目に積極的に関わっていきます。

「彼はナチの指導者に共通する欠点──みずから悪行に手を染める意志──の目印をつきとめたいと思って収容所にやってきた」のです。「憎むべき悪

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「することができる」という力の思想の呪縛を離れていくことが必要なのです──加藤典洋『人類が永遠に続くのではないとしたら』

「することができる」という力の思想の呪縛を離れていくことが必要なのです──加藤典洋『人類が永遠に続くのではないとしたら』



地球(資源)の有限性はしばしば言われています。希少性とその配分とまで広げて言えば、それは経済学のテーマです。けれどこの希少性の配分ということはその実、有限性の認識とは大きく異なっているものだと思います。ここには経済行為によって持続性(永遠性)が前提とされてるからです。功利性・有用性・有効性、それは持続的な行為を生み出し、ひいては成長ということにつながっていくのです。

「技術革新とは、産業社会

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「沖縄や原発は、危険と犠牲を『僻地』に押しつける、という差別構造で一致している」──鎌田慧『反国家のちから』

「沖縄や原発は、危険と犠牲を『僻地』に押しつける、という差別構造で一致している」──鎌田慧『反国家のちから』



「本土の国会議員は、沖縄の問題を自分の問題としては考えてくれません。民主主義の名において沖縄が差別される構造ができている。「構造的差別」という言葉が、最近、沖縄の新聞ではキーワードとして使われています」

大田昌秀元沖縄県知事が鎌田さんに語った言葉です。さらに続けて
「沖縄ほど憲法と縁のない県はどこにもありません。大日本国憲法が作られた時も、今の平和憲法が作られた時も、沖縄代表の国会議員は一人

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凄絶な戦争体験がもたらした「生きもの感覚」、そこから見えてくる死の世界とは……──金子兜太『他界』

凄絶な戦争体験がもたらした「生きもの感覚」、そこから見えてくる死の世界とは……──金子兜太『他界』



前著『荒凡夫 一茶』で「私は〈荒〉を〈自由〉という意味に取りたい。つまり〈荒凡夫〉とは、平凡で自由な男、平凡で自由な人間のことだ、と思っています」 と書き、さらにすすんで一茶の中に「人間も小動物も変わりがないという〈生きものかんかく〉」を見出した金子さんの「生きもの感覚」について記したさらなる一歩がこの本だと思います。

「生きもの感覚」の背景には金子さんの凄絶な戦争体験がありました。トラック

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「何かのために生きるのではなく、今生きていること、それ自体に感謝する」ことを求めて──上野誠『日本人にとって聖なるものとは何か』

「何かのために生きるのではなく、今生きていること、それ自体に感謝する」ことを求めて──上野誠『日本人にとって聖なるものとは何か』



〈神〉という言葉を使うから誤解と混乱が生じるのかもしれません、そんなことを考えさせる本でした。

日本の〈神〉は造物主である一神教の神とも、ギリシャ・ローマ的な多神教とも違っています。汎神論、アニミズムというものに一番近いのかもしれません。
それは「とめどなく生まれ出ずる神々」なのです。
では、私たちは、私たちの中に、また周囲にそのような神々を感じ取ることができるのでしょうか。これが上野さんの

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近代人・信長はいつ誕生したのか? 新しい信長像と〈天下〉の意味を追う──金子拓『織田信長〈天下人〉の実像』

近代人・信長はいつ誕生したのか? 新しい信長像と〈天下〉の意味を追う──金子拓『織田信長〈天下人〉の実像』



〈天下布武〉というのは織田信長の代名詞ですが、信長が考えていた〈天下〉とはいったい何だったのか、という問いからこの本は始まります。

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康とこの3人の流れで歴史を見ていると、〈天下〉とは全国のことであり、〈天下布武〉とは武力(実力)による全国統一のことだとだと思ってしまいます。
けれどこれはあるいは結果から見た歴史の見方なのかもしれません。秀吉、家康の先行者としての信長

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リスペクト(敬意)、コンパッション(共感)のない議論を横行させてはならないのです──三浦瑠麗『日本に絶望している人のための政治入門』

リスペクト(敬意)、コンパッション(共感)のない議論を横行させてはならないのです──三浦瑠麗『日本に絶望している人のための政治入門』



「個人に着目した投票における最大のポイントは候補者個人への信頼感であり、これを日本の政治風土に忠実に表現すると「ちゃんとしている」ということになるのではないでしょうか」

「日本における、ちゃんとしていることの内実は何かということですが、これは実に曖昧模糊とした概念です。日本の政治風土と社会的な空気の集大成的のようなものです。(略)第一に個人としての信頼感であり、リーダーとしての器であり、有権

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