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『きみはいい子』(中脇初枝 ポプラ社)




「今振り上げたこの手が、一時間前にはあの本を読んでいたのではなかったか。」


子供は天使じゃない。大人も神様じゃない。でも人間だから、支え合い、差し伸べて、抱きしめる手を持っているのではないのか。

どこにでもあるような新興住宅地を舞台に、子供たちとその周囲にいる大人の姿を描いた五篇の連作短篇集。

テーマは、児童虐待。淡々とした筆致で、日常を紡ぐように、悲しい現実に晒される子供、また晒された過去を持つ大人を描いたこの作品は、心温まる救いを用意してはくれない。

重く、苦しい物語だ。それでも一人でも多くの方におすすめしたい。この作品が、きっと誰かを救うと信じている。物語の中の悲しみが、現実を変えていく力になりうると信じている。私があの時、振り上げた手を下ろしたように。


(本屋大賞投票推薦文より)
『きみはいい子』(中脇初枝 ポプラ社)

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