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「”リスクを避けるリスク”にビンビンに興奮している日本人」仮説〜あるいは地域活動の担い手である自営業者がなぜ減るのか問題

 地域課題の解決において、地域の中小企業の貢献が期待されている。例えば中小企業庁は、住民アンケート調査から、こうした課題の解決に対する小規模事業者などへの期待について確認している。

 これによると、住民に対して、地域課題の解決に当たり、中心的な役割を担うことが期待される者を確認した。これを見ると、「地域内の小規模事業者」に期待する住民は多く、特に最も人口密度が低い「区分1」では、「地方自治体(警察・消防を含む)」、「公的支援機関(商工会・商工会議所等)」を上回る回答割合となっていることが分かる。

 なんらかの専門性を持つ事業者がその専門性を生かしてボランタリーに活動することは、プロボノと呼ばれる。不動産事業者のプロボノというと、例えば空き家対策事業などがよく知られていて、山形県のつるおかランドバンクでは、中心市街地の空洞化をおこしている居住地域を活性化させ、元気な街にさせていく事を目的として、不動産に関わる有資格者の専門家が集合して対応する「プロボノ」のNPO法人であると説明している。

 しかしながら、地域団体における人手不足とは、専門性を生かした貢献というよりも、単純に労働力が不足している場合があり、プロボノではこの不足を直接的には解決できない。例えば東京都では活動の担い手不足に陥る自治会、町内会にプロボノ人材を派遣するプロジェクトを実施している。ではどのような支援を実施したのか、というと、業務の棚卸し・運営体制改善提案、マーケティング基礎調査(住民の意識調査・改善提案)、防災体制の課題整理・見える化の提案、イベント企画立案・フロー整理、課題の見える化・解決策の提案といったものである。

 これらはまさに専門性を生かした貢献の仕方ではある。ここでプロボノによって提供された大勢改善提案や課題の見える化などが、業務量に対する労働力を節約し、間接的に労働力不足を補う場合はあるかもしれない。だが、自治会の労働力不足を解決できているわけではない。どんなに良い提案があっても、労働力が決定的に不足している場合、その提案を実行することさえできない。

 ところで、地域団体が担っている大きな役割の一つに、「親睦機能」がある。親睦機能とは、地域住民の親密な関係を形成、維持していく営みだ。この役割は地域団体の代表格でもある町内会にとっても中心的なミッションであると自己認識されているようで、町内会の立地や歴史によって差はあるが、都市部の新しい町内会では実に70%が、自分たちの役割は親睦であると認識している。

 町内会にとって親睦とはサービスのコアであると同時に、リクルーティングのコアでもある。町内会の労働力不足によって親睦機能を発揮できなくなることでますます労働力の調達が難しくなるというサイクルがあり得る。そうして地域の親睦が調達できなかったことで生じる不利益は、単に町内会という地域組織だけでなく、地域住民全体が被るものとなる。地域住民同士の対人不安を高めたり、防犯や防災といった共助の調達コストを高めたりする。

 もちろん、地域団体そのものに労働力を補填せずとも、地域団体が担っている役割の一部を代替するという関わり方もあるだろう。例えば企業が地域住民同士の親睦をはかれるような取り組みを行う例は複数報告されている。これらの営みを、坂倉京介らは「コミュニティマネジメント」と呼んでいる。

 地域団体ではなく企業がコミュニティマネジメントを行っているものでいえば、例えば京都市伏見区の不動産会社プラスホームでは、事務所を私設公民館として地域住民向けの集会に提供することで、地域の親睦調達機能の一部を担っている。そしてこの活動は町内会などに特に関わって行われているわけではなく、あくまで一事業者の判断で行われているということが明らかになっている。

 もっとも、ワーカブルな地域団体は役員の多くが地元の自営業者であるケースが目立つことが経験的に知られており、その意味では事業者が事業者の名前で行うか、連帯して地域団体の名前で行うか、というだけの違いでしかない、といえばそうなのかもしれない。

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