見出し画像

「彼女は頭が悪いから」を読んで思いだした元カレと私の大学受験

私の大学受験での第一志望はトーダイだった。
トーダイブンイチ。
センターで足切られなかったという一定水準は確かに超えていたけど、いや結果落ちてるんで。
それでも「うおお、すげー!!」という反応をされる。
いや落ちてるんで。受験しただけなんで。

私が東大を受験したこととは無関係に、大学時代に3カ月だけ東大生の彼氏がいた。
無関係に、とは書いたが、たぶん彼にとっては無関係ではなかった。
同じ東大生の女子は彼女にする気がないが、俺の彼女があまりにバカでは困る。東大を受験するくらいの学力はあって、でも実際はMARCHの法学部に通っている。
うん、実にちょうどいいよね。改めて振り返ってもそう思う。
その彼と結婚したらお金には3代先まで困らなかっただろうし地位みたいなものも確固たるものだった。
広尾に住んで普段のお買い物は明治屋で、みたいなことは願えばきっと叶った。
たった3ヶ月でもそれを実感するには十分なお付き合いだった。

一緒に電車に乗っていたとき、
「俺さ、朝の満員電車で押してくるおっさんたち見ながら
『でもこいつら全員どうせ俺より頭悪いんだよなー』
って思うんだよね!」
と彼は言った。
それがあたかもとっても面白い鉄板ネタかのように。
実際言いながら彼は純粋な笑顔で笑っていた。
シニカルな笑いや皮肉った様子、彼がそういうキャラであるという風情は全くなく、心底純粋な気持ちからでた言葉であるというように曇りなく笑った。

oh…
と思ったね。

彼との会話で鮮明に覚えているのはそれだけ。
彼と別れた当初に「えー?!なんで?もったいなーい」と言ってきた友達が一人残らず納得してくれたエピソードだったから。

久しく忘れていたが、これを読みながら久しぶりに元カレのことを思い出した。

詳細のあまり分からないレビューを複数耳にして、タイトルと表紙に惹かれて読んだ。
実際の事件をもとにした書籍だと知るのは読了後。
びっくりした。
事実は小説よりも奇なりどころではない。
そうなのか、現実にこういうことが起こってしまうのか。
「あの東大生」と「普通の子」がこんな事件の当事者になってしまうのか。
という恐ろしさ。

これは著者が事件から着想を得たものと断言しているのでかなり小説っぽくはなっており事実とは異なる部分もかなりあるのだろうが、それでも学歴の威力がとてもよく描かれている。

彼と数カ月お付き合いして、彼は私を好きなのではなく、彼女がいる自分のことを誇らしく思っていることくらいはさすがに分かった。
部活の仲間に週1くらいで会わされてびっくりしたが、新しい服を見せたい感覚に近かったのだと思う。
「私」ではなく「彼の彼女」として振る舞う必要があった。
彼のことは、彼自身からよりも彼の周囲から教えてもらうことの方が多かったようにも思う。
その手間すら彼は効率的に省いたのだ。
さすが賢いやつはすることが違う。

別に嫌いなところはなかった。
でも、この人と生きていくには見て見ぬふりをしなきゃいけない感情や事実がたくさんあるんだろうなということを感じてしまった。
そして私も、「彼」として好きなところはそんなになかった気がする。
目の前に実家が極太で将来有望な東大生が現れたからお付き合いした。
そんな感じ。


決定的に学力が足りなかったとはいえ、私がもし東大に入っていたら同じような視点を持ってしまっていたのだろうか?
東大女子はそれだけでイバラの道だし(東大男子には相手にされない、他大学の男子は学歴差に委縮して逆に相手にしてもらえない苦悩を東大に進学した学友から聞いた)、元カレや小説の中の彼らのようにお生まれからのエリートではないし私は。
うーん、でも。
将来の夢も大学でやりたいことも考えたことすらなく、妄信的に大学受験をゴールに据えていた私である。
ただただ偏差値が高いという理由だけで志望していた念願の東大生になんてなってしまっていたとしたら、それだけで謂れのない自信をつけ、おごり高ぶり、さぞかしヤベー奴になっていた可能性はある。

だから東大合格しなくてよかった♡

というのは、あまりにも今更でとてつもなく惨めな負け惜しみだ。

まったく惜しくもない点数で落ちたので未練も何もないが、もしもワールドで妄想してみるのはちょっと面白い。


この本にはとにかくルーツに関する記載が多い。と、私には感じた。
この人の母親、の親、の職業や生い立ちがどのようなものであったか、という記載まで出てくるのだ。
そしてそれを読んであぁなるほど、と思ってしまうのだ。
思ってしまうのだなあと悲しくなる。
親と私、私と子は別人格で全く別の人間であるのに、その人の親がどのような職業でどのような価値観を持って生きてきたのかということで、子の性格や人生に影響を及ぼしてしまう。
うっすら分かっていたことだけど、自分が他者をバックグラウンドでジャッジしてしまう経験を通してそれをまざまざと思い知らされるのだ。


学歴信仰と育児という観点でいうと、これも実に読みごたえがあった。

これも実際にあった事件をもとにしており、こちらはフィクションがほとんどない状態のものである。
母の呪縛については正直あまり分からない。
かなり異常な母親だったんだろうなという感想だが、これも娘側の主観での情報しか入ってきていないので実のところは分からない。
娘から母親への期待や失意、絶望、諦観などが淡々とではあるがリアルに描写されているところは娘であり母親である身としては分かるような分かりたくないような、勉強になるというのも違うしあぁなるほどなあ、と感じ入りながら読んだ。

自分の気持ちは自分だけのもので誰にも邪魔されるべきではないが、
それを正解として他人に押し付けること、
自分の気持ちを分かってもらおうとおもうこと、
これには家族と言えど、家族だからこそ手間を惜しまず丁寧に1ステップずつ歩み寄ることが必要なのだなと感じた。


東大と聞いてすげーと思ったことがある人、
受験を経験したことがある人、
つまり結構多くの人がどこかしらで刺さる2冊。

この記事が参加している募集

読書感想文

わたしの本棚

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?