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読んでない本の書評73「星を継ぐもの」

177グラム。SFファンたちのひとかたならぬ熱い支持を信じて頑張った。苦労したからこそ、カタルシス倍増というタイプの読書もたまにはいい。

 基本的にはSFはあまり得意じゃない。なんというか、全般にボキャブラリーが固そうではないか。
 メカメカしいとか、すごく大きいとか、すごく遠い、とか。見たこともない何かについてのスペックがやけに細かいとか。そうなってくるとストーリーに関係なく集中力を保つのが、ちょっと大変になってくる。

『星を継ぐもの』は、今まで読んだことのあるSFの中でもなかなかに苦戦した。とくに前半部分。
  冒頭は、月で変なものが発見されたので隠密裏に専門家が呼ばれる、という『2001年宇宙の旅』っぽいはじまり方なので、よしよしこれならやっていけるぞ、という気になる。
 しかし、専門家も謎も集まる一方で、なかなか交通整理がされない。苦手分野のボキャブラリーも増える一方。固くて重くて仕組みのわからないものの海に静かに溺れる。
 たぶん、SF好きな人はこういう緻密な細部の積み上げこそが期待感煽られるのではあるまいか、などと思いはするが、こちとら「てにをは」以外は全部わからんぞ。

 コミック版やら、検索したあらすじやら、いろいろ援用して情報整理しながらかじりつくように読み進める。
 そんなSFカナヅチなわたしにとってでさえも、それまで劣勢だったオセロが決めの一手でとつぜんすべてぺろぺろっつぺろっとひっくり返されて一発で優劣逆転するように、なんだかよくわからなかったものが突然見えるようになってくる瞬間がある。ものすごく気持ちがいい。報われたっ、と思う一瞬。


 「暴論なのに辻褄は合っちゃてる」って、ほとんど生理的なレベルの快感である。あっちからポーンとはじき出されたものが、こっちにポーンとうまくはまっちゃう、という理屈が天体レベルでありうるのか。考えるとやや笑ってしまうが、とても満足感のある気持ちのいい飛躍。

 『2001年宇宙の旅』っぽく始まって『猿の惑星』っぽいところに着地するのかなあ、と思いながら読んでいたら、それも今まで積みかさねてきた細部をもって予想を大きくひっくりかえされる。再びちょっとわらってしまうくらいの快楽がある。

  なにしろ慣れないボキャブラリーやら壮大な設定にいちいちひっかかりすぎて手こずったけど、結局気持ちよかったので腰を据えて読んでよかった。しばらく熟成させて、再読したときに今度はゆっくり純粋に緻密な謎解きと宇宙のロマンをじっくり楽しめるようになるだろう。
  未来のためにややこしいものでもしがみついて読んでおくと、のちのち人生で伏線回収していくときの楽しみが増える。そういうことに気付くお年頃になってきたので、読むときは読むのだ。

 

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