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■リライト論[第六章/最終章]リライトの定義(5) 元の文章はあっても「リライト」とは呼べない作業。

さて、「リライト論」の最後は(『書き直す』という意味の)リライトと称してオーダーされるケースで、論理的にも「リライト」とは認められない場合だ。

※その前に、これまで「リライト」について述べてきた第五章までのリンクを下に。
一つひとつ独立しているので、特に第五章までを読まないと最終章が分からないということはありませんが、興味のある章があればぜひ。

●リライト論[第一章]「リライト」について

●リライト論[第二章]リライトの定義(1)トーンを変える  

●リライト論[第三章]リライトの定義(2)字数を変える 

●リライト論[第四章]リライトの定義(3) 文章を整える。

●リライト論[第五章]リライトの定義(4) 一定の情報を追加・削除して文章を変える。

リライトへの誤解

さて、「論理的にも『リライト』とは認められない」作業の内容とは、二つ以上の文章(資料)が提出され、 それを合体させて一つの新たな文章として書き起こす(『書き直す』ではない)というものである。
こうしたオーダーを「リライト」と言って 依頼される方は「元の文章があればみんなリライト」と思われているリライト信者だ。そしてそこには「元の文章があれば書く手間が省ける」という 誤った認識がある。
もちろん、「元となる一つの文章」をベースに書ける「リライト」は、ゼロから書き起こす通常のコピー作業より手間がかからないことが多い(100%ではない)。だから当然、コピー料も減額する。しかし、それはあくまで“元となる一つの文章”を書き直す場合であり、前述の定義(1)~(4)の場合である(4には条件が付く)。

それが「元となる二つ以上の文章」であればどうか。文章はパズルではない。複数の文章を単につないだだけでは一つの文章にはならない。しかも通常は、例えば「二つ以上の文章を合わせて300字で」などのように字数の制限がつく。
ここで「一つの文章」と「二つ以上の文章」との違いにこだわるのは、「複数の資料を元に新たに文章を書き起こす」行為こそ、一般的なコピーライティングそのものだからだ。

コピーライティングの一面

そもそもコピーを作成する行為の殆どは“ある複数の資料を元に、想像力を働かせて媒体に合わせた最適な文章に書き起こす作業”なのである。
この場合の「複数の資料」には、文章だけでなくマーケティングデータや調査資料、他社ツールなども含まれる(なお、企画やネーミング作成など、コピーライターが行うその他の作業についてはここではふれない )。

“ある複数の資料を元に、想像力を働かせて媒体に合わせた最適な文章に書き起こす作業”は、駅貼りポスターのために作成するたった1本のキャッチフレーズも同様で、最後の表現が純広告向けの短いフレーズになっただけと解釈できる。
また、例えば住宅に関わるサービスや商品などで、ある家族の日常(舞台はそれが使われている空間)をコピーライターが創作する、エッセイに似たケースなどがある。このときは、もちろん資料を逐一、確認しながら作業することはない。しかし、厳密にはこの場合もサービスや製品についての複数の資料を頭に入れ、エッセイの発想はそこから引き出す。
したがって、このような詩や散文に近い文章も含め、コピーを作成する行為は限りなく100%に近く“ある複数の資料を元に、想像力を働かせて媒体に合わせた最適な文章に書き起こす作業”と定義される。
そこには、複数の資料の優先順位や関係性、そもそものインパクトなど、資料そのものを分析し、新たなセールスポイントを導き出す作業が生まれる。

これに対して「リライトの定義」(1)~(4)で語ってきたように、「元となる一つの文章」をベースに書き直す「リライト」は、純粋に文章に関わる文字量やトーンなどの調整と向き合う行為となる。

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二つ以上の文を一文にする

それでは、元の文章があるからと言って「リライト」とは言えない場合を架空のオーダー事例をもとに説明していく。
実はこの事例のような内容も、広告業界の方々は堂々と「リライト」 と言ってオーダーされるのである。ここまで読まれた方は、定義を踏まえてぜひよく読んでいただきたい。
与えられた“複数の資料”は、この場合、次のA~Cの文章とする。

・資料A 
「自立や尊厳を含む高齢化社会の根本的な価値は、いかなる分野でもその基礎に置くべきものです。高齢者は個々の権利や 生活を営む上で必要とされるニーズについて、充分に享受し、健康な高齢化と生活の質(Quality of Life=QOL)的向上 をもたらされるべきです。幸福とQOLの向上に焦点を当てた、21世紀における人口の高齢化とそれに関連する保健医療 分野及び社会経済的分野との密接な関わりに対し、政策に関連した実質的解決方法の探索を推進すること。医薬処方など を含む高度医療技術同様に、個人、家族、地域(コミュニティ) レベルにおける特異的なニーズに対応しうる費用対効果 に優れ統合されたヘルスケアに焦点をあてたWHOのプライマリー・ヘルスケアの概念を導入し、推進することが肝要です。」

・資料B
「加齢とともに身体機能が低下するので、ちょっとした段差が苦痛になったり、つまずきの原因になったりします。玄関のたたきから廊下への段差、部屋を仕切る建具の敷居、浴室やトイレの高低差など、高齢者にとって段差は身体に負担をかけるだけではなく転倒の危険も孕んでいます。そのためバリアフリーが大切になります。階段はできるだけゆるやかな勾配で設計し、高齢者の昇り降りを楽にします。踏み外しても支えられるよう、手摺りも設けました。トイレや浴室にもほどよい高さに手摺りを取り付けています。暖かい部屋から寒い部屋へ移動したときに体が受ける急激な温度変化(ヒートショック)への対策も万全です。血圧の急変動や脈拍の変化など危険な状態になりがちなので、浴室ヒーターを取り付けることで、ヒートショックを防ぎます。間取りの角度からは、高齢者が気軽に用が足せるよう、居室とトイレは近くにレイアウトしたり、部屋間の移動が楽に行えるよう建具に配慮しました。また、夜間の移動危険を軽減するため、廊下には足元照明や残照式照明などを取り付けておくと安心です。」

・資料C 
「臀部の筋肉を見ると、盛り上がった部分は人間の二足歩行を支えている大殿筋が覆っている。「立つ」「歩く」などの動きで日常的に使われる最も大切な筋肉だ。しかし、老化によって衰える筋肉は実は中殿筋なのだ。中殿筋は大殿筋よりも上に位置し、腰の下あたりから太ももの付け根に向かって縦に伸びている筋肉である。現代人はこの中殿筋が衰えがち、なのである。」

このような(広告文とはかけ離れた)複数の文章を手渡されて、商品コピーのようなトーンに書き起こしてほしいという「リライト」のオーダーも実際にある。
しかし、これこそ“ある複数の資料を元に、想像力を働かせて媒体に合わせた最適な文章に書き起こす作業”であり、コピー作成そのものだ。コピーライターは、自身の裁量で優先順位と適不適を判断して情報を取捨選択し、文章を再構成してトーンを変え、字数を整える作業を行う。この3つの資料を手渡された場合に作成されるであろうコピーを一例として以下に記した。
もちろん、このような作業は本来は、「リライト」の範疇外である。

上記資料A~C(合計960文字)を元に65%(620文字)にまとめたコピー作成事例(これまでの章同様、企業名を『XY住宅』、ブランドを『PLENTI』とする)。

【リライト後のコピー】
「年を重ねるごとに、生活するうえでの負担が少しずつ増えていきます。年齢は、基本的な動作を支える筋肉の力を少しずつ奪っていくのです。XY住宅は、こうした人間の肉体的・生理的な変化を住空間の視点から見つめ直し、誰もが迎える高齢化というシーンに対応する住宅「PLENTI」を誕生させました。
同じ距離を歩いていても、年と共に負担が高まってはいませんか? 住まいにとっては高低差が大きな負担となります。そこで、玄関のたたきと廊下の段差や、浴室・トイレをはじめ部屋と部屋の高低差を解消し、全室バリアフリーを実現しました。階段の勾配もゆるやかに、昇り降りをラクにしています。また、廊下には足元照明や残照式照明などを設け、夜間の歩行にも配慮しました。階段から、トイレ、浴室へ、最適の高さを考えた手摺りも住みやすさへのポイントになります。
暖かい部屋から寒い部屋へ移動する際の急な温度変化(ヒートショック)への対応も、安心して暮らせる住空間にとって大切なテーマです。この点には、浴室ヒーターの取り付けなどで住まわれる方を守る心遣いをプラスしました。居室とトイレは近くに、移動が快適に行えるよう、間取りにも心地よさへの配慮を加えています。
カラダの変化をしっかりととらえながら、より高い生活の質(Quality of Life)をつくっていきたい。そんな思いから生まれた「PLENTI」には、XY住宅が目指してきた21世紀における人と住空間の一つの理想が込められています。」

上記資料A~Cと、この620文字のコピーを見比べていただきたい。大胆な情報の取捨選択をし、資料Bの商品特長を中心に据えながらも、資料AとCのエッセンスは活かして資料Bのメッセージを強化している。また、商品コピーに仕立てるために新たな文章を大幅に加えながら、全体的なバランスをとって調整し最終的に文字数65%と簡潔なコピーに仕上げた。したがって、資料A~Cと、それをもとにした620文字のコピーには品質的に大きな違いがある。
このような作業も、手間がかからないというニュアンスで「リライト」と言われることがあると言えば、広告業界で「リライト」が置かれた位置がいかに曖昧で理不尽かお分かりいただけるであろう。
また、コピーライターとはキャッチフレーズ1本でお金が稼げる、という誤解がまだあるなかで、「書く」技術を用いて取り組む複雑な作業の一端についてもお分かりいただければ有難い。

このようなライティング作業を(手間がかからないという意味を込めて)「リライト」と言われては、困る。

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