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シリーズ:生きながら死んでいる存在~私と周りの障害者たち~ 第4話 "燃える男"

大学で珍しく仲良くなった友人にAくんがいます。Aくんは大学入試で1浪して同じ大学に入学してきました。教育熱心な都道府県の中でも、かなりいい高校を卒業してきたので、親の大学進学に関する期待値もかなりのものだったろうことは想像に難くないです。

小中学校で同級生と喧嘩したりそれぞれ派閥を作って人間関係に縛りを設けたりするのが嫌になったAくんは、その中学校から進学する人が少ないようなちょっと遠めな高校をあえて選び、なんとか高い偏差値に適応するように勉強に身を砕きました。

しかし高校受験で燃え尽きてしまったAは、進学校の進度の早い授業についていけず、少しずつドロップアウトしていくようになります。そして高校3年の大学入試、最低でもMARCHと言われる彼の進学校(そんなものこの世にあるんですかw@底辺商業高校卒の自分)で、彼は日東駒専と同等レベルの大学にしか合格できませんでした(それって誇るべきなんじゃないですか@指定推薦で進学した自分)。それでは体裁がよくない。結果に満足できなかった。Aくんは、両親に頼み込み、1年だけという約束で浪人生活をスタートさせることになります。予備校に通うか自宅で勉強するかのルーチンをこなすだけの毎日、Aくんはそうそうに気を病んでしまいます。どんどん手につかなくなる勉強、予備校の学費で3人兄弟の長男として教育費を使いつぶしている罪悪感、ちょうどそのころ金融危機があり、遅れて父親の仕事にも悪影響が出てきました。幸い自宅は分譲なので寒空の下に放り出されることはありませんが、生活費がやっとというところで、浪人生活も折り返しのところで父親から「浪人はやめて就職してくれないか」という言葉を受けます。ここで何もかも嫌になってしまったAくんは両親に怒鳴り散らし、壁に穴をあけるほどの大立ち回りをします。結局、学費他の問題はなんとかなったため、禍根は残しながらも浪人生活は予定通りになりました。

しかし2回目の大学受験、身が入らなかったこともあり日東駒専に滑り込むのがやっとでした。1回目より少し偏差値は高い大学でしたが、本人の望むようなブランドの高い大学ではありませんでした。しかし予備校の学費も、本人の精神も、もう限界でした。そんなこんなで彼は不本意ながら日東駒専の、滑り込めた会計系学科に進学し私たちと会うことになります。仲良くなったのは入学後ガイダンスででした。

会計系学科に進学するのはだいたい2種類の人間がおり、3割が商業高校からの指定校推薦組、7割が経営経済学科に落ちた滑り込み組でした。なので日商簿記3級も持っていなかった彼は会計系学科の学生の過半数が入る会計士講座(単位にならない講座)の初心者コースに属することになります。

簿記の勉強は最初は物珍しかったこともあり順調に成績をあげ、確か最初の試験(日商簿記は2月6月11月)6月の試験で3級に合格します。そして順調に2級のカリキュラムに進んだところで、彼に異変が起きます。

大学にこれなくなってしまうのです。

大学にくるためには彼の家がある場所から電車で1時間弱。私鉄の上り線に乗車して通勤ラッシュに耐えなければなりません。しかし彼は電車に乗り続けることができなくなってしまったのです。もう少し後になってわかりますが、パニック障害だったのです。

唐突の連続欠席に彼のすでに30人近くいた友人たちはそれなりの騒ぎになりました。しかし彼の家にまで行って様子を見てあげたのは、第2話のОくんだけでした。どうやら彼は精神的な病気のようで、落ち着くまで大学にはこれそうもありません。なんとか休学届を提出して、1年半完全にスキップして、次の次の年、彼は大学に戻ってきました。まだ万全ではない体調をおして…。

彼の体調が本調子ではないながらも、学費の問題なども絡まり、あまり大学に居続けるわけにもいきません。彼は何とか大学に復帰し、大学生活に戻りました。彼の目標はもう当初のようにすべてを最高評価で単位習得するとか、そういうものではありませんでした。できるだけ早く卒業したい。それだけでした。

そして同窓生から遅れること1年、彼にも卒業式がやってきました。大学をとにかくパニック障害を抑えながら卒業することに全力をつくしてきた彼です。就活はほとんど手を付けられませんでした。行く先のないまま、社会という大波の中に漕ぎ出していくのです。

とりあえずずっと家にいるだけというのはいろんな意味でよくないだろうということで、父親のコネクションを利用して割のいいバイトを当てがってもらいます。しかしここで事件を起こします。何度も仕事上のミスをするAくんに、バイトの先輩や上司が厳しく怒ったのです。頭に血が上ったAはカッターナイフをやおら自分の手首に突きつけて「今までのバイト代、返しますよ、金がないから血液でどうです」などと叫びます。その場はほかの人の介入もあってどうにか収まったようですが……。

別の事件もありました。女子大生がAくんのことを好きになってくれたのです。身長が高くスポーツ万能でユースチームにも入っていたAくんです、もてるのもむべなるかな。しかし、色恋沙汰でトラブルを起こしてこれ以上問題児扱いされたくないと思ったAは一度これを断ります。しかし家にかえってあら考えると、こんないい話なかなかないぞと思い次の日逆告白します。しかし、もう冷めたからいいとバッサリと断られてしまいます。それからです、Aくんの執着が始まるのは……。

職場にはすでに60歳を超えた職員もいました。病気がちで体力のない老人ですが、Aにはこのものが恋敵に見えました。必要以上にその女子大生に話しかけていく…ように見える老人。Aくんは許せないという思いに駆られて、老人から女子大生を守るために会話に積極的に割り込むことで女子大生を守ることにします。

自己改造も始めます。バイト代で新しいパーカーにスニーカーを買い、これであの子も再び振り向いてくれるに違いない、と思ったりしました。そんなことはないのですが……。

この職場での人間関係のいざこざで、彼は確実に壊れ始めていました。バイト代で購入したリアルなライトセーバーを、Skypeビデオ通話で自慢してから数週間後、泣きながら通話を掛けてくる彼の姿がありました。職場でのストレスを母親にぶつけて、しかし暴力はよくない、だから壁をなぐったりものを投げたりしていて、勢いでライトセーバーを壁にたたきつけたそうです。見事に破壊されたライトセーバーの残骸と泣き顔のAに、我々はなにも言葉を出すことができませんでした。そこには静寂だけありました。

先のカッターナイフ事件他もあり、居づらい雰囲気から数か月で職場を去ったAくんは、ハローワークに通うことにします。しかし新卒でもなく、最高の資格は日商簿記2級なのでなかなかいい職場が見つかりません。そうこうしているうちにそういう人生に飽き飽きしてきて、自分の育て方を間違った両親に対して恨みがこみあげてきました。親に強く当たることが増えてきて、壁の穴も同じように増えます。とうとう親からは次に暴れたらお前は精神病棟だ!と言われてしまいます。

パニック障害で精神障害者手帳を交付はされていたAくんは、就労移行支援施設に通うことになりました。工賃の出ないタイプの就労移行支援施設で自己理解ワークショップやグループディスカッションなどのカリキュラムをこなしながら毎日を過ごしていると、就労移行支援施設に障害サーの姫が現れます。

なんでも就職先は決まっているのだが、それは数か月先の予定なので、慣れるために通所するということです。あまりの美少女に通所者の男性は群がるように話しかけます。私たちも写真を見ましたが、共通の友人のOくん曰く「これはアイドル級」とのことでした。私も同意見です。地下アイドルなら天下を取ってます。地下じゃなくてもいけます。

ここで小学校からこのかたモテの伝道師として鳴らしてきたAくんの腕が光ります。猛アプローチをかけて、数週間でモノにしてしまいました。そこまでは彼の人生の成功体験といっていいでしょう。

しかし相手がお酒を飲めない程度の年齢だったこともあり、どこからか相手方の親御さんに交際がばれると猛反対されます。そしてその子もAくんに「私たちの関係って、付き合ってるのかな?」と聞かれてもウヤムヤにされていたせいもあり、自然消滅してしまいました。

ここからが、彼の苦しむところです。「就労移行支援施設にいるような変な奴に引っかかってはいけない」という、もちろんブーメランビュンビュンな偏見なんですが、それを持っていたAくんは就労移行支援施設でその女の子に近づく複数人の下心がある男性をマークして、女の子と男性が会話しようとすると妨害するようになります。これをストーカーと認識した女の子は(ストーカー行為ではあると思います)、彼に一方的に言い寄られて困っている、怖いと事実を捻じ曲げて就労移行支援施設の職員たちに伝えて、さらに事態が混迷を極めていきます。これはその女の子が通所期間を終えて就労移行支援施設を去るまで続きます。

そういった事件もそこそこに、つい最近やっと障害者枠の特例子会社への就職に成功した彼ですが、上司や同僚といざこざを起こしてまた休職中です。この職場に戻るつもりはないそうで、次は最低賃金のもらえる就労移行支援施設に通いたいとのことです。

最近も動きがありました。Twitterにて中高生とシン・エヴァンゲリオンの解釈でレスバを繰り広げたのです。

Aの言い分は「アスカがかわいそう」「ケンアスはあり得ない」「ケンスケに押し付けるなんてない」「アスカ以外を推してるやつらは心の中でアスカを見下しているから悪い」というものです。共通の友人と頭を抱えました。これでエヴァが嫌いに180度転回してしまったAくんは、これまで集めていたアスカグッズを捨ててしまいました。

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