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それは無謀か、或いは勇気か─ 「クリード 過去の逆襲」


●「過去の逆襲」の個人的評価


 傑作ボクシング映画「ロッキー」シリーズのその後を描く「クリード 」。その3作目「過去の逆襲」が公開された。
 念願の最新作……。ロッキーファンの一人として、観に行かない選択肢は無い。物語が気になることも勿論だが、主人公:アドニス役のマイケル・B・ジョーダン(以下、全て人名敬称略)が初監督を務めると知ったその日から、尚更興味を唆られたのである。



 ロッキー役:シルヴェスター・スタローンのキャリアを完全に復活させたと同時に、次世代主人公へのバトンタッチを果たした「クリード チャンプを継ぐ男」。
 そして、「ロッキー4 炎の友情」に端を発する親子3組の因縁譚を終わらせ、ロッキーの物語にも完璧な決着(=ロッキーJr.との真の和解)を付けた「クリード 炎の宿敵」。
 これら過去2作品は両者とも俺にとって大傑作であり、何度も観返したい作品として心に残っている。



 さて、本作の個人的評価……。それは「見所はあるが、過去2作には及ばない……!」といった複雑な感情である。



 前2作の屋台骨であった“ロッキー要素”を極力廃し、主人公:アドニス・クリードの物語に焦点を当てた本作。そのドラマパートは彼が経験した少年犯罪・虐待(明言・描写はされていないが、かなりセンシティブな内容だと解釈した)を主軸として扱ったためか、シリーズ中でも最大級に“シリアス重視”な内容となっていた。特にアドニスと宿敵:デイミアンとの会話劇は終始緊張感があり、物語の重さを十分に表現できていたように思える。
 一方で、アドニスとデイミアンを巡るドラマ以外の要素(娘:アマーラの教育方針を巡る諸問題など)が希薄になった気も否めない。過去の事件でアドニスだけ逃げおおせたのは無理があるのでは……?といった“物語のネジの緩み”も目立ち、勿体無さを感じてしまった。



 ボクシングパートは過去作以上に娯楽性を重視しており、ロッキー・クリードシリーズでは初と思われる“CG背景を活かした精神世界・心象風景的演出”など、挑戦的で見応えもあった。しかし、見方を変えれば“ドラマパートの重厚な雰囲気から浮いている”とも捉えられる……。
 冒頭のコンラン戦に関しては、勝利に対する明確なロジックとカタルシスがあり、アドニスの知的さも伝わる良い試合シーンだった。アドニスが元・証券会社のインテリ社員だった設定を拾ったのだろうか?


 上記のように、本作は良い要素こそ豊富にあるが手放しの大絶賛はできない、何とも歯痒い作品として印象に残った。前2作の出来があまりにも良過ぎるため、期待値のハードルが上がってしまったのかもしれない……。
 と、総括を終えるにはまだ早い。作品評価軸とは別に、俺は本作についてどうしても語りたい点がある。それはシリーズの目玉となる“ランニングシーン”のてん末である。

●マイケル・B・ジョーダン、魂の叫び?




 かつて、ロッキーは元祖「ロッキー」にて、フィラデルフィア美術館の正面階段でガッツポーズを掲げた。「ロッキー4」ではソ連における強化合宿のクライマックス、雪山を駆け上り敵の名ドラゴォーー!!!を叫んだ。また、アドニスは「クリード チャンプを継ぐ男」で、闘病を続けるロッキーの元へ駆けていった。
 このように「ロッキー」「クリード」シリーズにおいて、ランニングは数多くの名場面の立役者となっている。


 今作において、アドニスがランニングの果てに辿り着いたのは「ハリウッドサイン」。ハリウッドの象徴であり、映画ファンなら知らぬ者は居ない場所で、彼は雄叫びを上げたのである。


ロサンゼルス・サンタモニカ丘陵にあるハリウッドサイン。(画像は写真ACのフリー素材より)



 叫んだ人物は、あくまでもキャラクター:アドニス・クリード。叫んだ理由も、きっと彼の気合いの発露であろう。しかし、そんなアドニスを演じたマイケル・B・ジョーダンが、今作で初監督を務めたこともまた事実。事実とフィクションを安易に混同してはならないが、俺はこのシーンをどうしても“メタ視点”で見てしまった。
 即ち、「俺は映画界でテッペンを獲ってやるぞ!」という、監督 兼 制作 兼 主演:マイケル・B・ジョーダンからの高らかな宣言──。そのように俺は受け止めた。



 この露骨に見えてしまう描写を入れるには、並々ならぬ勇気が必要だったはず。監督として、主演として、「ロッキー」という一大シリーズを継承した者として……。その自信と決意が、このような大仰な演出に至ったのだろうか?
 本作は、少なくとも俺にとっては“完全無欠の傑作”ではなかった。だが、俺はマイケル・B・ジョーダンの、無謀ともとれる勇気を全力で讃えたい。
 あの力強い叫びのように、次回作では映画界を席巻し、世界中の観客を虜にするような……。本作の美点を活かした大傑作を創り出してくれることを、俺は願ってやまない。

 なお、上記の文章はあくまでも“推察”である。「マイケル・B・ジョーダンは絶対このように考えていた!」とは決して思わない。
 創作物において、作品に込められた真のメッセージ・作者の真の心情は、作者以外に知る術が無い。ファンの俺には、ただ推し量ることしかできないのだから……。


<余談>
 本作のスタッフロール終了後に流れたおまけアニメ「クリード SHINJIDAI」。その衝撃的な内容に面食らったが、本作と直接的な関連性はないためあえて触れない。短編に終わらず、今後シリーズとして展開するんだろうか……?


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