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本屋×空間

第6章 本屋と掛け算する(13)

 本に対する強い愛情とこだわりを持ちながら、より本屋としての魅力を増すための掛け算を行いつつ、本を並べる。本が大量に並んでいるだけの空間であっても一定の魅力があるが、さらにその品揃えが素晴らしく、家具や備品にもこだわりがあれば、その空間としての魅力は一層増す。そのような空間には、空間そのものに対するニーズが生まれる。

 最もよくあるケースは、撮影場所として一定の時間、その空間ごと借りたいというものだ。雑誌のファッションページなどの写真撮影はもちろん、CMや映画、ドラマなど映像の撮影にも使われる。また、新商品発表パーティのために借りたい、記者会見のために借りたい、あるいは個人的なサプライズのために借りたいといったものまで、魅力ある空間をつくれば、さまざまな問い合わせがある。いわば、特殊な撮影スタジオのような形だ。

 もちろん、営業時間内に場所を貸してしまうと、その時間は営業ができなくなるので、どういったものに対していくらで貸すか、という判断は大切だ。開店前しか貸さないと決めることもできる。あるいは開店前であれば一時間あたりいくら、通常営業時であればいくらというようなメニューを用意しておき、内容によって選ぶようなやり方でもよい。

 実際に、スタジオを主とした空間もある。東京の港区西麻布の「NOEMA images STUDIO」は、作家の鹿島茂氏の蔵書を所蔵した「書斎スタジオ」だ。一九世紀フランスの革装丁本が中心で、貴重な蔵書がずらりと並んだ空間で撮影ができる。

 あるいは一時的な場所貸しではなく、本屋に隣接した一角を占有させる形で貸す、という形もある。たとえば前述の「SPBS」は、奥が出版社のオフィスになっていると同時に、デスク単位でシェアオフィスとしても機能している。本屋の奥に自分のオフィスがあれば、本屋全体が資料であり、アイデアの種になる。あるいは、住宅にするというのもあり得るだろう。まるで本屋に住むような生活ができたら、と夢みる人は少なくないはずだ。集合住宅の一階のひと部屋が本屋で、他の部屋が住居であるというような物件なら、住んでみたい人も多いのではないだろうか。

 また、他の小売やサービス業などにテナントとして貸すという形は、特に最近の大型書店において実践されている。台湾の「誠品書店」や日本の「蔦屋書店」などが代表的で、中心や最上階に本屋をつくり、その周辺や下層階を他の業態にテナントとして貸したり、自ら本屋とは別の業態を運営したりする。本屋に集客力があれば他のテナントにも客が流れることになるし、全体として魅力ある商業施設のようにすることができれば、相乗効果が出る。

 オフィスにしても住宅にしても商業テナントにしても、本屋としてその空間全体の魅力を高めながら運営することで、家賃という形の収入を得ることができれば、より安定的な経営を行うことができる。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P226-P228より転載


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