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昔ながらの本屋と、これからの本屋

第4章 小売業としての本屋(10)

 日本の出版業界における、新品の紙の本の売上のピークは一九九六年で、書籍と雑誌の合計は二兆七〇〇〇億円だった。二〇一七年の合計は一兆四〇〇〇億円となっており、この二〇年で約半分になっている。

 一九九六年までの間、売上は右肩上がりで伸びていて、新刊書店は安定した商売として知られていた。当時の店舗物件のオーナーにとって、新刊書店は安定的な需要が見込め、かつ返品できるためリスクが低い、理想的な業態とされていたという。取次の後押しもあって、駅前やロードサイドに、どんどん出店されていった。

 資格もいらず、利益率もほぼ一定なので、売上だけ見ていればよい。商品はどんどん送られてきて、客は自然と本を求めてやってくる。内装にはことさらこだわる必要はなく、陳列も一般的でよい。接客は不愛想でも、立地がよく、ほどよい営業時間でやっていれば、老若男女を広くターゲットにして、安定的な収益を得られた。昔ながらの新刊書店は、そういった背景でどんどん増えていった。しかし一九九六年を境に、売上は右肩下がりになっていく。

 ぼく自身も、昔ながらの本屋に育てられた。あの頃のような本屋にも、できることなら残っていてほしいという願いもある。けれど大人になって本の仕事に就いてみると、残念ながらだいぶ時代が、環境が変わってしまったと感じる。そのような昔ながらの考え方で本屋を続けていくのは、もう難しい。

 ぼくたちは、これからの本屋について、継続できる形を考えなければならない。いくら時代が変わっても、「本をそろえて売買する」ことはできるはずだ。ここまで述べてきたような、小売業としての基本は、もちろん踏まえなければならない。けれど同時に、時代に合わせて、本屋をアップデートしていく必要がある。

 ぼくの考えでは、それで生計を立てていこうと思えば、取るべき方針は「ダウンサイジング」と「掛け算」だ。また、独立して生計を立てなくても、本屋として生きていくことはできる。そのための方針は、「本業に取り込む」か「本業から切り離す」ことだ。

 次章以降では、それら四つの視点をもとに、これからの本屋の形について、ひとつずつ考えていく。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P182-P184より転載


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