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#33 『劣化するオッサン社会の処方箋~なぜ一流は三流に牛耳られるのか~』を読んでみて

こんにちは。なびです。

今回紹介する本は「オッサン(!?)」に関するこの本です!

【読んだ本】『劣化するオッサン社会の処方箋~なぜ一流は三流に牛耳られるのか~』
【著者】山口周
【発行所】光文社
【初版】2018年9月30日


ーーなぜ読もうと思ったか?

若者からオッサンになりかけている自分にとって、「イケてるオッサン」になりたいなあと思い、反面教師として本書を手にしてみました。刺激的なタイトルと、「一流は三流に牛耳られる」という恐ろしくもなんとなく納得してしまいそうな文言を見て、現代社会に対する警笛を鳴らしているのではないかと期待して読み進めてみました。

ーーどんなことが書いてある?

タイトルと当初の期待通り、劣化しているオッサン社会に対する議論が展開されています。「なぜそういった社会が生まれてしまったのか」、「その社会で発生している問題点は何か」といった事柄を感情論ではなく時代背景やファクトを根拠に説明しています。

その過程で、現代社会の闇を想像以上に深堀りして議論されています。単なるオッサンの処方箋、という言葉で片付ける以上に。。

例えば、副題にもある「一流は三流に牛耳られる」という言葉。これはまさに劣化したオッサンが起因していることにより発生しており、現代社会に蔓延している負のスパイラルを引き起こしている、とまで述べています。

この本はオッサンに向けた本、ではなく、オッサン社会に生きる若者向けです。著者のメッセージの多くは若者に向けた内容になっています。

「お店で怒鳴り散らすオッサン」というのは一体何なのか、「大企業のトップの劣化」はどうして発生してしまうのか。「一流が三流に牛耳られる不条理な世界」では我々はどのようにして生きていけばいいのか。人生の3ステージモデル(教育→仕事→引退)の崩壊と人生100年時代の到来、加速度的に増加していく社会変化のスピード、オピニオンとエグジットといった若者の台頭。これらの要素を複雑に絡め合いながら、上述の問いに答えていきます。

ちなみに、人生100年時代の到来といえば代名詞的に紹介される下記本もおすすめです。まだ未読の方はぜひ。

ーー印象に残ったこと

本のタイトルに惹かれて読み始めた身からしたら、「劣化したオッサン?」「三流が一流を牛耳る?」みたいなところが議論されてればいいかなあと思ってましたが、いい意味で期待を裏切られました。前述した通りこの本は現代社会の闇を深く掘り下げている。オッサンの処方箋、と片付けるだけじゃもったいない、と。

そんな本書で特に印象に残ったこととしては、

「組織のリーダーは構造的・宿命的に経時劣化する」

ということです。つまり、設立年数が経過している大企業であれば組織のリーダーは劣化している可能性が高い、と言えます。

なぜ、こういうことが言えるのか。著者は人間を能力や素質から一流、二流、三流にざっくり分け、一流が圧倒的に少ないという前提のもと以下のような議論を展開しています。

「数」がパワーとなる現代の市場や組織において、構造的に最初に大きな権力を得るのは、いつも大量にいる三流から支持される二流ということになります。これはなにも組織の世界に限った話ではなく、書籍でも音楽でもテレビ番組でも同じで、とにかく「数の勝負」に勝とうと思えば、三流にウケなければなりません。(中略)資本主義が、これだけ膨大な労力と資源を使いながら、ここまで不毛な文化しか生み出せていない決定的な理由はここにあります。(中略)少数の二流の人間は、多数の三流の人間からの賞賛を浴びながら、実際のところは誰が本当の一流なのかを知っているので、地位が上がれば上がるほどに自分のメッキが剥がれ、誰が本当の一流なのかが露呈することを恐れるようになります。したがって、二流の人間が社会的な権力を手に入れると、周辺にいる一流の人間を抹殺しようとします。(中略)やがて二流のリーダーが引退し、彼らに媚び諂って信頼の貯金をしてきた三流のフォロワーがリーダーとしての権力を持つようになると、さらにレベルの低い三流のフォロワーが周辺を固めるようになり、その組織はビジョンを失い、モラルは崩壊し、シニシズムとニヒリズムが支配する組織ができあがることになります。組織が一旦このような状況まで劣化すると、一流の人材を呼び込み、重役に登用するという自浄作用はまったく働かなくなるため、組織の劣化は不可逆的に進行し、世代が代わるごとにリーダーのクオリティは劣化していきます。

最初にこれを読んだときはゾッとしました。そして、悲しくも腑に落ちてしまいました。人間のエゴにより組織の質が低下していく様がイメージできてしまいます。一流は一流を呼ぶけれども、二流は三流を呼び、その三流は自分より低い三流を呼んでしまう。この不可逆的な変化に対していかにストップを掛けるか、ということが重要になってくるということを実感しました。とはいえ、「何を持って優秀と捉えるのか」ということは別問題になってくるので、合わせて考えていかないといけないでしょうね。

このこととは逆に、AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏の言葉にある「自分より優秀な人を採用することを恐れてはいけない」「自分より優秀な人間を雇ってしまい、自分のポジションが危ぶまれる、、そんな恐怖心を捨て去ることが大切である」と語っています。これこそが組織を劣化させない本質なのではと思います。下手に権力を持ってしまったオッサン世代にこの思想を期待することは難しいかもしれないです。でも、これから成長していく若者世代にとってはこのような教えを受け入れ、自分のエゴに囚われすぎないことを意識しておくだけでもこの先の未来は変わってくるのではないでしょうか。


もう一つ、印象に残ったこととして「オッサンを劣化させている要因の一つは若者にある」という意見です。著者は権力者に対する圧力の例として「オピニオン」と「エグジット」を取り上げ、下記のように議論を展開しています。

社会で実権を握っている権力者に圧力をかけるとき、そのやり方には大きく「オピニオン」と「エグジット」の二つがあります。オピニオンというのは、おかしいと思うことについてはおかしいと意見をする ということであり、 エグジットというのは、権力者の影響下から脱出する、ということです。(中略)オピニオンもエグジットもしないのは不祥事に加担するのと同じ。逆にいえば、オピニオンもエグジットもしないということは、権力者の言動を支持しているということでもあります。本人にそう問い質せばもちろん否定するでしょうが、一連の不祥事を起こした企業に身を置きながら、オピニオンもエグジットもしないということは、これらの不祥事に自分もまた加担し、それらを主導した権力者を支持している、ということにほかなりません。(中略)ここで「劣化したオッサン」を生み出すメカニズムの本質が見えてきます。なにを言っているのかというと、 劣化したオッサンを生み出しているのは、とりもなおさず、オピニオンもフィードバックもしない配下の人々でもある、ということです。

雑に言ってしまえば、好き放題やっているオッサンに対して注意する人がいないから、好き放題やってることが「悪いこと」と認識できない、という感じでしょうか。オピニオンやエグジットといったフィードバックがされないから、オッサンからしたら学ぶ機会がない、そうなると経験や行動がアップデートされていかない、すなわち劣化していく、確かに納得できる内容です。

とはいえ、年長者や上司に向かって抵抗するのは気が引ける。。みたいな意見はあるでしょう。特に会社の上司とかだとなにか言ったら辞めさせられてしまうかも、と。そんな人に対して著者が下記のように述べています。

本人からすれば「上司に意見などしたら職場で居場所がなくなる」とか「転職できるだけのスキルも専門性もない」ということなのかも知れませんが、このような妥協を自らに許してダラダラと無為な人生を送っていれば、そのうち道徳観は麻痺し、モノゴトに意義を見出す眼力も失われて、生物学的には一応は生きているものの魂は死んでいる、というゾンビのようなオッサンができあがることになります。

そうなんです。自分自身が劣化したオッサンになってしまう可能性だってあるのです。そうならないためにも本書では「モビリティ」を高めていかないといけない、となるのですが、この辺りはぜひとも本書を読んでみてくださいw

ーー本書を読んで

「お店で怒鳴り散らしているオッサン」は一体何なのか。

「会社にいる肩書はあるけど能力が低いオッサン」は一体何なのか。

「近年のコロナショックで場違い的な政策を次から生み出す政治家オッサン」は一体何なのか。

本書を読むことでこのような問いに対する思考材料を与えてくれます。劣化したオッサンとは一体何なのか。劣化したオッサンが権力を持つこの社会をどう生きていくべきなのか。全若者は(オッサンに対する感情は抜きにして)読んでみることをおすすめします。

最後に。

最近になってTwitterデモみたいな「若者を始めとした多くの人が意見を言う」風潮が活発になっているような気がします。特に昨今の政治については「劣化したオッサン」という概念は非常にマッチするのではないでしょうか?昔とは違い権力が弱体化している現代だからこそ起きている事象なのかもと思い、本書の一節を紹介して、本レビューを終えたいと思います。

権力が弱体化する時代だからこそ、私たちは自分自身を知的に武装し、オピニオンを主張し、相互の発信に耳を傾けて対話していく必要があるということになります。なぜなら、弱体化する権力は躍起になってその支配力を強めようとするからです。過去の歴史を振り返れば、権力はそのピークではなく、むしろ弱体化が誰の目にも明らかとなった時期にこそ、弾圧を強めています。(中略)これまで「劣化したオッサン」たちが、単に「年を食っている」という理由だけで得てきた大きな発言権や影響力は、間違いなく弱体化していくことになるでしょう。しかし、既得権益が引きはがされ、大きな「パワーシフト」が起きるとき、後退させられる側の「古いパワー」は、ろうそくが最後に燃え尽きる際に放つ大きな炎にも似たヒステリーを周囲にまき散らします。昨今の「劣化したオッサン」による各種の傍若無人な振る舞いはまさに、終焉しようとしている権力システムがあげている断末魔の叫びだととらえることもできるでしょう。


いつも読んでくださりありがとうございます!
それでは!

(イケてるオッサンになりたいなあ)

TOP画像:Fabrizio Azzarri on Unsplash


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