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#36 『シン・ニホン - AI×データ時代における日本の再生と人材育成』を読んでみて

こんにちは。なびです。

今回紹介する本は今年話題になったこの本です!!

【読んだ本】『シン・ニホン - AI×データ時代における日本の再生と人材育成』
【著者】安宅 和人
【発行所】NewsPicksパブリッシング
【初版】2020年2月20日

ーーなぜ読もうと思ったか

『イシューからはじめよ』で有名な安宅さんの最新作です。メディアでも大々的に取り上げられていたと思うので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。本書を読むきっかけになったのは、直属の上司からの紹介でした。

「AIやデータに関わる人間として、これからの未来のことについてしっかり考えさせられた

なんて、魅力的なことを語るもんですから、これはしっかりと読まなきゃと思い、本書を手に取りました。

ちなみに、安宅さんはデータサイエンティスト協会理事やヤフーのCSO(Chief Strategy Officer)、慶應義塾大学の教授、といったいろいろとすごい経歴があり、経団連や内閣府などの国家プロジェクトにも数多く関わっている人物です。

ヤフーの膨大なデータを活用した書籍も書かれており、過去に読書ログも書いています。良かったら是非読んでみてください!

ーーどんなことが書いてある?

一言で言ってしまうと、日本という国の未来を議論しています。安宅さんが描く未来はお世辞にも明るいとは言えず、このままだとマズいことになる、と警笛を鳴らしている、そんな内容です。

副題である「AI×データ時代における日本の再生と人材育成」という文面から推測できるように、AIやデータ活用の需要が高まってくるこれからの未来において、日本をいかに生まれ変わらせるか、そのための人材をどのようにして育成し、確保していかないといけないのか、ということが大きなテーマになっています。

本書の冒頭部分において、この「シン・ニホン」でまとめようとしたテーマを記載しています。

・現在の世の中の変化をどう見たらいいのか?
・日本の現状をどう考えるべきか?その中で産業再興、科学・技術政策はどうあるべきか?
・すでに大人の人はこれからどう生き、どうサバイバルしていけばいいのか?
・この変化の時代において、子どもにはどのような経験を与え、どう育てていけばいいのか?
・若者は、このAIネイティブ時代をどう捉え、どう生きのびていけばいいのか?
・国としてのAI戦略、知財戦略はどうあるべきか? 企業はどうしたらいいのか?
AI時代の人材育成は何が課題で、どう考えたらいいのか? 一人ひとりはどう学べばいいのか?
・日本の大学など高等教育機関、研究機関の現状をどう考えたらいいのか?今後、どうやったら元気になるのか?

どれも非常にセンシティブ、かつディープな問題ですね。これらのテーマは安宅さんの講演から起点にあり、本書もその講演で語られていることをベースに構築されているようです。

オーディエンスもバラバラだ。官もいれば、産も学もいる。経済系の人もいれば、教育系、データ×AI系、科学・技術系、財務系、法律系の人もいる。大人もいれば、子を持つ親、学生、中高生もいる。話す場ではそのどれかなのだが、これらをひとつなぎに俯瞰したものを描けないか、という途方もない試みに挑んだのがこの本だ。

ーー印象に残ったこと

著者が語るこの国の課題は下記のようにまとめています。

国であっても企業同様のマネジメント(≒経営) が必要なことは変わらない。(中略)ではマネジメントとは何をやっているのかといえば、結局のところ、
(0)あるべき姿を見極め、設定する
(1)いい仕事をする(顧客を生み出す、価値を提供する、低廉に回す、リスクを回避する他)
(2)いい人を採って、いい人を育て、維持する
(3)以上の実現のためにリソースを適切に配分し運用する

(中略)課題は何かといえば、(2) の人づくりと(3) のリソース配分になる。僕の見解ではこの2つの根本的な見直しがシン・ニホン実現に向けた真にヘソというべき課題だ。

つまり、「いい人を採って、いい人を育て、維持する」ことと、「リソースを適切に配分し運用する」ということが最重要課題と提言しています。

それを踏まえて、今の日本がいかに危機的な状況かということを表している内容をいくつか紹介しようと思います。

例えば、日本はAI×データ分野で世界から立ち遅れていると言われていることはご存知のとおりでしょう。著者は下記の3つを押さえることができていないからと指摘しています。

第一に、さまざまなところから多様なビッグデータが取れ、いろいろな用途に使えること。第二に圧倒的なデータ処理力を持っていること。データ処理力とは技術でありコスト競争力だ。第三にこれらの利活用の仕組みを作り、回す世界トップレベルの情報科学サイエンティスト、そしてデータエンジニアがいるということだ。

ビッグデータが取れていろいろな用途に使える、ということは諸外国から比べても圧倒的に遅れていると言われています。Uber、Airbnbのような個人資産を活用するタイプのシェアリングビジネスはことごとく制限がかかっているのが現状で、既存業態を保護する名目で、いまだに国外での圧倒的なユーザ支持が無視されている状況と著者は述べています。

この点中国は圧倒的で、国が主体となって様々なデータ活用ができるようになっているそうです。この辺を詳細に説明しているのが『アフターデジタル』という本が有名です。この本も非常に面白かったのでおすすめです!(読書ログでも書きました)

2つめのデータ処理力は本当に大事で、ここを投資しないとどんなに能力がある人間でも力を発揮できないことがよく言われます。エンジニアなのにメモリが4G程度のPCしか使えない、とか、セキュリティの関係でGoogleのサービスが使えない、とか某大企業からの切ない声を聞くと、日本終わってるなと思いますね。

3つめの世界レベルのサイエンティストやデータエンジニアが少ないというところがやはり大きな問題で、本書のメインになる「人材育成」のところでも大きく取り上げています。現在の残念な状況を踏まえ、著者は下記のように述べています。

今の時代において明らかにもっとも力強いのは0 to 1「創造」だ。(中略)量的拡大のハードワークができるスケール型人材を生み出すことだけに注力してきた日本の人材育成モデルは、根底から刷新が求められている。(中略)現在、この日本の教育システムが生み出す最高の人材は、テレビ番組でクイズ王になる、教育評論家や予備校講師になるぐらいしかないという残念なことになってしまう。
まず身につけるべきは、虚心坦懐に現象を見る力、その上で分析的、論理的に物事を考え整理する力だ。また本物のデータ×AI使い(データプロフェッショナル)、データサイエンティストになりたいのであれば統計数理、数学的な素養こそまず身につけるべきだ。


また、ちょっと前に話題になった博士号(PhD)取得人数が世界的に見て日本だけ減少しているというレポートがありました。

これは本当に由々しき事態で、日本国内の科学力の低下を意味していると言えます。『シン・ニホン』でもこの問題に触れており、著者は下記のように述べています。

なぜPhDをこれだけの数しか生み出せないのかといえば、おそらくその最大の理由は日本における大学院教育のほとんどがterminal degree(プログラムの終了時にもらう学位) をとる修士課程であることだ。しかも、この修士がないと博士課程に入れない。結果、大学院に入る学生の大半が、PhDを目指すことなく修士を持って世の中に出る。(中略)この状況の根本的改善には非専門職大学院(通常のgraduate school) における修士課程の廃止しかおそらく答えがない。

かくいう私も修士を持って世の中に出た一人なので、なんとも言いにくいですが、当時の状況からして博士課程に行く人は「異端」とみなされていた用に思います。言葉を選ばずに言うと、「人生に詰む」感じ。このあたりも著者はお金の目線で鋭く切り込んでます。

データ×AI分野はとりわけ世界がしのぎを削っているところであり、日本としても大きく踏み込むべきであることは、ここまでの検討から言うまでもない。中国のように爆増とまではいかないにしても、予算は少なくとも数倍になっているのではないかと思っていたが、蓋を開けてみると、真逆であり、予算維持どころか、この5〜6年で1割以上も削られていたのだ。
運よく日本学術振興会(学振) の博士課程特別研究員( 15)に選ばれたとしても、アルバイトは禁止となる。支給される年間240万円の中から学費、家賃、電気代、通信費、本やコンピュータなどの経費を出す必要がある。すなわち、すでに働いていてもおかしくない年代であるにもかかわらず、仕送りがなければ貧困線前後の生活しかできないのだ。正直このような条件は憲法( 25 条生存権) 違反なのではないかとすら感じられる。

科学分野の予算削減に始まり、博士課程学生の生活は貧困線前後の生活。これでは誰も博士課程に進まないでしょう。この憲法違反という文脈、本当に同意します。ちなみにこの学振の特別研究員に選ばれるのは本当に難しいんですよ。。。

他にも日米の大学の比較についても下記のように言及しています。

どれほど経済的に苦しくともせいぜい学費免除ぐらいしか受けられない日本の大学と、ニーズベースで学費どころか生活費まで出す米国の大学ではそもそも前提が違う。在学中にしかるべきケアをしてこなかったのに卒業後は寄付を募るという日本の大学のアプローチは、海外のそれとは質的に異なるのだ。

この点も同意です。。大学から寄付の案内来たことあるかと思いますが、寄付している人はどのくらいいるんでしょうね。。ちなみに、アメリカのほとんどの人は大学に寄付をしているそうですよ。

https://www-overseas-news.jsps.go.jp/wp/wp-content/uploads/2019/04/2018kenshu_05sfo_hamashima.pdf

ーー本書を読んで

さて、つれづれなるまま印象に残ったことを書きなぐってしまいました。私が読んだ感想を端的に言うと、AI×データ時代に生き抜くための指南書として、様々な人に読まれるべき本であると思いました。特にAIに詳しくない人でも、様々な分野における現在の日本の状況をまとめ、問題提起している本はなかなか珍しいと思うので、一読しておいて損はないはずです。

加えて、この国が現在置かれている状況がいかに危機的であるかということが痛いほどわかるかと思います。上で紹介しているのはほんの一部で、実際の内容はかなりボリュームがある内容です。書評するにあたり、かなり散らかった内容になってしまい、申し訳ないです。。

AIやデータがテーマになっているものの万人が読める、というか読むべき内容になっています。興味があって読んだことがなければ、ぜひとも読んでみることをおすすめします。特に国の中枢に関わる人は特に。。。!

『シン・ゴジラ』からインスピレーションを頂いたという本書のタイトルですが、ゴジラに滅ぼされる前に我々でできることを少しずつ、着実に進めていかないといけないと感じました。

いつも読んでくださりありがとうございます。
それでは!

TOP画像:Manuel Cosentino on Unsplash


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