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#31 『生命はデジタルでできている - 情報から見た新しい生命像』を読んでみて

こんにちは。なびです。

今回紹介する本は思いっきりサイエンス寄りの読み物です!知的好奇心を爆発させる刺激的な本でした!

【読んだ本】『生命はデジタルでできている - 情報から見た新しい生命像』
【著者】田口善弘
【発行所】講談社
【初版】2020年5月21日

ーーなぜ読もうと思ったか

一言でいうと、タイトル、ですw

個人的にこういった科学系の話はとても大好きで、特に生命が関わることとなるとものすごく興味が湧いてしまいます。個人的な嗜好もありますが、教育系YouTuberのヨビノリたくみ氏が絶賛している、ということもあり内容も面白いんだろうなあと思って読んでみました。

ーー何が書いてある

本書は生物学の最先端、「ゲノム科学」にフォーカスを当てている解説本です。本書の冒頭にはこのようなことを述べています。

いま、生物学の分野で静かな革命が進行しつつある、と言ったら読者のみなさんは驚くだろうか? その生物学の分野とは、ゲノム科学である。ゲノム科学に関する新しい知見がネットに流れない日のほうが珍しい。 「寿命を延ばす遺伝子発見!」 「『がんゲノム医療』検査に保険適用」 「オプジーボの対価、『対立』深まる」  なんだかすごいことがこの分野で起きているっぽい。だが、なぜ、「突然」こんなことになっているのか? その疑問に答えてくれる報道は少ない気がする。本書の目的はそれを少しでもわかりやすく説明することにある。

このゲノム科学を語る上で欠かせない概念として、ゲノム自体をデジタル情報処理装置として捉える見方(DIGIOME)を提唱し、最先端の知見を交えながら紹介をしています。

DIGIOMEという概念のもと、生命というものは「デジタル」で表現できるということを強く主張しています。これまでの生命の考え方から大きく変わっている(革命が起きている)と述べられています。

本書では「セントラルドグマ」(DNAという設計図をどのように読み解いて生命を作っているのか)や、ヒトゲノムプロジェクト(人間のゲノムを読み解いて、その構造を把握しようとするプロジェクト)、マルチオミックス解析(DNA・RNA・タンパク・代謝物といった4レイヤをまとめて解析する考え方)、AI/機械学習をゲノム科学へ展開、などといった多岐にわたる話題を紹介しています。本書を読むことで生命に対してまた別の角度で捉えることができることでしょう。改めて生命の素晴らしさ、そしてゲノムがもつポテンシャルを痛感できる一冊です

ーー印象に残ったこと

本書のテーマと言える「DIGIOME」という概念、これ自体が最も印象に残ったことです。衝撃だったことが多々あり、これだ!と選ぶことも難儀だったので、簡単にその概念を紹介します。

生命はDNAという設計図を元に、RNA、アミノ酸を経てタンパクが形成され、そのタンパクが生命を構成している、というのは中学高校あたりの生物学の知識であったと思います。DNAはアデニン(A)・グアシン(G)・シトシン(C)・ウラシル(U)・チミン(T)の5種類の塩基で構成された構造で、塩基配列に応じてRNAやタンパクを構成する性質があります。著者曰く、この塩基配列がまさにデジタル的な挙動をしていると述べています。

そもそも「デジタル」というのは、乱暴な表現をしてしまうと0,1といった2進数で表されるものです。音声や画像などのアナログなデータを一旦2進数で変換することにより、そのまま情報を伝送するときと比べて正確性や速度が著しく向上できるというメリットがあります。テレビやウォークマンとかはすでにデジタル化が進んでおり、0, 1で表現されたデジタルデータを元に映像や音楽を楽しめています。

DIGIOMEが意味するところは、このデジタルを「アナログな方法で」再現しているということです。

仮想的な電気信号でしかないデジタル通信と異なり、DNAは現実の物体を利用したデジタル情報処理である。ATGCの四種類の分子の並び順でデジタルデータを表現する。

DNAは塩基配列といった実際の物質で構成されているデジタルデータであり、それを読み取ることでRNAやタンパクを生成すると捉えているのです。ATGCといった塩基がデジタルデータで言う0, 1の2進数で表現されているものと同じ、という訳です。まさにデジタルデータ(DNA)を読み取り、情報(RNAやタンパク)を生成する「コンピュータ」と同じようなことである、と言うことです。このことから、生命はデジタルでできている、ということです。

なるほど、生命はデジタルと同じような挙動ができるということはわかった。DNAとコンピュータプログラムには通じるものがあるかもしれない。しかし、著者は単なるプログラムとは異なる点として、DNAのシステムには「ロバスト性」があると述べています。

ロバスト性とは、システムに多少の間違いがあったとしても停止せずに柔軟に対応できる性質のことを指します。確かに間違いがあってシステムが止まってしまっては生命が停止してしまうので、生命を維持するためにロバスト性が採用されたのは納得です。このロバスト性、実は機械学習に通じるところがあります。機械学習は従来のプログラムと異なり、データのみ(場合によってはラベルなど)を与えることで、機械が自動的にその特徴を読み取ることができます。データから様々な特徴を学習し、その内容に応じて振る舞いを変えるところはまさにDNAのシステムに近しいところがあり、個人的に生命とテクノロジーの融合が実現できるのかもしれないと心躍りました。AIの応用学問の一つであるコンピュータで生命を作り出す「人工生命」という学問が発展しているのも頷けます。

ーー本書を読んで

中学、高校あたりで止まっていた生物学の知識から開放され、一気に未来感が感じられる、そんな本です。特に生命とAI・機械学習との関連性のところについては衝撃を受けました。最近は理学の分野でも機械学習の台頭が目立っているということを聞いたことがあります。実験や観察で得られた膨大なデータを元に、法則性や関連性を機械に探索させる、というように一つの道具として用いられているようです。

ゲノム科学、すなわち「生命とは何か」という深淵かつ永遠の課題に対してテクノロジーが挑戦する。まさにSF映画みたいなことが現実の世界でも起きているということを実感させられました。知的好奇心が旺盛の方、SF好きな方、ぜひとも本書を手にとって見てください!


いつも読んでくださりありがとうございます!
それでは!

TOP画像:Greg Rakozy on Unsplash

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