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「傲慢と善良」辻村深月

緩やかに変化されると、それに気づけない。
親戚の子供が急に大きくなったように見えるのは、盆と正月くらいしか会わないからだ。
親にはそんなに大きくなった意識がなく、気づくと背を越されていたりする。

社会も緩やかに変化しており、あらためてきちんと思考すると愕然とする。
例えば、現在ではアニメ「クレヨンしんちゃん」の家庭は平均的な家庭ではないのだそうだ。
サラリーマンで既婚、二人の子持ち、東京の隣接県に一戸建て(庭付き)を持ち、ペットと車がある。
マイホームのローンに追われ、かつては満員電車に揺られるサラリーマンが平均的な大人像だったのだが、今は違うらしい。
まず、非正規労働が多い、なので結婚は経済的に難しく、子供は一人がいいところ、ローンの余裕はなく、集合住宅がやっと。
庭?公園があれば良くない?だそうだ。

コンビニで月収18万円でも貯金ができる!!とうたった本が売られてた。
意識も違う、月収30になる方法ではなく、与えられた環境でどう生きるかを人は求めるようになっているのかも。

日本人は貧乏になった。
あるオタク評論家によると、貧乏とは状態なのだと言う。YouTubeで拝見しました。
定量的な尺度で計れるもの、収入や資産などで。
対して貧困とは解釈なのだそうだ。
貧乏で困っていると貧困、こちらは定性的な尺度で本人しかわからない。
日本人は貧乏になったが、生活は豊かだから困っていない、だから18万円の月収でいかに楽しく過ごすかを模索しはじめたのかなと。

こっから本題、恋愛・結婚というものにも変化が起きている?
思い返せば結婚はお見合い主流だった。
だってサザエさんとマスオさんもお見合いだぜ。
うちの婆ちゃんも。
それから恋愛結婚へと移行、ドラマも恋愛ものばっか。
次はできちゃった婚が世間に認知されるようになった。
そして、今は恋愛不用時代、彼氏彼女がいる人は珍しく、そっから結婚はさらに珍しい、結婚は頑張ってするもの「婚活」の時代だという。

本作は真っ向から婚活する男女にフォーカスをあてて、彼らの状況、心理などが描かれている。

主人公の男性は、恋愛関係にあった女性と別れる。
理由は結婚への意識の違い。
結婚、というか人生をどう設計するかを見据えていた女性と違い、男性はそんなことまだまだだ、という気持ち。
その恋愛を引きずりながら、ようやく結婚というものを意識し婚活を始める。
そこで出会った女性、まだ踏ん切りがつかず結婚に踏み切れないでいると彼女が失踪する。
彼女を探しながら、婚活とは?結婚とは?恋愛とは?人生設計とは?に向き合うことになるという話。

辻村作品に出てくる無邪気な悪意も、事件性のありそうな出来事も出てくるが、この本は読者に探究を強いる作品ではないかと思う。
社会の形が、恋愛・結婚の形が変化しようと、決して変わらない「何か」があるのではないか?それはなんなのだろうか?を探究する旅に。


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