見出し画像

「漱石と倫敦ミイラ殺人事件」島田荘司

日本の有名な作家、文豪夏目漱石。
彼がロンドン留学していたというのは有名な話。
そしてちょうどそのころフィクションの世界では、最も有名な名探偵シャーロック・ホームズが倫敦で活躍していた。

明治時代、学者や作家など著名な人物は欧州留学している。
夏目漱石はイギリス、森鴎外はドイツ、永井荷風はフランスなど。
ロンドン留学している人物では南方熊楠などもいて、彼もよくフィクションに登場する。

漫画だが、「漱石事件簿」という作品があり、これには南方熊楠、夏目漱石、シャーロック・ホームズのモデルとなった人物などが登場する。
舞台の子役としてチャップリンが出てきたりと小ネタも豊富。
このように、霧の街ロンドンと日本の著名人は、フィクションとして魅力的な題材なのだ。

本作は本格推理小説の旗手、島田荘司が書いた、ロンドン・漱石・ホームズのコラボレーション作品。
面白いに決まっている。

島田荘司作品の中でも御手洗潔シリーズは、学生のころ図書館で借りてむさぼるように読んだ。
ノンシリーズの本作もその流れで手に取った作品。
御手洗潔シリーズはシリーズを重ねるにつれ、分厚く、重厚な作品になっていく。
本作は手ごろな長さで、かつシリーズものと同様に本格的な推理を楽しめる良作だった。

物語はワトソン記述パートと漱石記述パートが交互に進む形。
漱石が下宿先で出会った怪現象に悩まされていると、師である人物がホームズを紹介する。
そして漱石とホームズ&ワトソンが出会う。
漱石視点からだと、知識不足による無意識な東洋人蔑視、謎の言動、殺人的なバイオリンの音色、とにかく無茶苦茶な奇人としてホームズが描かれる。
ワトソン視点ではいつも通り、少し変わっているが理知的なホームズが東洋人の依頼人がもってきた、不可思議な謎と対峙するという描かれ方。
そのギャップがおかしくて、にやりと笑いながら読んでしまう。
謎自体も非常に興味深く、きちんと論理的な解が出る。
そこは島田荘司らしくしっかりとしたミステリーに仕上がっているのだ。
本当に面白い趣向だった。

記憶が曖昧なのだが、最後の章では漱石と探偵コンビの別れが描かれる。
これが誰視点だか分からないのだが、そこはかとなく友情と別離の悲しみが描かれていて"じんわり"としてしまった。

本筋に関係ないが、昔の外国地名の漢字表記、いいよね。
倫敦:ロンドン
紐育:ニューヨーク
巴里:パリ
伯林:ベルリン

と全部かっこよい。

https://amzn.to/2WP2VTN

https://amzn.to/307QvI1


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?