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ものがたりの森へようこそ

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物心ついた時から、どこかからかお話がノックするように訪れます。 私に見せてくれた物語や登場人物たちを、できるだけ、忠実に文字に置き換えようと試みています。物語に登場する彼ら彼女ら… もっと読む
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洗濯物を干しながら

洗濯物を干しながら

洗濯物を干しながら

ソックスを干しているときに、
ふと、焦燥感に襲われた。
ひとつ、ひとつピンチにはさんでいく
その時間さえ、たまらなくもったいない、というか
めんどくさいというか。

これまでのことと、
これからのことが
一気に襲ってきて
今、ここ、にいるのに
めちゃくちゃ、ざわついてる。
とてつもなく焦っている。

だから
手に取っているソックスのこと、
これから干すトランクスのことも
目に

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うすむらさきの春

うすむらさきの春

あなたのおかげで
わすれていた痛みも
はじめての景色も観れたし、知れたし
齢なんぞ数字にすぎぬと
頬染めて、指をつないで
唇を探して
月と抱き合った。

愛しいという言葉の意味が
自分の中に増えるなんて
想像もしていなかった。

ただただ真ん中ストレートの
あなたが
私のココロの奥の
止まっていた泉を
あけたから
あふれてあふれて
どうしようもなく
あふれて
揺れる気持ちが
濡れて濡れて
湿り気と

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すっぱい梅干し・・・②

すっぱい梅干し・・・②

 あの日以来、一平は土間に入れなくなった。

 じいちゃんは、ばあちゃんが死んでから、ロクなものを食べていない。
 タミコさんの作る食事は口にあわないのだ。一平だって、口にあうわけじゃないけど、仕方ないから食べている。
 じいちゃんは、コンビニ弁当だって食べやしない。

 というか、ばあちゃんのつくったご飯以外を、じいちゃんは食べたくないんだ。一平には痛いほどその気持ちが、わかった。

 でも、そ

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すっぱい梅干し ①

すっぱい梅干し ①

 まだ五月だというのに、まぶしすぎる日差しは強く、とっても暑くてムッとするほど湿気のある日だった。
 一平は、意を決して土間に入った。
 土間の暗さに目が慣れなくて、一平は一瞬、クラっときた。
 思い切ってこの土間にはいってしまえば、今でも「こねつけ食べるか?」  というばあちゃんの声が、聴こえてきそうだった。鼻先の辺りで感じるこの土間の空気が一平は、ほんとうに好きだった。あのことがあるまでは・・

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未来につづく小さな扉           ワクワクを5年・・・エピソード2

未来につづく小さな扉           ワクワクを5年・・・エピソード2

 そういえば、小さい時からアスカは、おばあちゃんに預けられる日が、イヤじゃなかった。

 ママとはまるっきり違ったからね。

 おばあちゃんといると、あんまり怒られなかったし、なんだか息がしやすかった気する。。おばあちゃんは、何かするときも「さあ、やってみようかね。」と一緒にやってくれる。たとえば、おやつをつくるとき、たとえば針に糸を通すとき、最初がうまく行かないときも、「こうやったらどうだろう?

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ワクワクを五年

ワクワクを五年

 今日は、朝から嫁の多喜子さんに頼まれて孫のアスカを連れて、隣町の田村クリニックまできた。

 なんで、この隣町までわざわざ行かなくちゃ行けないのか、わたしにはさっぱりわからないけれど、多喜子さんは、アスカのどこがどう悪いのかはちっとも説明してくれないし、本人には訊きづらいので、しょうがない、しょうがない。
 とは言ったって、アスカももう中学生なんだし、家の近所の丸山医院なら、高熱でもないかぎり一

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