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くらしのスケッチ

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今日が人生最後の日なら
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あー

あー

死ぬ間際に「あー楽しかった」と言って死ねたらいいね。

そんな言葉を聞くことがある。なるほど、理想的だ。

でも、自分にはそれは難しいかな、と思っている。

というのは、僕の祖父母はいずれも晩年に認知症になり、最期は息子や孫が誰かもわからないような、ぼんやりした状態でこの世を去ったからだ。家系的に僕もそうなるような気がしている。

人には、いや少なくとも僕には、人生を総括する機会は訪れないのではな

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陰口を言わない人

陰口を言わない人

陰口を言わない人は素晴らしいと思う。

でも僕はそういう人をどうも信用できない。

よく言われる話で、人が団結するための簡単な方法は、共通の敵を作ることである。つまり、陰口を言わないということは、共通の敵を作らない、「あなたとは仲間になるつもりがない」という態度なのだ。

素晴らしいことだ。僕も派閥争いみたいのはつまらないと思うし、大嫌いだ。

陰口はかなりの確率で本人に届く。陰口を言う人は得てし

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ちょっとやそっとじゃ殺し合いはやりませんよ

「意外と、言えば変わるものなんだなって思いました」

以前、若い部下から言われたことがある。私たちが、ある学校を卒業した人たちを、本人たちが希望する機関に割り振るという交渉をしていた時のことだ。

候補者の一人Aさんが希望する機関から「受入れ不可」の回答があった。理由は、「Aさんは卒業試験の成績が我々が要求する水準を超えていない」というものだった。

ふむ、Aさんの調書を読み込んでみると、確かに試

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小説を読む人、読まない人

これは読書好きの人なら、少なからず知っている言葉である。至言と言えよう。

と言っておきながら、私は小説をあまり読まない。好んで読むのはノンフィクションやビジネス書、実用書、思想書、自己啓発書、エッセイなどだ。

小説をあまり読まない理由を浅薄に述べるとすれば、それは現実ではないからである。自分が現に生きる世界の有り様を知り、技術を知り、自分の人生をより良くするものではないからである。

では、小

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まともな独身女性

まともな独身女性

同僚の独身女性に、「ある程度の年齢で独身の男性と女性を比べた場合、感覚としては、圧倒的に女性の方がまともな人が多いと思うんですけど、どう思いますか?」と聞いてみた。いろいろ失礼な話だ。

彼女は、「そりゃあ、自活できる女性はまともだから自活できるんですよ」と答えた。

なるほどねえ…。確かに、この日本社会で女性が一人で生きていくのは、知力、体力、調整力、人格、あらゆる面で男性以上の能力や努力が必要

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金さえ払えばそれでいい、のか

金さえ払えばそれでいい、のか

同僚の先生がため息をついていた。

よくある話ではある。お店で食事をした時に「ごちそうさま」と言うかどうか。電車やバスに乗った時に「ありがとうございました」と言うかどうか。

対価を支払えば商取引は成立し、両者の要求が満足するのだから、双方に感謝を述べるべき理屈は生じない。それがこの学生(の母親)の考え方だ。

他方、こんなことをわざわざテーマにしているのだから、もちろん私は「言う」派である。理由

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言葉を、聞かない

『言葉を失ったあとで』(信田さよ子✕上間陽子)は、至るところに読み返したい部分がある本だったが、特に「第5章 言葉を禁じて残るもの」がよかった。

「言葉を禁じる」ということ。臨床心理士の信田さよ子さんは、相談者の方に、自分の固有の体験を近代的家族言語で語らせないのだという。

昨日、自分の携帯電話の番号を公開して、もう10年以上、死にたい人からの電話を聞いている坂口恭平さんが、Twitterで近

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おはよう、こんにちは、こんばんは

おはよう、こんにちは、こんばんは

今がいつの何時かわからないけど、お読みいただき、ありがとうございます。

あなたも、私と同じ人間なんですよね。当たり前ですけど。

部屋はあったかいでしょうか。外は雨でしょうか。ご飯はもう食べましたか。寝不足ではないですか。コーヒーとか飲みましたか。苦いですか。お風呂入りましたか。

いろいろ、考えていますか。今月の支払いのこととか、好きな人のこととか。明日は仕事ですか。しんどいですか。元気ですか

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本能の脅迫

本能の脅迫

ここ最近、進化論とか生物学に関心を持っています。とは言っても適当な一般書を流し読みしている程度のものですが。

その理由は、私自身が、幼い頃から生物の本能に脅迫されて生きてきたのではないか、という疑問があるからです。

私の初恋は保育園の年長の時でした。初恋と言えば甘美な響きですが、要するに6歳の時点で、「遺伝子を残す」という生物の本能に駆り立てられ始めた、ということです。

そしてその時、私は恋

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ぼくがここに / まど・みちお

ぼくがここに / まど・みちお

「ぼく」や「ゾウ」や「マメ」は、それぞれに一定の体積を持ち、侵し難く空間を占有している。

それは「このちきゅうの うえでは こんなに だいじに まもられている」原理というか法則というか、事実なのである。

この圧倒的な事実。

観念ではなく物質としてある、この事実が「すばらしいこと」。

そして、生命が終わった後もなお、分子や原子に変わって同じだけ空間を占有し続けるのだから、私たちは、時間すら占

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たった一人の君

たった一人の君

世界に影響を与えた人物や集団については、代わりがいたかもしれない。

その時代の環境や政治や経済が、象徴となるアイコンを求める。

例えば英国は別のビートルズを生んだかもしれないし、日本は別のオウム真理教を生んだかもしれない。

しかし、こと個人のレベルにおいては、僕に影響を与えた彼や彼女がいなかったとしても、他に代わりがいたとは思えない。

歴史や社会にとって、君や僕の代わりは、いくらでもいる。

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NG

昔から、ドラマや演劇で役者が正しい言葉で淀みなく話すことに違和感を持っていた。

いや、言い間違いやためらいの表情さえ、すべての言葉と振る舞いに、隙間なく意味が与えられている。

私達の日常はそうではない。言い間違いや成立しない会話があふれ、いわばNGだらけだ。

しかし、そもそもなぜNGが起きるかと言えば、従うべきシナリオがあるからだ。

私達の日常にはシナリオがない。

シナリオがあるとすれば

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LOVE理論 / 水野愛也

いつか「恋愛の教科書」を書きたい。そう思ったことがある。

きっかけは『LOVE理論』という本だ。

実に、美的センスを感得しにくい。正常な感覚の持ち主なら書店で手に取ることもためらわれるのではないだろうか。

この本は、ベストセラー『夢をかなえるゾウ』で有名な作家の水野敬也さんが「恋愛体育教師・水野愛也」の別名義で2007年に刊行した非モテ男性向けの恋愛マニュアルだ。

2013年には文響社から

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juno個展『風のたより』銀河ツバメのワークショップ 2021.5.29@手紙社Work Studio

juno個展『風のたより』銀河ツバメのワークショップ 2021.5.29@手紙社Work Studio

刺繍、やったことありますか?

僕はありません。

でも好きなんです、junoさんの作品が。倒置法で言うと。

junoさんを知ったのはTwitterに流れてきたある日のツイートです。

およ?ブランキーやん。『COME ON』やん。

僕はサン=テグジュペリの『星の王子さま』を愛する人と、Blankey Jet Cityを愛する人は、無条件で信用します。同じ人種だと思っています。

そしてこのキ

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