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歳時記を旅する 18 〔萩〕前*初萩に小声の雨の夜も降り

  土生 重次
    (昭和五十三年作、『歴巡』)
 
元禄二年(一六八九)五月四日(陽暦六月二十日)、仙台に着いた芭蕉一行は繁華街の国分町に泊まる。一昨日からの雨は少し止んだ。

仙台は萩で知られる歌枕の宮城野の地。
 萩の花の風情について、芭蕉に入門した森川許六は、「萩はやさしき花也。さして手にとりて愛すべき姿は少なけれど、萩といえる名目にて、人の心を動かし侍る。」と評している(「百花譜」『風俗文選』所収)。

 句は、夜の雨音をささやく声のように聞いている。小声の細やかさは、萩の花の細やかさにも通じている。

(岡田 耕)

(俳句雑誌『風友』令和三年九月号 「風の軌跡―重次俳句の系譜―」)

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