歳時記を旅する47〔浅春〕後*侘助てふ菓子のうす紅春浅し
磯村 光生
(平成五年作、『花扇』)
「和菓子は五感の芸術である」とは、虎屋十六代当主であった黒川光朝が提唱した言葉である。
視覚は、色や形、あるいは素材から受ける印象。触覚は、手で触る、菓子楊枝で切る、口に含んだ時の噛み心地や舌触りなど。味覚は、言うまでもない重要な要素。嗅覚は、米や小豆等の原材料の持つほのかな香りや、柚子や山椒などの香り。そして聴覚は、食べるときに出る音ではなく、一つ一つの菓子に付けられた菓銘によって感じられるものであるという。
一月から二月にかけて、和菓子屋の店頭には「梅」や「鶯」などをかたどった和菓子が登場する。句は、その中の「侘助」の色を見て、菓銘を聞いて、春を実感した。
(岡田 耕)
(俳句雑誌『風友』令和六年二月号「風の軌跡ー重次俳句の系譜ー」)
*参考文献
黒川光朝『菓子屋のざれ言』虎屋 1978年
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