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ゆっくり深読み 中島みゆきの『ヘッドライト・テールライト』その32「大林宣彦&横溝正史の 金田一耕助の冒険」


前回はこちら



A MOUSOU


(本作品は著者の身体に憑依した横溝正史の霊が世間で駄作の烙印を押されている大林宣彦の映画『金田一耕助の冒険』を種明かしするという妄想です。ネタバレどころか横溝文学の秘密の核心部分にも踏み込みますので予め御了承ください)




イタリア語で「受胎告知の天使ガブリエル」を意味する Gabriele d'Annunzio(ガブリエーレ・ダンヌンツィオ)という名前だけあって…

本当に聖母マリアと受胎告知を生涯のテーマにしていたんですね…



名は体を表す。

夏目漱石の本名「金之助」は「鋤(すき)」、だから金田一は「耕」助。

「里見美禰子」と「小川三四郎」もそうだな。


え?


ヒロインの名前は「里見美禰子」、そして主人公の名前は「小川三四郎」…

この両者の名前に、夏目漱石がどんなメッセージを隠したのか、わかるかな?


二人の名前に隠されたメッセージ?

「里見美禰子」はモデルになった平塚はる(らいてう)とは似ても似つかない名前だし…

「小川三四郎」はモデルになった漱石の弟子 小宮豊隆と「小」しか被っていない…

なぜ小宮ではなく小川なんだろう?



ここに知恵が必要である。


またそれですか?

次は「思慮ある者は…」と来るんですよね?


思慮ある者は「小川三四郎」という名前に、どのような意味があるかを考えるがよい。

名前は数字を指している。


名前は数字を指す? 三四郎なんだから当り前じゃないですか。


三四郎はイタリア語で San Siro 。


サンシーロ? ミラノの?



そして三四郎は、数字で346。


346? だから何なんですか?


346は3:46であり34:6。


3時46分? 34時6分?


時刻ではなく章節。

そして4×6は24だから、3(4×6)で受胎告知日。


は? 受胎告知日は3月25日です。

3月24日は受胎告知日の前日ですよ。


では聞くが、カトリックやプロテスタントなど、西方キリスト教会でクリスマスは何月何日かね?


クリスマス? 12月25日ですけど。


違う。

西方キリスト教会におけるクリスマスは「12月24日の日没から12月25日の日没まで」だ。

だから24日の夜をイエス・キリスト降誕日12月25日のイブニング「クリスマス・イブ」として祝う。

多くの日本人がクリスマスの夜だと勘違いしているグレゴリオ暦12月25日の夜は、キリスト教会暦ではもう12月26日の夜だからね。



あっ、そうか…

つまり受胎告知日も、正確には3月24日の日没から3月25日の日没まで…


そういうこと。

そして「三四郎」の数字「三四」とは「半七」のことでもある。


はんしち?

『半七捕物帳』の半七ですか?



七を半分にしたら「三四」だろう?


7を半分?「3.5」では?


三点五郎などという名前があるか。

七の半分、つまり「半七」は「三四」郎。

だから小説冒頭でお泊り不倫外泊する人妻の仮名は「花」だった。


 三四郎は宿帳を取り上げて、福岡県京都郡みやこぐん真崎村まさきむら小川三四郎二十三年学生と正直に書いたが、女のところへいってまったく困ってしまった。湯から出るまで待っていればよかったと思ったが、しかたがない。下女がちゃんと控えている。やむをえず同県同郡同村同姓花二十三年とでたらめを書いて渡した。そうしてしきりに団扇うちわを使っていた。

夏目漱石『三四郎』


花? 適当に書いた名前じゃないんですか?

よくある名前の記入例「○○太郎、○○花子」みたいな。


目にうつる全てのことはメッセージ。

世の中に意味のないものなどない。


では「花」という名前の意味は?


♬簡単なことなのに どうして言えないんだろう♬

♬言えないことなのに どうして伝わるんだろう♬


BUMP OF CHICKEN?

というか『花の名』でも、花の名前は明かされませんけど…

いったい「花」とは何の花なのですか?



バンプの「花」はヨハナン。

三四郎の「花」はマリーゴールド。


マリーゴールド?



そう。そのマリーゴールドだ。

あいみょんはマリーゴールドをよくわかっておる。



それはゴム手袋のマリーゴールド…


間違えた。こっちだ。



ですよね。マリーゴールドは誰でも知ってるキク科の花です。

あいみょんがマリーゴールドをよくわかっているというのは、いったいどういう意味なのですか?


あのミュージックビデオを見てわからんかね?



なぜ庵野秀明と米津玄師も?


まったく鈍感な奴だ。

『マリーゴールド』のCDジャケットを見て、何か気づかんか?



ずいぶんと変な写真ですよね。

地面から2本の腕が突き出ていて、あいみょん自身が花になっている。


あれは私の作品のオマージュ。



ええっ!?

あれは犬神家の一族なんですか!?



マリーゴールドはキク科の花。

斧琴菊(よきこときく)とは「善き事聞く」つまり「福音」だな。

ちなみに『犬神家の一族』では「福音」が「復員」に置き換えられている。

「ふくいん」の駄洒落じゃ。


しかしなぜ、あいみょんが横溝先生の『犬神家の一族』を…


だって「マリーゴールド」は「善き事聞く」だろう?



え?


歌詞にもあっただろう?

♬麦わら帽子の君が、揺れたマリーゴールドに似てる♬

この「麦わら帽子」とは、西条八十『ぼくの帽子』や森村誠一『人間の証明』と同じように、宗教画で人物の頭に描かれる黄金色の halo(後光・光背)を喩えたもの。

夏目漱石が「日差しを遮るために頭にかざした丸い団扇」と呼んだアレだ。



ああ… そういうことか…

しかしなぜ『三四郎』の人妻「花」がマリーゴールドなのですか?


「お花半七」はマリーゴールドの話だからじゃよ。


へ?


漱石は三四郎のモデルになっている弟子の苗字「小宮」を「小川」にした。

漱石の関係者や熱心な読者なら「宮と川」に意識が向くはずだ。


「宮と川」に意識が?

まあ気にはなるでしょうね。明らかに小宮であろう人物が小川になっているんですから。


三四郎は半七、一夜を共にする女の名は花。

つまり漱石は「落語」の存在を匂わせているのだよ。


落語? 落語って『饅頭こわい』とか『寿限無』とか?


そういうバカバカしい話ではなく、もっと高度なユーモアやジョークが使われたもの。

愛が生まれた日の物語だ。


愛が生まれた日の物語?



そう。世界で最も大切な「愛」が生まれた日の物語。

落語『宮戸川』。


みやとがわ? 確かに「宮と川」だ…

でもそんな落語は聞いたことないな…

どんな話なのですか?


落語『宮戸川』の始まり、ビギニングはこうだ。


日本橋小網町にある質屋の若旦那 半七は、主である父に使いを命じられ集金に出かける。

しかし碁・将棋狂いの半七は、得意先で「もう一番、もう一局」とやっているうちに、すっかり帰りが夜遅くになってしまった。

半七の父はとても厳格な男で「碁・将棋に狂う奴は親の死に目にも会えねえ親不孝者だ!そんな道楽者はこの家から出て行け!」と激怒。

半七は勘当されて家から締め出しを食ってしまう。


いきなり家から追い出されるって、ずいぶんと不穏な始まりですね…


「追い出された」のではない。「締め出しを食った」のだ。


それは同じことでしょう。

「締め出しを食った」は「追い出された」の古い言い方です。


イン・ザ・ビギニングでは「食った」が重要。


さっきからビギニング、ビギニングって、落語なんだから日本語で「始まり」とか「初めに」って言えばいいじゃないですか。

まったく意味がわからないな。

そもそも、碁や将棋で遅くなったからと言って、親の死に目に会えない奴だと決めつけるのはどうかと思いますよ…


半七は親の死に目に会えない。

というか、会えるわけがない。主である父は死なないのだから。


は? いくら長生きでも、いつかは死ぬでしょう?


どうかな。死んだと思わせて実は生きていたというケースもある。


まあ、そういう出来事も、たまにありますけど…

葬儀が終わって埋葬したら、生き返って遺族を驚かせたとか…

で、家から追い出された、じゃなくて締め出しを食った半七は、どうなったのですか?


『宮戸川』のビギニングには続きがある。


半七が締め出しを食った時、向かいの家でも同じことが起きていた。

船宿の箱入り娘お花は、友達の家で歌カルタ(百人一首)に夢中になり、門限を大幅に過ぎてしまった。

船宿の女主であるお花の母親は「嫁入り前の娘が夜遅くまでフラフラ遊んでいるとは何事か!そんなふしだらな娘に育てた覚えはない!」と激怒。

勘当され、閉め出し食ってしまった。


同じ町に住む二人が、同時に親の怒りを買って、同時に締め出しを食った?


そう。ちなみに半七とお花は幼馴染。

年下のお花が生まれた時から互いを知っていた。


なるほど。

そういう関係だと二人の間に恋愛感情はなかなか芽生えませんね。

なんだか他人とは思えないというか、まるで本当の兄妹のような感じがして、一緒にいても性欲がわかない。


そう。二人の間に肉欲はわかないはずだった。

ちなみにここだけの話だが、実は二人は本当に血肉を分けた兄妹なのだ。


ど、どういう意味ですか?

それじゃあ半七とお花は、質屋の主と船宿の女主の間に生まれた兄妹だと?


質屋と船宿は同じ家なんだな。


は? 同じ家って何ですか?

というか、二人の間に「愛」が生まれるんですよね?

それが血肉を分けた関係でいいんですか?


まあ、そのへんは気にしないでいい。スルーしてくれ。

昔はそういうことが、ちょくちょくあったのだ。


確かに昔はどこの世界でも近親婚があったようですが…

イザナギとイザナミも兄妹ですし…

でも二人が本当は血肉を分けた兄妹だなんてこと聞かされたら、気にするなと言われても…


落語をいちいち真剣に考えるな。ぜんぶ作り話、ジョークなのだから。

そもそも江戸時代の商家で嫁入り前の娘を門限を過ぎたからという理由で勘当して家から閉め出すなんてことは有り得ない。

もうその時点でギャグなのだ。


まあそうですけど…


さて、同じ町内で同じタイミングで締め出しを食ってしまった幼馴染の半七とお花は、一緒に夜道を歩きながらお互いの境遇と身の振り方について語り合う。

半七は小網町から程近い霊岸島の叔父の家に行くとお花に伝える。

するとお花は「わたしも霊岸島の叔父さんのところへ連れてって」と言う。

半七が「なぜ?」と尋ねると、お花は「親類が遠くにしかいない」と答える。

半七が「どこ?」と尋ねると、お花は「肥後熊本」と答えた。


霊岸島?


悪霊島ではないぞ。

あくりょうとう… 鵺の鳴く夜はおそろしい…



わかってます。

小網町から霊岸島は約1㎞ちょっとの距離ですね。

夜道なら歩いて二十分といったところでしょうか。

ただ、お花が言う「親類は肥後熊本にしかいない」は、ちょっと有り得ないと思いますが…



だから落語はすべてジョークだと言ってるだろう。

お花は船宿の娘という設定。だから肥後熊本。


なぜ船宿だと肥後熊本なのですか?

熊本に船宿のイメージはあまりありません。

筑後の水郷 柳川とかならわかりますが…



♬あんたがたどこさ♬


はい?


♬肥後さ 肥後どこさ 熊本さ 熊本どこさ♬

続きは?


続き?

船場さ… あっ!


すべてのモノゴトには意味がある。

お花に適当に「肥後熊本」と言わせてるわけではないのだ。


では「小網町」や「霊岸島」にも意味が?


あたり前田のクラッカー。



いったいどんな意味が…


それは後でたっぷり解説する。締め出しを食った二人の続きはこうだ。


お花に「霊岸島の叔父さんのところへ連れてって」と言われて半七は困った。

霊岸島の叔父さんは近所で「飲み込みの久太」と呼ばれるくらい物わかりの良すぎる人物で、見てもないことや知らないことでも「よし、わかった。もう言わなくていい。叔父さんは何でもわかってる。万事まかせておけ」と早合点してしまう。

そんな叔父さんのところへ、半七がお花を連れて「一晩泊めてください」と言ったら、とんでもない話にされてしまうだろう。

「二人はデキている。お花のお腹が大きくなる前に祝言をあげたほうがいい」と…


物わかりが良すぎる叔父さん…

金田一シリーズの加藤武みたいだ…



ふふふ。まさに(笑)


叔父さんに会わせてはいけないと半七はお花を追い払おうとするが、お花は必死になって半七について来る。

半七が急ぎ足で逃げようとしても、お花はぴったりついて来る。

そうこうしているうちに、二人は霊岸島の叔父さんの家に着いてしまった。

二人を見た叔父さんは案の定、早合点して「何も言うな。おじさんは全部わかっている。さあ早く中に入れ。布団は一つしかないから仲良く寝るんだぞ」と言う。


恐れていたことが… これは大変なことになりましたね…


半七は布団の真ん中に線を引いて「ここから向こうはあなたの陣地で、こっちはわたしの陣地です。この線を超えてはいけませんよ」とお花に釘をさした。

しばらくは大人しく横になっていたが、外で雷がゴロゴロと鳴り始めると、お花は怖がって半七に近づいてくる。

焦った半七は「駄目です!この線を超えたら、あなたに大変なことが起こります!」と言いながら後ろへ下がっていくが、お花は「だって雷が近づいてきて怖い」と言いながらどんどん迫ってくる。

半七がこれ以上うしろへ下がれなくなった時、ものすごい音と共に雷が近所に落ち、その光でお花の姿が照らされた。

はだけた着物の間から見える、鮮やかで官能的な赤い長襦袢ながじゅばん

その長襦袢の下には、お花の白い肌…

ついに欲情を抑えきれなくなった半七は、お花の胸元に手を伸ばし、二つの乳房をまさぐった…


ゴクリ…


で、ここでオチになるのだが、オチには2パターンある。


へ?


1つは、今の君のように前のめりになって聞いている観客を見てニヤニヤしながら「残念ですが、ちょうどお時間です」または「ここで(録音された)テープが切れてしまいました」で終わるオチ。

もう1つは、二人が無事に出来ているかどうか心配になった霊岸島の叔父さんが部屋を覗きに来ていて、雷の光で半七に見つかってしまうというオチ。

半七が「違うんです、これは…」と言い訳しようとすると、叔父さんが「何も言うな。おじさんは何でもわかってる。あとは全部おじさんに任せて… いや、あとは自分でやりなさい」と言うオチだ。


ひどい… けど笑える…


これが落語『宮戸川』なんだが…

クリス君、キミは気付いたかね?


気づいた? 何をですか?


やれやれ。

もう一度よく話の筋を考えてごらん。



話の筋? 別にこれといって変なところは…


では、この絵を見ながら『宮戸川』を聞いてごらん。

フラ・アンジェリコ『コルトーナの受胎告知』を見ながら…



ん?



つづく




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