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いちごがとどいた!

思いがけないタイミングで「いちご」が届いた。
前職でお世話になっていた方からで、お仕事で向かった先の道の駅で苺を見かけ、わたしのことを思い出してくれたらしい。

苺を見かけて思い出してもらえるような、可愛いさ要素は乏しかったはず…だけれども、苺なんて自分のためには滅多に買わないから、とてもうれしい。

苺の芳香はすさまじい。
箱の蓋を開けた途端にキッチン中に、苺の香りが、むわーんと。

あまい、良い香り。
目を閉じて、すんすんと香りを追いかける。

うーん、これこれ。
なんてしあわせ。


前職時、調理場に遊びにいき、苺が登場する時期になると下処理の手伝いをさせてもらっていた。苺に関しては、だいぶ手際と見栄えよく取り扱うことができる。

水を溜めた白色のボウルに苺がぷかぷかと浮かぶ。
「赤いな」とシンプルな感想も浮かんでくる。

たまらず洗いたての一粒をほおばってしまう。
あまくて、ほんのりとすっぱい。

苺フレーバーはなんでも気分が高揚するけれど、やっぱりこうやって、そのままを食べるのが、いちばん好きないただき方だなぁ。

すんすんと嗅ぐのとは違う、フレッシュな芳香がなんだか眩しい。
シンクに腰をもたれてそのままパクパクと食べ進める。あっというまに3粒め。苺をつまむ指先が赤い。

私が歌詞を書くなら、指先が苺の赤で染まるこのシーンを盛り込むかな、なんて皮算用なことを思いつく。実際はnoteに散文的につづるだけなのだが、いつか洗練されたフレーズに昇華してみたい。


精進せねば。


子供の頃、
夕食後に家族で苺を食べると、父は2,3粒を残してお皿に牛乳を注ぎ、苺をフォークの背で潰して苺ミルクを作っていた。

私も弟もそれを真似る。
当時の私も、そのまま食べるのが好みであったが、一年で数回の定例行事にキャッキャとはしゃぎながら苺ミルクをこさえていた。

若い苺だと全然あまくなくて、残念に思っていると父が内緒でコンデンスミルクを追加してくれた。うひひと父子で笑いながら舐めるように平らげる。
あの苺ミルクのピンク色はやさしい色合いであった。

ああ、またそうやって苺を一緒に食べたいなぁ。
今度帰省するときに、苺をねだってみようかな。

こうやって私は、幼い頃のあたたかい記憶に励まされる。
紡がれたやさしい思い出だ。


長いことキッチンに立っていたから、足先がキンキンと冷たい。
胸の奥と頬は、ぽわっとあたたかいのだけれど。


結果として、ほぼ1パックをキッチンでパクパクしてしまったこと、苺の香りと色味にしみじみ感動したこと、幼い頃を思い出したこと、をつらつらと綴ったお礼のテキストを送る。

「仕込みで苺を洗ってる君は、よく鼻歌を歌っていたよね」
と返事が返ってくる。


まちがいなく、
苺を洗ってる当時の私も、苺ミルクのくだりを反芻していたに違いない。

歌っていた鼻歌は「珍島物語」だったそうだ。
そりゃ苺を見たら思い出されるのも、なんか納得だ。




-20221219-


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