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2DK

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2DK 追記

追記.永野雪乃
あいる君に愛されたかった。少しだけ愛されて嬉しかった。長い接吻をして時間が経つのが早かった。「知ってる?キスをしてる時は地球の自転がはやいんだよ。」
「そんなことないじゃないですかって言おうとしたけど、そうかもしれませんね。」
あいるくんはそう言った。

あいるくんは私に文乃の話も奈々ちゃんの話もしなかった。するのが嫌だったのかもしれない。知られたくなかったのかもしれない。あいるく

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2DK part7【短編小説】

前作を読んでからお読みください。

20.終わり
夏季休暇が終わって大学が始まった。雪乃さんの居ない家は広くて何かが欠けたような感覚だった。講義は何も無かったかのように始まり、季節も何も無かったかのように変わっていく。いや、何かあったから寒くなったのだろうか。
「奈々、入院したけど、退院したってさ」
そうひなのが言ってきた。俺と奈々さんの関係を知っていたかのように。
「なんでお前がそれを俺に言うの

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2DK part6【短編小説】

前作を読んでからお読みください

16.墓参り
「ねぇ、一緒に長崎に行って文乃に逢いに行かない?」
そう言い出したのは雪乃さんからだった。
「お父さんがいるから長崎に1人で行くのが怖くて、一緒に着いてきてくれないかな?」
そう僕に言った。僕は夏季休暇中だったのでそれにのることにした。羽田空港から長崎空港までの間は短かったように感じる。文乃さんのことを思いながら思い出に浸っていたので、もっと余韻に浸

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2DK part5【短編小説】

前作を読んでからお読みください

13.1人の家
奈々さんがこの部屋を去ってから半年が経った。奈々さんのいない夏がやってくる。2DKは僕には広すぎて、毎晩友達を呼んで奈々さんがいない寂しさを埋めていた。奈々さんはあれから意識を取り戻し、今は精神病棟で入院している。もちろん連絡を取る手段もない。奈々さんのための毎日だった。奈々さんに人生を捧げていたと言っては言い過ぎるかもしれないけれど、それ程奈々さ

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2DK part4 【短編小説】

前編を読んでからお読みください。

11.逃走
次の日の朝。柔らかい肉付きをした躰が僕の胸に優しく当たる感覚で僕は目覚めた。やってしまった。奈々さんは僕に恋愛感情も持ち合わせていなければ性的対象でもない。一時的な衝動で身体を重ねてしまった後悔が押し寄せてくる。それでも隣にいる何も纏ってない麗しい奈々さんに目を向けてしまった。この葛藤で頭がぐちゃぐちゃになる。どうして僕なんかと。そう考えて家に居ても

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2DK part3 【短編小説】

#前作を読んでからお読みください

6.帰宅
奈々さんが帰ってきたのは真冬でとても冷たい日だった。鍵を開けて「ただいま」とだけ言って自分の部屋に入って行こうとした。
「何してたんですか」
僕の情緒が壊れた瞬間だった。
「大学に通えなくなるから、療養の為に、僕と同棲始めたんですよね。性的感情がなかった男の僕と。それがなんで急にいなくなるんですか。どこいってたんですか。急に消えないでくださいよ。なに

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2LDK part2 【短編小説】

part1を読んでからお読みください

4.呪い
「お前ら付き合ってんの?」
同じ学科の友達に言われた。一緒に授業に行って一緒に帰る。Twitterの内容も夜ご飯も一緒だ。そう思われるに違わない。事前に奈々さんとそう言われた時の対応を考えていた。

「私、大学の女の子と絶対付き合うって決めてるから。だから、邪魔しないでね。絶対に私たちが同棲してることは言わないで。」
同棲して1日目の夜にそう言われ

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2DK part1【短編小説】

プロローグ.出会い
中性的な容姿をした彼女は、ズボンのスーツで入学式に現れた。事前にTwitterでやり取りをしていて、看板の隣で会う約束をしていたのだ。
「あ、Twitterでやりとりした教育学部中学理科コースのアイルくん?本物だ!宜しくね!ねぇ、アイルって本名なの?」
彼女が僕に話しかけてきた。初めての会話だった。
「あ、、、こんにちは。松下愛琉です。よろしくお願いします。えっと、奈々さんで合

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