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生産者理論(4):費用最小化問題

生産者が自身の生産技術を所与とした場合の費用最小化行動を考える。今回導入される概念は、前回の利潤最大化問題や消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため、以下の連載から参照されたい。


費用最小化問題

$${Y}$$は任意の$${\bar y \in Y}$$と任意の$${n<N}$$について$${\bar y^n≤0}$$を満たすとし、$${f:\mathbb{R}_+^{N-1}\rightarrow \mathbb{R}_+}$$を$${Y}$$の生産関数とする。生産要素価格ベクトル$${w \in \mathbb{R}_+^{N-1}}$$と生産量$${q}$$の下での費用最小化問題は、以下のように定式化される。

費用最小化問題:$${\underset{z\in \mathbb{R}_+^{N-1}}{\min}   w\cdot z          \text{s.t.}    f(z)≥q}$$

費用最小化問題の解の集合$${z(w, q)}$$は、要素価格ベクトルと生産量のペア解であり、条件付要素需要関数という。費用最小化問題は、生産関数が与えられたときに限って考えることが多い。

費用最小化問題の価値関数を$${Y}$$の費用関数といい、$${c}$$で表す。従って、任意の$${\bar z \in z(q, w)}$$について$${c(w, q)=w\cdot \bar z}$$が成立する。

$${Y=\{\bar y \in \mathbb{R}^N  |   \bar y^N ≤ f(-\bar y^1, \cdots, -\bar y^{N-1})\}}$$とする。$${\bar y \in y(p)}$$ならば$${(-\bar y^1,\cdots, -\bar y^{N-1}) \in c(p_1, \cdots, p^{N-1}, y^N)}$$である、つまり利潤が最大化されているならば費用は最小化されている。しかし逆は一般に成り立たない($${\bar z \in z(w, q)}$$だったとしても$${(-\bar z, q) \in y(w, p^N)}$$が成立するような$${p^N}$$が存在するとは限らない)。

費用最小化は利潤最大化よりも弱い条件であるが、利潤を最大化する投入ベクトル、産出ベクトルが存在しないときでも費用を最小化する投入、産出ベクトルが存在し得るという点に分析上の強みを持つ。

$${N=2}$$の時、任意の$${\alpha>0}$$に対して生産関数を$${f(y_1)=y_1^{\alpha}}$$とする。$${f}$$は任意の$${\beta}$$に対して$${f(\beta y_1)=\beta^{\alpha}f(y_1)}$$を満たす。$${f}$$は$${\alpha>1}$$のとき収穫逓増、$${\alpha=1}$$のとき収穫一定、$${\alpha<1}$$のとき収穫逓減である。$${f}$$が収穫逓増のとき、この生産関数における利潤最大化の解は存在しない。任意の$${\beta >1}$$について$${\beta y_1 \in Y}$$が成立するので、$${\pi=p\cdot (\beta y_1)=\beta p \cdot y_1}$$より、利潤を無限大にできるためである。しかしこの場合でも費用最小化の解は存在する。

N=2の場合、収穫非減少の生産関数では利潤最大化を定義できない
N=3、収穫逓減の場合。等費用曲線の傾きは2つの生産要素の価格の比で決まる

条件付要素需要関数の性質

生産集合$${Y}$$が非空かつ閉であり、自由可処分を満たす時、条件付要素需要関数$${z(w, q)}$$は以下の性質を持つ。

①0次同次性

0次同次性:任意の$${\alpha>0}$$について、$${z(\alpha w, q)=z(w, q)}$$

生産集合は要素価格の影響を受けないため、全ての財の価格が$${\alpha}$$倍されても費用最小化する条件付要素需要ベクトルは不変である。

②余剰生産物の非存在

余剰生産物の非存在:$${f}$$が連続かつ$${f(0)=0}$$を満たし、$${w \in \mathbb{R}_{++}^{N-1}}$$かつ$${q>0}$$ならば、任意の$${\bar z \in z(w, q)}$$について$${f(\bar z)=q}$$

生産関数が$${\bar z\in z(w, q) \land f(\bar z)>q}$$と仮定する。このとき中間値の定理より、任意の実数$${q'\in [0, f(\bar z)]}$$に対して、$${f(\bar z')=q'}$$を満たす$${\bar z'\in [0, \bar z]}$$が存在する。いま、$${q'}$$を$${q< q' < f(\bar z)}$$と設定すれば$${\bar z' < \bar z}$$だが、これは$${\bar z}$$が費用最小化問題の解であることに矛盾する。従って$${f(\bar z)=q}$$である。

余剰生産物の非存在は、ある生産量$${q}$$以上を生産するための最小費用を達成した時、生産量は必ず$${q}$$に等しくなることを意味している。これが成り立たなければ費用ゼロで追加的な生産が可能になり、フリーランチの不可能性に反する。利潤最大化問題における生産の効率性に対応する概念である。

③条件付要素需要法則

条件付要素需要法則:任意の要素価格ベクトル$${w, w'}$$と任意の$${\bar z \in z(w, q), \bar z' \in z'(w', q)}$$について、$${(w'-w)\cdot(\bar z'-\bar z)≤0}$$

法則の意味合い、証明方法は前回取扱った供給法則を参照。

費用関数の性質

生産集合$${Y}$$が非空かつ閉であり、自由可処分を満たす時、費用関数$${c(w, q)}$$は以下の性質を持つ。なお、前回と同様の証明については記載を省略しているため、前回を参照

①1次同次性

1次同次性:任意の$${\alpha>0}$$について、$${c(\alpha w, q)=\alpha c(w, q)}$$

②単調性

単調性:$${c(w, q)}$$は任意の$${w_n}$$について非減少関数であり、任意の$${q}$$について増加関数である

要素価格体系に対する単調性
任意の$${w< w'}$$を満たす$${w, w' \in \mathbb{R}_{++}^{N-1}}$$と$${q>0}$$に対し、$${\bar z \in z(w, q)}$$と$${\bar z' \in z'(w', q)}$$をそれぞれ任意に選ぶと、$${c(w', q)=w'\cdot \bar z' ≥w\cdot \bar z'≥w\cdot \bar z=c(w, q)}$$となり題意が示される。

目標生産量に関する単調性
任意の$${w \in \mathbb{R}_{++}^N}$$および$${q< q'}$$について、$${c(w, q) ≥ c(w, q')}$$と仮定する。$${\bar z \in z(w, q)}$$と$${\bar z' \in z'(w, q')}$$を任意に選ぶと、$${w\cdot \bar z'=c(w, q') ≤ c(w, q)=w\cdot \bar z}$$となる。一方、余剰生産物の非存在から$${f(\bar z)=q < q'=f(\bar z')}$$となるが、これは$${w'}$$が$${w}$$以下の費用で$${q}$$よりも大きな産出量を実現することを意味し、$${z(w, q)}$$が費用最小化問題の解であることに矛盾。従って$${c(w, q) < c(w, q')}$$である。

③凹性

凹性:$${c}$$は$${w}$$に関して凹である。つまり任意の$${q}$$と任意の$${\alpha \in [0, 1]}$$について$${c(\alpha w+(1-\alpha)w', q) ≥ \alpha c(w, q)+(1-\alpha)c(w', q)}$$

Shephardの補題

費用最小化問題における条件付要素需要関数と費用関数の間には、消費者理論の支出最小化問題における補償需要関数と支出関数の関係で導いたShephardの補題が成り立つ。

Shephardの補題
任意の第$${n}$$財$${(n=1, \cdots , N-1)}$$に対して、$${z_n(w, q)=\dfrac{\partial c(w, q)}{\partial w_n}}$$
ベクトル形式では、$${z(w, q)=\nabla_w c(w, q)}$$

証明は前回と同じため、上記リンクを参照。次回はこちら。

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