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経営リソースとしての好奇心

企業経営のリソースを、ヒトモノカネ情報好奇心とおいてみる。

組織の好奇心の量は、経営の活動によって増えたり減ったりする。多少の変化はあれど、勝手に増えたりはしません。好奇心は費用や時間を投じて増やしていく資源です。

組織の好奇心を正確に定量化することはできませんが、現場に身をおけば好奇心の「総量」はなんとなく実感できる。メンバーの発話、出てくるアイデア、主体性の度合いなど、企業に属する人ならば、その度合いを「量」として感じられるはずです。

好奇心量と組織

好奇心量が多いと組織は活性します。好奇心は動機づけの起点となり、やる気や自発性につながります。創意工夫のもとになり、創造性の中心にあり続けるものです。

組織の好奇心量が多いと外部からの情報の流入が増え、組織全体の知識の最新化や多様化につながります。情報だけでなく、社内外の人のつながりが増えネットワークが拡大します。予期せぬ良い変化も生まれます。

好奇心はいずれは企業の提供価値に集約されていきます

ところが、好奇心量は日々の業務で摩耗し減っていきます。忙しさから近視眼的になっていく。成果達成へのプレッシャーから気持ちの余裕が消えていく。だんだんとそのような傾向におちいってしまいます。

好奇心量が少ないと組織の柔軟性が失われます。すぐさま業績に問題が発生することはありませんが、事業や組織をさらに成長させる発展的なアイデアが出てこなくなったり、指示通りには動くがいつまでも改善行動が起こらないといった硬直的な状況になりがちです。リスクを取らない保守的な文化も形成されます。

VUCAの時代と言われる昨今。市場対応に向け、事業も組織も柔軟性や俊敏性が試される時代。長期的にみるとこの状況は好ましくありません。 

好奇心は、現状に固着しようとする組織の習性を突き崩しのびやかにしなやかに未来思考するための燃料となるものです。

好奇心量をどう増やすか

好奇心量をどう増やすかは、従業員の課題ではなく経営の課題です。人間の人格を変えることはできませんが、好奇心を生み出し刺激するアクションを起こし効果を得ることは可能です。そこにお金や時間や人を投じるのは経営者の裁量です。

最新の業界情報から、仕事とは一見関係ない生活情報まで、社内に幅広く情報提供しつづけ、気づきを促す。他社と交流し出会いをアレンジする。業務の中に学びの時間を取り入れる。社外で活動し積極的に生活者と関わる施策を実行する。新しい方向に好奇心を持った人を採用する。新入社員を配置し集団の価値観を揺さぶる。事業開発や商品開発に人を巻き込む。組織改変しリフレッシュする。好奇心総量を増やすには、このような大小の施策があるでしょう。

同じように、好奇心総量が目減りするアクションを抑え込むことにも気を配る。過度な定量目標の追求。労働時間の圧迫。心理的安全性の破綻など、好奇心を妨げる要因に対して、細かく定期的に手を入れていくことも必要でしょう。

好奇心は関係に宿る

好奇心は結局は人に宿るので、わざわざ個別に取り立てて経営リソースとして捉える必要はないじゃないかと思うかもしれませんが、それは違います。

好奇心は人に宿るのではなく人と人人と情報人とものが出会い衝突した際の関係に宿るものです。人だけに投資すれば組織の好奇心量が増えるわけではなく、相互の関係のラインを増やすこと、太くすることに費用を投じなければならないのです。「関係」への着目が重要です。

ヒト・モノ・カネ・情報・好奇心は、すべてが相関するものです。組織の好奇心量が増えれば、新しいヒトや情報を呼び込み、それが好業績につながっていく。そのようなフィードバックループを形成していくのです。

デザインの現場から

私はこれまでデザイン会社の企業経営の現場にふれてきました。デザイン会社ですから、組織の創造性がたいへん重要となるわけで、そのためのありとあらゆる手段を講じてきました。

海外カンファレンスや国内業界イベントの参加、経費での書籍購入、外部講師を招いた勉強会、実験的プロジェクトの推進、内発性を重視した文化形成などなど。また、メンバーのモチベーション維持増進、従業員のロイヤルティ向上、多様性の確保など、創造性とはやや異なる別の観点からも施策を繰り返してきました。

その時々の組織課題に対応する形で、年間の予算でやりくりし試行錯誤してきたわけですが、そこに「好奇心というベースラインを引きその好奇心をすべての起点として捉えてみるその好奇心から創造性や内発性当事者意識や学習意欲などに自然に影響を与えていく考えを持つことが最もシンプルかつ戦略的であるのではないかと考えるようになりました。

好奇心の総量に着目し、そこへの対応に全てが集約されるのではないかと。そのたびごとの課題に対応する費用ではなく、好奇心量という資源を積み立てるような投資的な感覚でいることが最善なのではないかと、そう思ったのです。

そして、これはデザイン会社だけでなく、それ以外の多くの企業や組織に普遍的なものではないかと考えるようになりました。

シンプルに考える

好奇心の総量が減っていれば足す。好奇心が減りづらいようにする。経営に余力があれば好奇心量を足しておく。部署ごとの好奇心量を把握し対応する。売上が厳しいときはギリギリの好奇心量でみんなで耐えしのぐ。しのいだところで足しておく。考え方はシンプルです。

経営の現場は複雑怪奇。変数が多く、全てがシステム思考です。企業経営のリソースを、ヒトモノカネ情報好奇心とおき、検討や対応をシンプルにできるものはシンプル化しておく。経営者にとっては根源的で力強いロジックとなるのではないかと、そう思うのです。


Photo by Vadim Bogulov on Unsplash


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