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魔法少女の系譜、その109~『ザ・カゲスター』~


 今回は、前回までの『ウルトラマンA【エース】』と違う作品を取り上げます。ウルトラシリーズではありませんが、特撮のテレビドラマです。
 昭和四十七年(一九七二年)に放映された『ウルトラマンA』は、男女のペアが主役という、当時では珍しい特撮テレビドラマでした。それから四年が経った、昭和五十一年(一九七六年)に、同じように、男女ペアが主役の特撮テレビドラマが放映されました。
 その作品とは、『ザ・カゲスター』です。

 『ザ・カゲスター』は、当時のジャンルで言えば、変身ヒーローものです。ただし、変身ヒーローだけでなく、変身ヒロインも登場します。『ウルトラマンA』のように、二人で一人のヒーローになるのではなく、一人ずつ、別のヒーロー/ヒロインになります。
 ヒーローの名は、カゲスター、ヒロインの名は、ベルスターといいます。

 ベルスターは、決して、カゲスターの補助役ではありません。カゲスターと同等か、それ以上に活躍します。ドラマの題名は、『ザ・カゲスター』でも、事実上、カゲスターとベルスターの二人が主役です。
 そして、『ウルトラマンA』とは違って、ベルスターは、途中退場しません。最終話の三十四話まで、カゲスターとともに戦います。ベルスターのいない『ザ・カゲスター』は、考えられません。
 四年の歳月が経って、男女ペアの変身ヒーロー/ヒロインが、視聴者に受け入れられるようになったのでしょう。

 『ザ・カゲスター』では、主役のカゲスターになるのが、姿影夫【すがた かげお】という男性です。同じく主役のベルスターになるのは、風村鈴子【かざむら すずこ】という女性です。二人の年齢設定はわかりませんが、見た目は二十代です。二人とも、会社員として働いています。
 鈴子は、魔法「少女」とは言えませんね。成人女性扱いです。

 面白いのが、カゲスターとベルスターに変身していない時の、影夫と鈴子の関係です。鈴子は、風村コンツェルンの社長令嬢なんですね。影夫は、その秘書です。鈴子のほうが上司なんです。
 これは、昭和五十一年(一九七六年)当時の現実では、ほとんど考えられないことでした。まだまだ、働く女性が少なかった時代です。社長令嬢などという恵まれた身分であれば、余計に、「花嫁修業」という名目で、働かない女性が多かった時代でした。
 ばりばり働く女性が少ないのですから、「女性が男性の上司になる」ことも、極めて少なかったのです。

 現実には、ほとんどあり得なかった影夫と鈴子の関係は、ドラマの日常パートでは、コメディとして描写されていました。一種のサラリーマン喜劇です。
 この点で、子供向けの特撮ドラマとしては、冒険的なことをしています。この部分は、成功していたと、個人的には思います(^^)
 別の言い方をすれば、コメディにしないと、当時ではあり得なさ過ぎて、見ていられなかったでしょう。

 コメディ描写とはいえ、「女性が、男性よりも立場が上」という描写が登場したのは、画期的でした。しかも、(男の子のものだと思われていた)変身ヒーローもので、ですよ? 『ザ・カゲスター』は、この点を、もっと評価されるべきだと思います。

 影夫と鈴子とは、もともとは、普通の人間でした。それが、変身ヒーロー/ヒロインになったのは、事故がきっかけです。
 影夫と鈴子とは、白蝋魔人【はくろうまじん】という悪役に誘拐されて、アジトに閉じ込められます。隙を見て、二人は脱出します。その時、誤って崖から転落して、高圧電線に触れてしまいます。電気ショックにより、二人の正義の心が、自分たちの影に宿り、カゲスターとベルスターが誕生します。

 正確に言えば、二人が直接、変身するのではなくて、二人の影が、変身します。カゲスターとベルスターが誕生した後も、影夫と鈴子の本体は残ります。ただし、影夫も鈴子も、本体は虚脱状態で、ふらふら歩くくらいしかできません。

 「影が変身する」という、この設定も、独創的で、面白いですよね。
 この変身場面の特撮が、昭和五十一年(一九七六年)当時としては、とても凝っていて、目を奪われます。二〇二〇年現在に見れば、ちゃちに見えるでしょう。でも、当時は、CGなんて存在しません。CGで何でもできてしまう今では、考えられない努力と工夫が、つぎ込まれていました。

 カゲスターとベルスターのアクションも激しくて、格好良いです。このアクションは、二〇二〇年現在に見ても、格好良いのではないでしょうか?
 ベルスターの中の人がすごかったと、今にして思います。星模様のマントと、ミニスカートを翻して戦うベルスターに、魅了された人は多かったはずです。

 カゲスターとベルスターの敵役は、最初は、互いに関係のない怪人たちでした。後半になると、「サタン帝国」という巨大組織の敵が現われて、サタン帝国に所属する怪人たちと戦います。

 『ザ・カゲスター』が放映された昭和五十一年(一九七六年)には、アニメの『ゴワッパー5 ゴーダム』が放映されています。『ゴワッパー~』のヒロイン、岬洋子は、中学三年生の女子なのに、ゴワッパー5のリーダーでしたね。変身ヒロインではありませんが、個体戦闘能力が高く、アクションが激しいことが、ベルスターと共通しています。
 同じ昭和五十一年(一九七六年)には、アニメの『タイムボカン』も放映されていました。『タイムボカン』は、男女ペアが主人公であることが、『ザ・カゲスター』と共通します。

 特撮ドラマに目を向ければ、昭和五十一年(一九七六年)には、NHK少年ドラマシリーズの『明日への追跡』が放映されました。このドラマには、敵役で、浦川礼子という魔法少女が登場します。
 礼子は、憑依型の魔法少女でした。宇宙人に憑依されて、超能力を使います。対立する宇宙人と、超能力を使って戦います。敵役ながら、初期の「戦う魔法少女」です。

 『5年3組魔法組』も、昭和五十一年(一九七六年)に放映が始まった特撮テレビドラマです。じつは、『ザ・カゲスター』の直接の後番組が、『5年3組魔法組』でした。
 『5年3組魔法組』でも、五人の子供たちのグループの中で、リーダーは、ショースケというあだ名の女の子ですね。ショースケは、『ゴワッパー~』の岬洋子と同じく、リーダーとして、積極的に魔法を使って、問題を解決してゆきます。

 前年の昭和五十年(一九七五年)には、漫画の世界で、『超少女明日香』、『紅い牙』、『エコエコアザラク』の連載が始まっていました。明日香もランも黒井ミサも、男性以上に強い、戦う魔法少女でしたね。

 こうして見てみると、昭和五十一年(一九七六年)には、少しずつ、「女性が男性と同じように活躍する」作品が増えているのが、わかります。当時の日本は、男尊女卑の傾向が強い社会でしたが、じわじわと、変わりつつあったことを、示します。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『ザ・カゲスター』を取り上げる予定です。



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