見出し画像

〝漬け〟で旨味を凝縮 マグロステーキ

和食のなかで他に代え難い価値を持つ食材の一つにマグロがある。店で注文する瞬間のシビレるような緊張感は特別で、スーパーでも特に王様と呼ばれる本マグロの地位は相当なもの、だからそうそう手が出ない。ただ、そこで諦めずに見渡すと向い隣のメバチマグロが手頃になっている日があって、見つけると小躍りしながら買って帰りすぐに少量の醤油とみりんで〝漬け〟にしておく。一日置くと身が程よく締まり、メバチのさっぱりした赤身に新しい味わいが生まれて一味違うおいしさに。食べるときはシンプルに山葵を添えるか山かけも良く、温かいごはんと刻み海苔で漬け丼もお見事。そしてしっかり漬かったところをじゅうと焼き付けたステーキがまた傑作で、濃い醤油の色は香ばしさに変わり、より濃厚な旨味が楽しめる。グラス片手にまた小躍り。生には無い新鮮味のあるご馳走です。

■漬けマグロのガーリックステーキの作り方■

[使った材料]
・マグロ(刺身用さく)…約230g、マグロの種類は好みで
・醤油…20g
・みりん…10g

・にんにく…2〜3かけ
・オリーブオイル…15g〜
・日本酒…30g〜
・バター…10g

・黒胡椒

〝漬け〟は冷凍庫がなかった時代の生マグロの保存法。今は旨味を引き出す楽しみ方の一つとして続いています。最小限の調味料で出来る「しょっぱくならない漬け方」と「素材の旨味を生かし切るソースの作り方」がおいしさのポイントです。


■作り方はこちらの動画でもご覧いただけます■


①マグロを〝漬け〟にします

漬ける容器に醤油とみりんを入れて混ぜ、マグロを加えて全体にまぶします。使う調味料はごく少量で「漬ける」ではなく「まぶす」イメージ。これで十分漬かります。ラップをして冷蔵庫で、半日〜丸1日は置きたいところ。平たい容器の方が調味料が行き渡りやすくおすすめです。途中で一度位上下を返せると理想的。

P1030580.00_01_04_04.静止画006-2

お店の料理ならたっぷりの醤油を使って浸しその分短時間で仕上げる方法もありますが、家での料理はもう少しコンパクトに出来る方が何かと嬉しい。保存が目的ではないので多量の塩分は必要なく、漬け時間を少し長めに取れば最小限の調味料でも味の染み方・食感共に十分効果を発揮してくれます。

P1030580.00_00_41_08.静止画007-2

今回はステーキと決めているので、やや大ぶりの箸で持てる大きさに切ってから漬けました。包丁を寝かせ気味に斜めに切ると、大きく見えてボリューム感が出ます。さくのまま漬けて食べる時に切ってもよく、あるいは薄く又は小さ目の角に切って漬ければ早く味が染みます。ただし小さく切ったものは焼くと崩れ易くなったり火が入り過ぎるので、ステーキには不向き。切り方は食べ方や時間の都合によって変えてみてください。

②〈翌日〉ガーリックチップを作ります
いざ食べる日にはマグロの前にまずガーリックチップとオイルの準備。にんにくだけを香ばしく加熱するコツは、必ず火を付ける前の冷たい鍋に入れてから弱火で加熱を始めること。焦げ易いにんにくを温めた油に入れると、すぐに色が付き始め香りが上手く引き出せなくなります。

P1030580.00_01_41_46.静止画008-2

2〜3mm厚にスライスして、焦げ易い芽を除きます。食感がある方が楽しいので薄過ぎず厚過ぎず。冷たいフライパンに、にんにくとやっと浸る程度のオリーブオイルを入れてから火にかけます。

P1030580.00_01_51_35.静止画009-2

時々返しながらじわじわ加熱し薄く色が付いてきたら火を止めて、まだ白っぽく感じる内にペーパーの上に取り出します。揚げ色が付き始めるとあっという間に色が濃くなり、黒みを帯びると苦くなるので早目を心がけてください。箸先の感触がフニャっとしていても冷めるとカリッと、色付きも少し進んで丁度良くなります。

P1030580.00_01_58_00.静止画010-2

オイルはフライパンに残したまま。このにんにくの素敵な香りが移ったオイルで、続いてマグロを焼いていきます。

③ガーリックオイルでマグロを焼きます
フライパンに残ったガーリックオイルを再度中火で温め、漬けマグロを並べ入れます。入れたらしばらくはいじらずに、まずは下にした面をしっかり焼き付けます。焼けてくると熱が伝わってきて縁が白くなってくるので、それを見計らい裏返して、裏面は軽く焼いて皿に取り出します。

P1030580.00_02_30_52.静止画011-2

せっかく刺身用のマグロならレア気味に仕上げたくなる気持ちもある。ただそのためにはかなり厚みのあるさくを使うか、焼きをごく浅く短かくする必要があってどちらも悩ましく、私は香ばしさ重視でしっかり焼く事にしています。それでも〝漬け〟と〝 表しっかり裏軽く〟の焼き加減の合わせ技で、パサつきもなくしっとり。

P1030580.00_02_48_31.静止画012-2

ステーキ限定なら、鮮度の良い加熱用のアラや血合いの部分でもおいしくより手頃に作れます。その場合は両面ともしっかり加熱をしてください。

④ソースを作ります
マグロを焼いたフライパンに酒を加え、鍋底についた焼き汁をこそげながら煮立てます。続いてバターを加えて溶かしながら沸かし、とろみがつけばソースも出来上がり。

P1030580.00_03_13_21.静止画014-2

この一連の作業、[鍋に付いた焼き汁や旨味を液体で煮溶かす(=デグラッセ)] と[バターで乳化させてツヤ・とろみを付ける(=ブール・モンテ)]は、フレンチのソース作りの基本的な技法。普段の料理にも取り入れやすく、複雑な調味料を使わなくても奥行きのある味わいに仕上げてくれる素晴らしい知恵です。

⑤完成です
盛り付けておいたマグロに熱々のソースをかけ、ガーリックチップ、バリッと黒胡椒を利かせて完成です。ツマに、ピリッとした辛味で口の中がさっぱりするスプラウトを添えました。

P1030580.00_03_27_49.静止画015-2

マグロ自体に味が染みているので一口目からどこを食べてもしっかりおいしく、ライスもパンも日本酒もシードルもいける味わい。しっとり感の中に時々ザクザクと混ざってくるガーリックの歯応えが心地良く脳に響きます。

P1030580.00_03_43_19.静止画016-3

一見地味。でも実は、マグロの漬け〜フレンチのソースまでこの料理は和洋の技の集合体。新しいものを追う前にふと基本に立ち返ってみることの大切さは、いつも料理のおいしさが教えてくれます。

それでは今日はこのへんで。
最後までお読みいただきありがとうございました。


お読み頂きありがとうございます。 これからもおいしいお料理とおいしいお酒をたくさんお届けします。