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ショート(小説)

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ショート×2小説です。コメント・感想大歓迎です。よろしくお願いします。
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『夜行抄』おまけ 成仏の押印 -後日譚-

『夜行抄』おまけ 成仏の押印 -後日譚-

ー 登場人物 ー
俺(おれ)
 主人公
婆ちゃん(ばあちゃん)
 田舎から役小角の御守り送ってくれる俺の祖母
泥捏拗 寧舟(どろつくね ねいしゅう)
 只々怪しい怪人黒尽くめ男
雌拳(めふぃすと)
 寧舟に付き添うもふもふの猫。
膨れまんじゅう(ふくれまんじゅう)
 首塚の祟りが顕現した怪異らしい

 この日、大学の午後の講義が思いのほか長引いてしまい、終わり次第駆けつけると約束していたバイト先へ

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『のびをした。』

『のびをした。』

 うぅぅ〜ん、ぐぐぐっ〜とのびをした。
 のびをしたら あくびがでた。
 ふんっと はなからいきならして、
 ゆっくりと、まわりをみながら、
 たちあがってみる。
 すると…、ボクの おはなが、
 おいしそうなニオいをかぎつけた。

 クンクンクン…、
 ひくひくひく…いいニオいだぁ。

 クンクン…ひくひく……、
 おぉーなんのニオいだぁ。

 クンクン…ひくひく…、
 スキきなニオいだ。

 

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『マゼンタ』

『マゼンタ』

 深淵を覗く時、
 深淵もまた此方を覗いている。

        フリードリヒ・ニーチェ
        著作『善悪の彼岸』より

ー 起 ー
 冬の凍てつく大気に漂う塵芥が、旭日の光を浴びて、陽の欠片のようにきらきらと舞い散っている。
 私は昇る日の冷光を遮ろうと左手を翳し、眩しさに慣れていない目を瞬かせた。
 視界が揺らぐ眩暈にも似た感覚に、聴覚が刺激されたのだろうか…、行き交う人々の喧騒が

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『夜行抄』第壱譚 成仏の押印

『夜行抄』第壱譚 成仏の押印

ー 登場人物 ー
俺(おれ)
 主人公
婆ちゃん(ばあちゃん)
 田舎で憑き祓い生業とする俺の祖母
役小角(えんのおづぬ)
 山岳宗教系の開祖
泥捏拗 寧舟(どろつくね ねいしゅう)
 謎の黒尽くめママチャリ男
雌拳(めふぃすと)
 寧舟に付き添うもふもふの猫。
逆さもの(さかさもの)
 俺が出会した怪異

 - 序 -
 どうやら俺は、この手のモノと妙な御縁があるらしい。
 体質なのか、将又そ

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『陽炎の衢』- かげろうのく-

『陽炎の衢』- かげろうのく-

 炎天の空に、誰かの呼ぶ声が聞こえた。
 突然の出来事に、なに事かと辺りを見回すも、それらしき人影は見当たらない。
 生い茂る青葉も静かに、風ひとつなく、動くものは無かった。
 声は何処から届いたものか。
 言葉は判じ得ないが、高音域の人のもののように思えた。
 単調に繰り返されたフレーズの、その余韻だけが届いたのだろうか。

 真夏の炎天下である。
 日中、この暑さに好き好んで出歩く者など居ない

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『喜びの毒牙』

『喜びの毒牙』

 酷く寝苦しい夜だった。
 瞳孔が闇に乗じて開き、夜目が利いていくのが分かる…。
 くらくらと視界が揺れた…。
 ねっとりとした夜気が、眼球に纏わり着く嫌な感覚がある。
 ぐっと力を込め目蓋を閉じた。
 涙腺から流れだした液体が眼球を潤し充していく。
 暫くしてゆっくりと眼を開くと、液体の膜に視界が暈け、一筋の涙が眼頭から溢れ落ちた。
 いびつに歪んだ視野が弾け、一瞬だけ闇の濃さが増したようだった

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