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コロナ禍で苦しみの限界を超えてしまった件 2020年の自殺者数確定値

▼2020年の自殺者数の確定値が報道された。すでに2月に速報値が報道されており、ほぼ同じ内容だが、ここでメモしておく。

▼まず、2021年3月16日付の読売夕刊1面トップから。

〈女性の自殺15・4%増/7026人、コロナ影響か/20年確定値〉

〈厚生労働省と警察庁は16日、2020年の自殺者数が確定値で前年より4・5%(912人)増の2万1081人だったと発表した。女性は同15・4%(935人)増え、1978年の統計開始以降、雇用環境が悪化した98年の23・5%増に次いで2番目に高い伸び率だった。厚労省は新型コロナウイルスの流行で生活困窮や家庭内などの悩みが深刻化したと分析している。〉

▼女性の増加率は、2020年の後半に限れば、4割になる。竹内結子氏をはじめ、複数の有名人の自殺が影響してしまった。

▼厚労省の担当者いわく、「緊急事態宣言や在宅勤務の普及で家族と過ごす時間が長くなり、不和やストレスを抱える人が増えた。雇用環境の悪化も長期化し、若年層の生活困窮による自殺者増が目立った

厚労省の「若年層の生活困窮による自殺者増が目立った」というコメントが重要だ。とくに、若い女性が苦しんでいる。

いっぽう、男性の自殺者数は減っている。

▼読売は翌17日付で、同じニュースを違う角度から報じている。

〈学生・生徒の自殺 最多1039人/昨年〉

日本の自殺者の数は1978年から統計を始めており、今回が最も多かったということだ。

▼日経や東京の16日付夕刊は、共同通信の記事を掲載。両紙とも、ひと目見るだけで、胸の苦しくなる見出しを立てた。

小中高生自殺 最多499人/昨年 休校・外出自粛 影響か〉(日経)

小中高生の自殺最多/20年499人、前年比100人増〉(東京)

厚生労働省自殺対策推進室のコメント「新型コロナウイルス禍で学校が長期休校したことや、外出自粛により家族で過ごす時間が増えた影響で、学業や進路、家族の不和などに悩む人が増加したとみられる」

▼日経は翌17日付の朝刊で〈自殺者増11年ぶり増 2万1000人/経済苦・孤立 背景か/昨年確定値/コロナ禍、女性・20代目立つ〉と見出し。

▼この日経の関連記事で、以下の記述が気になった。

〈特に10月が同691人増(44.9%増)の2230人と年間を通じて最も多かった。夏から秋にかけて俳優ら著名人の自殺が相次いだことが影響した可能性がある。

一般社団法人「いのち支える自殺対策推進センター」の清水康之代表理事は「コロナ禍が長期化するなか、潜在的に自殺リスクを抱えながらも踏みとどまってきた人たちに自殺報道が影響した」と話す。〉

▼国際的にも言われていることだが、「すでにあった問題」が、コロナ禍でさらに悪化している。社会的な道筋を考えるためには、「すでにあった問題」と「新しく起こった問題」とを、冷静に整理する必要がある。

▼清水氏は、安田菜津紀氏によるインタビューで、今回のコロナ禍での自殺の問題について話している。いい内容だ。

▼女性の自殺を防ぐための方策は、複数の要因が含まれており、まさに分析を進めているところだそうだ。

▼ここでは、こどもの自殺を防ぐための方策として、清水氏が挙げた2点を引用しておく。

〈ひとつは、自殺対策基本法の中にも盛り込まれている施策として、SOSの出し方に関する教育を広げていくことです。命や暮らしの危機に直面したときに、誰に、どうやって助けを求めればいいか、子どもたち一人ひとりにしっかり伝えていくことが重要です。

家庭の保護者や学校の先生にも相談できない時、第三の助けを求める先が必要となります。抽象的に「助けを求めていいんだよ」と言うではなくて、「いざとなったら私のところに相談に来て」と伝えられる、保健師などの地域の専門家の存在が重要となります。

また、IT技術が進む中、東京大学の研究チームが、学校で自殺のリスクを評価できるRAMPS(ランプス https://ramps.co.jp/ )というツールを開発しています。タブレットを使ってアンケートに答える形で、自分の気持ちを打ち明けることができる仕組みになっています。新潟県では、全県的に高校での導入が進み、長野県でも来年度からの導入が予定されています。

そして、精神疾患に関する教育が2022年度から高校で始まることになっていますが、これを義務教育から始めるべきだと考えています。と言うのも、精神疾患を発症するのは、平均すると14歳の頃だといわれています。そのため、高校生になる前、中学校や小学校高学年頃から、精神疾患は誰がかかってもおかしくない身近な病気だということや、どう対処していけばいいのかを教えていくことで、発症を早めに発見することにつながりますし、偏見も解けるのではないかと思います。〉

▼SOSの出し方についての教育。

▼地域の専門家を増やす。

▼精神疾患について義務教育で教える。

▼どれも、自殺対策は、自殺した人だけの問題ではなく、社会の問題である、という視点がなければ取り組むことができない。

別の言い方をすると、人間が社会的人間であるかぎり、自殺は自殺ではなく、他殺である、という現実を直視することで、はじめて前に進めることのできる方策だ。

(2021年3月19日)

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