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「耳で聞く新聞」が好評の件 ただしアメリカだがね

▼1年間で2億回もダウンロードされた、ニュース専門の、ポッドキャストの番組がある。ニューヨーク・タイムズの「ザ・デイリー」。2018年12月1日付の朝日新聞「メディアタイムズ」から。

新聞社「音声番組」に力/スマホに配信 ニュース解説や読み上げ/記者の裏話 若者に好評 NYタイムズ

ポッドキャストは〈車での移動が多く、ラジオを聴くことになじんだ米国では広く利用されている〉が、本格的なニュース番組は少ないらしい。

〈ザ・デイリーの聴取は無料。20分前後の番組で一つのニュースを深く取り上げるのが特徴だ。ホワイトハウス担当記者だったバーバロ氏(マイケル・バーロ)が、その日のテーマの取材に当たった記者にインタビューし、裏話や解説を引き出す。記事と違う観点から切り込むことも多い。シーオ・バルコム主任プロデューサーは「それぞれの専門分野の記者が持つ蓄積が大きな強み。ほかで得られるものではない」と語る。〉

▼つまり、ニュースを読むだけではなく、記事を書いた記者へのインタビューが人気なわけだ。「ほかで得られるものではない」、という一言にニューヨーク・タイムズの自信がにじんでいる。

語り手の取材信条もさることながら、聞き手の力量がものをいう。

▼そもそも、「ほかで得られるものではない」情報に接する機会が少ないと、「どこでも得られる」情報と、そうではない情報との違いがわからなくなる。

たとえば、日本のテレビで流れている、さまざまなニュースに対する「芸人の思いつき発言」や「場を読んだコメント」ばかり消費していると、それらと「専門家のインテリジェンスの詰まったコメント」との違いがわからなくなる。

両方とも、多くは新聞をもとにしたコメントなのだが、そもそも新聞を読んでいないと、さらに両方の違いがわからなくなる。誰もが情報を自分のアタマで「編集」するものだが、新聞を読むという習慣は、その「編集」に適度な負荷をかける練習にもなる。そのトレーニングがある人と、ゼロの人とでは、何かのニュースでメディアが踊り始めた時、自分自身が踊らされる危険度が変わるだろう。

▼日本では「記者に対するインタビュー」を本格的に行い、さらにニュースの背景について深く突っ込む文化があまりない。だからこの企画は、日本社会では「やった者勝ち」かもしれない。

〈NYTによると、ザ・デイリー聴取者の65%が40歳以下。(中略)バニティー・フェアは、番組の年間広告収入が数千万ドル(数十億円)となる見込みと報じた。〉

若い世代。広告収入。魅力的にうつる人もいるだろう。ただしこの試みは全国紙が有利だ。共同通信が主要なブロック紙、県紙と何か知恵を出せば、面白いことができるかもしれないが。

(2019年3月9日)

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