見出し画像

「影のパンデミック」ーーDV電話相談がもうすぐ24時間対応になる件

▼新型コロナウイルスの影響で、これまで見えなかった(見ようとしなかった)社会問題が見える(見ざるをえない)ようになってきている。それだけ問題が悪化している。それも、世界規模で。

■DV被害は【0120・279・889】へ

▼2020年4月19日付の読売新聞1面に、

〈DV電話相談 新窓口 あす開設〉

という記事が載っていた。この記事が、読売新聞オンラインだと、

〈「世界規模で恐ろしいほど急増」DV被害に新たな相談窓口…政府が対策急ぐ〉

という、より迫力のある見出しに変わっている。なぜ異(こと)なるのかは、追々(おいおい)みておこう。細かなことなのだが、紙よりもオンラインの強みが出た記事だ。

〈新型コロナウイルスの影響で外出自粛を強いられる中、政府は家庭内暴力(DV)被害への対策を急いでいる。20日には新たな電話相談窓口を設置するとしており、被害者の救済につなげたい考えだ。

 20日開始の新たな電話相談窓口は全国共通で

0120・279・889。

当面は午前9時から午後9時までだが、29日からは24時間受け付ける。民間の事業者に委託し、相談員が対応する。電話では相談しづらい状況を想定して、SNSなどでも受け付け、来月1日からは英語や中国語など8か国程度の外国語にも対応できるようにする。

 これまでは、最寄りの配偶者暴力相談支援センターに自動転送される「DV相談ナビ」(0570・0・55210)のみで、利用も平日の日中に限られていた。今後は相談窓口が二つになる。政府は関連経費として、2020年度補正予算案に1億5000万円を計上した。〉

▼読売記事には、なぜかこの相談窓口の名前が載っていなかったが、

「DV相談+(プラス)」という。以下は内閣府のホームページ。

▼電話番号の「0120・279・889」は、

0120の「つなぐ=279」「はやく=889

と覚えるそうだ。

緊急事態宣言が終わった後も、ぜひとも24時間対応を続けてほしい。

ここまでが日本国内の話。

■「世界規模で恐ろしいほど急増」

▼この後の記事で、紙とオンラインとで見出しが変わった。オンラインの記事を引用しておこう。ここでは、紙に載らなかった記事を太字にしておく。

 外出自粛に伴う生活変化やストレスによるDVの増加は世界的な懸案になっている。国連のグテレス事務総長は今月5日発表の声明で、「経済的・社会的な圧力と恐怖が増大し、家庭内暴力が世界規模で恐ろしいほど急増するのを目の当たりにしてきた」と指摘し、各国に対応を取るよう促した。〉

▼紙面には物理的な限界があり、オンラインには限界がない。だから、オンラインのほうが記事をたくさん書ける。それによって見出しが変わる、という例だった。もちろん、国連の声明が載ったオンライン版のほうが、記事としての厚みが増している。

▼前号で紹介したとおり、イタリアなどでは、DVの相談件数が減っている。なぜかというと、アメリカのDV被害者支援のプロいわく、「暴力をふるう相手が常に家にいて、被害者の一挙手一投足を監視している。被害者の多くは、外部に助けを求めること自体が難しくなっている。本当の被害者は、もっと多くいるはずだ

つまり、〈加害者が常にそばにいるために被害者が相談窓口にアクセスすることもできない〉わけだ。(2020年4月20日配信のNHKニュース)

■ヨーロッパ各国のさまざまな工夫

▼緊急事態宣言がいつまで延長されても、いつかは終わる。それよりもはるかに長い間、緊急事態に置かれる人たちがいる。前号に続き、NHKニュースの「WEB特集 『家にとどまって』 ~その家が安全ではなかったら?~」を引用する。フランスとカナダの取り組み。

〈各国では、電話だけでなく、チャットや携帯電話のメッセージから相談を受け付ける工夫が行われている。

 フランスでは政府が、聴覚障害がある人が携帯電話のメッセージで通報できる番号を児童虐待やDVの被害者も使えるようにした。さらに、限られた外出の機会を活用しようと、被害者が、薬局で合言葉、「マスク19」と言うだけで、店員が、理由を聞かずに通報を手伝うよう呼びかけているほか、全国のスーパーなどにNGOのブースが設けられた。

カナダの財団が考案したのは、「助けを求めるシグナル」だ。声を出す必要も、テキストを打ち込む必要もなく、使うのは自分の「手のひら」だけ。

家の外の友人など誰かとつながった状態のパソコンやスマートフォンのカメラに向けて、親指を曲げた状態で手のひらを見せ、そのあと握りこぶしをつくる。このシグナルを見せるだけで、助けを求めているということを伝えるのだという。

画像1

▼さらに、オーストリアのDV加害者の更生支援団体からのアドバイス。

「まずは自分のストレスの把握。こぶしを握りしめる、胃が痛むなどの兆候があったら別の部屋に行って1人になり、気持ちをしずめる。近所の散歩でもいい。そして、パートナーとその日の予定についてできるだけ会話すること。先のことではなく、その日の予定だけでいい

「その日の予定だけでいい」という一言に、現場の知恵が詰め込まれていると感じる。

▼フランスのNGOのアドバイス。

「24時間、家で家族全員で過ごすのは、大人だけでなく子どもにとっても辛い。子どもに手を上げてしまいそうになったら、とにかくその手で電話をつかんで、助けを求めてほしい

DVの加害者もまた、被害者なのだ。助けを求めていいし、求めるべきなのだ。

▼DVを受けている人は、日本の「恥の文化」とか、「我慢」する美徳とか、「自分の命を守る」ためには無駄で邪魔な飾りものはすべて捨て去って、なんとか生き延びてほしい。逃げて、隠れて、大声をあげて、ヘビのように知恵をしぼって、生き延びてほしい。必ず助けてくれる人がいる。

(2020年4月23日)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?