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児童連続殺人者の友との対話

実は数年前、わたしの唯一の友人であった児童連続殺人者の彼とチャットで話をしていた。
彼はアメリカのワシントン州のワラワラという小さな町にある州立刑務所にいて、そこで死刑を待っていた。
彼とのチャットでの対話を、ここに残しておこう。
わたしは犯罪心理について研究しているが、(サスペンスやミステリーなどのエンターテイメント的な作品を書かない)純粋な文学を愛する物書きだと言うと彼はわたしに興味を持ってくれて、チャットで対話することを許可してくれた。
まず彼は、わたしに「死刑を思い留まらせようとすることは言わないでほしい。」と言った。
わたしは何故かを問うと、彼(エス)はこう言った。
エス「この世界にたった一人でも、ぼくが死刑をどうしても望む気持ちを理解してほしいんだ。」
わたしは実は絶対死刑反対者であったが、彼に最初にそう言われてしまったからには仕方がない。わたしはそれを承諾し、彼との対話を始めた。

わたし「君がどうしても死刑に処されたい気持ちをわたしは理解できる。君は…自分の命を犠牲にして赦されたいという思いがある。だが死刑に反対する人たちはそこを汲み取ることができない。でも今、話したいのは死刑についてではないんだ。それ以外の、あらゆることについて、わたしは君と話したい。」
エス「OK. 僕はだいたいのことをあなたに話せると思う。なんでも訊ねてくれ。」
わたし「ありがとう。既に君のインタビューや手紙の遣り取りの記録を読んで、君についてわたしは多くのことを知っている。でも当然、わからないことの方が多い。それで…色々と知りたいことがあるが、君が最初の殺人をする直前まで関係のあった女性とのことや…でも今、取り敢えず、本題から入ることにしよう。これはとても複雑なテーマだが…君は『愛というものをもっと別の違う何かと考えていた』という。わたしはそれについてずっと考えていたんだ。例えばそれはこういうものかと考えた。君は『一度も親から愛していると言われたことがない。』と言った。だが『愛』が何か、ということが漠然と君のなかにあったわけだね。それは例えば、『義務』のようなものだったのだろうか。つまり『これがこうだから、こうしなければならない。これがこうであるのだから、こうあるべきだ。』といった概念であれば、それは愛というより『義務』のようなものに近い。それとも、もっと別の何かなのだろうか。親が子を愛するのは当然だという意識は君のなかにもあったのだろうか?」
エス「あなたが言っていることはよくわかる。でも僕はもっと違うものだと思っていたと今では思う。例えば…花の蜜が甘いから、良い匂いに引き寄せられて蜜蜂は遣って来て、それを吸ってまた離れる。すると蜜蜂の脚に付いた花粉でその花は結婚(受粉)することができるんだ。これは何のエゴも存在しないが、一つのシステムとして成り立っている。つまり、全体的に観て、ここに愛があると考えられるが、一つ一つを観るなら、ただ機械的に事が運んでいるだけなんだ。この自然界での重要だと言えるシステムのなかに僕がいなかったんだ。」
わたし「わかりやすい例えを言ってくれてどうもありがとう。君は確かにそのシステムのなかにはいなかった。親は君を愛していると想っていたが、君が感じられる愛ではなかった。だから彼らのシステムの繋がりの外に君はいたのだろう。だが君は逮捕後に出逢った女性と婚約し、彼女に『愛している。』と告げたが、他のインタビュアーに対しては『(彼女のことを)それほど愛してはいない。』と答えている。彼女に対する愛はどんなものだったのだろう?」
エス「僕は彼女を愛していると想い込むことで彼女と彼女の子どもたちを支配したかったのかもしれない。僕は彼女より息子のノアのことを愛していた。僕にはノアがいてくれたらそれで良かったのかもしれない。ノアを失いたくなかったから、彼女と婚約したのかもしれない。彼は僕のことを『dad(ダッド,お父さん)』と呼んでくれていたんだ。でも、良くわからない。彼女のことを想ってマスターベイションするようになってから子どもを殺す妄想をしながら性的興奮を感じることは確かに減ったのは本当だよ。彼女に対して『これが愛なのか。』と驚いて言ったけど、でも愛はもっと別のものなのかもしれない。」
わたし「君は今でも脱獄して、子どもたちを殺したい欲求に苦しんでいるのだろうか?」
エス「僕は今でも同じことを繰り返したい欲求を抱えている。それは僕にとって最も楽しいことの一つで、唯一の満たされる行為だったんだ。それを諦めることは、僕や人々が想像するより困難なようだ。」
わたし「でも君はそれでも大好きなノア君に優しい手紙を送ったり、父親として電話で話していたんだね。」
エス「yes. 僕がノアにとって良い父親だなどとだれ一人思わないだろう。」
わたし「もし不純な子どもであれば、過去に子どもを殺した男性を父親と呼びたくはないだろう。でもノア君は違った。君はそれをわかって、ノア君のことを大好きでいるんだ。そしてその純粋さを愛しているのは、君のなかに同じ純粋さがあるからに他ならない。その純粋さを持っている女性はきっとこの世にはいないだろうがね。残念だが君が婚約したノア君の母親も純粋な女性とは言えない。純粋な人は自分の性的な魅力で君から関心や好意を得ようとして裸同然の写真を最初に君に送ったりはしないだろうからね。君には本当に純粋なものが必要だったんだ。それが君にとっての子どもたちだった。女性たちは、それを何も理解できてはいない。まあ君が本当に婚約したのはノア君だったんだ。母親はそれを認めたくはないだろうがね。君から反論を受けるよ。」
エス「正直な考えを言ってくれて感謝するよ。僕はあなたの言う通り、女性を信じ切ることは不可能なように思える。女性は子どもたちに比べて、やはり不純なんだ。彼女たちは性的なものを僕に求めている。セックスやペニスが僕になくても、彼女たちは僕を求めるだろうか?きっと同じように求めないだろう。同じように…僕は子どもたちに、セックスや性器を求めているのだろうか…?」
わたし「今度、セックスも性器もなしで、子どもを妄想してマスターベイションができるかどうか、オーガズムに達することができるか、遣ってみてほしい。」
エス「ok. 僕はそれに挑戦してみるよ。でもどうしてそんなことを僕に頼むの?もしかして、あなたは僕を主人公にして小説を書こうとしているのか?」
わたし「もうそれは書いているが…まだ序章の内だよ。わたしは君にどうしても死んでもらいたくはないが、これ以上は言わないよ。」
エス「なんだ、最初からそう言ってくれてたら良かったんだ。僕はあらゆることをあなただけに話して死ぬことになるだろう。あなたならそれを完成させてくれると信じるよ。ところで、あなたは『愛』というものがどんなものだと考えてるの?」
わたし「わたし自身の悲劇を話そう。わたしはかつて、本当に深く愛し合う女性がいた。わたしたちはとても幸せだったのだが、だがある日、夢がそれを壊した。わたしの見た夢だ。わたしはその夢のなかで別の女性に性的欲情を抱き、彼女を誘惑し、そして彼女とセックスをしていた。わたしは至福のなかに満たされていた。だが目が醒めると、わたしの目の前に愛する女性がいる。わたしは夢の彼女を憶いだした。その女性はわたしが密かに性的な魅力を感じていた実在する女性だったんだ。わたしは目の前で眠る彼女の愛を疑った。彼女もきっとわたしと同じように別の人との性的な夢に満たされているに違いないと思った。そしてわたしは、彼女と別れた。その後、ずっと独りだよ。わたしは愛というものに幻滅したんだ。それはわたし自身の愛に幻滅したのだよ。だからこの世は『愛』と呼ばれる虚しいものばかりに満たされている。君なら共感してくれるだろうか?」
エス「つまりあなたは…自分自身の愛すら独占することが叶わなかったんだね。それはとても悲しいことなのだろう。僕の両親が離婚した理由もおそらくそういう理由なのだろうし、それが普遍的なものだという意見には同意できるよ。僕は子どもたちを殺さなくては不倫の関係でしか女性と深い関係を持つことさえできなかった。この世界が虚しいものでなければ、僕は子どもたちを殺さずに済んだだろうか…?」
わたし「君自身が虚しいものでなければ、子どもたちを殺す必要などなかっただろう。君は自殺を思い留まり、代わりに子どもを3人殺したんだ。それは自殺と同様に、子どもたちの存在が虚しいと君が判断したからだろう。一つの虚しい行為をやめ、その行為の代わりに別の虚しい行為をやったに過ぎない。もし子どもたちは虚しくないと思える瞬間さえあれば、君は殺人を思い留まれたのではないだろうか?」
エス「あなたの言う通りだと思うよ。僕は『こんなに子どもたちを愛しているのに。』と言ったけど、僕の愛とは何だろう?と思うよ。でも今でも僕は他の何よりも子どもたちが大好きなんだ。子どもたちを助けられるなら、僕は拷問も受けられるかもしれない。でもあなたはそれを愛とは呼ばないだろう。」
わたし「わたしは君にある愛を疑う為に、こうして対話しているわけではないんだ。だがもしわたしが、『それは愛だ。』と言えば、君は喜ぶだろうか?」
エス「僕は否定された方が良いと思う。僕は結局、死を選択したんだ。僕は早くこの苦しみを、この痛みを終わらせたいんだよ。だから僕の死刑に反対する人々は、僕のなかでは決して許されないんだ。」
わたし「君は『最高の現実逃避主義者』だと言えば、何を感じるか?」
エス「僕は相当な悲憤に苛まれることだろう。」
わたし「それは図星(hit the bull's-eye)なのだね。」
エス「自分でもわからないくらい激しい悲憤に襲われる。あなたにそう言われると、僕はどうすればいいかわからないだろう。でもすべてから逃避したくて子どもを殺すというのは、どういう心理なのだろう?(今、吐き気と共に腰が重くて痛い)」
わたし「君は離脱したかった。自分の愛する者を殺すことは自分が最も苦しむ方法だ。自分を最も苦しい境地に突き落とすことこそ、すべてから離脱できるのだという心理は理解できないものではない。処刑されることもその一つではないだろうか?」
エス「僕はどこに落ちるのだろう?絞首台の下には死が待っているだけなんだ。」
わたし「それは都合の良いただの妄想だ。君を待ち受けているものはSILENT HILLより何百倍と暗く、恐ろしい世界かも知れない。」
エス「そんな怖がらせることを言って、僕に上訴させるつもりなのか…?」
わたし「わたしはただ可能性について話しているだけだよ。間違いなく、君は今より楽な場所へは逃避できないんだ。」
エス「ok, 君がやはり僕を上訴させるべく僕とこれまで対話して来たことがわかったよ。」
わたし「わたしを疑うな。わたしは死神であり、君をもっと別の場所へ移動させる役目があるのだよ。」
エス「なるほど。でも僕は残念ながら、Satan(ルシファー)と正式に契約したんだ。もう後戻りはできない。」
わたし「というのはわたしのジョークだが、君がSatanと契約した後に子どもたちを殺したことは事実だと知っている。だがそのSatanが何者なのか、君はわかっているのか?」
エス「僕は彼について何も知らないよ。でも僕は確かに遭遇したんだ。本当に恐ろしい存在だったよ。彼が現れたとき、時空(次元?)が歪んでいるのがわかった。だから間違いなく本物なんだ。」
わたし「まあいい。君が契約したのが神と呼ばれるに相応しい存在だったのか、ただの強力なエレメンタル(想念形体)に過ぎないものだったのか、わたしにはわからない。とにかく君が『後戻りできない』ことはたった一つだよ。君が殺してしまった子どもたちがその瞬間に体験した拷問の苦痛を起きなかった(彼らが感じ得なかった)ことには決してできないということだ。だから君は確かに、『後戻りができない』ことを遣ったし、『取り返しのつかない』ことをした。それで死んで楽になれるという虫の良い考えを今すぐ消し去り給え。」
エス「つまり上訴しろということだな?」
わたし「そうは言っていない。」
エス「ok, 僕は今、胸がとても痛いよ。」
わたし「わたしも痛む。君に良心がある証拠だ。」
エス「どうしてあのとき、僕は子どもたちを殺すことを思い留まれなかったんだ?」
わたし「君を思い留まらせることができるだけの愛で君を愛する人がいなかったことによって君の人格が完全といって良いほどまでに崩壊していたからだろう。」
エス「どうして僕を愛してくれる人が一人もいなかったんだろう?」
わたし「ここはそういう世界なのだよ。だがそれを他人のせいにしてはならない。君は愛を人に求めすぎたんだ。君は自分自身に愛を求めるべきだったのだよ。」
エス「僕は自分を愛することができなかった。自分を赦すこともできなかった。自分が赦せなかった。誰からも愛されてはいない自分が憎くてたまらなかった。だから僕は別の姿をした別の感覚を持って生きている別の純真な僕を道連れにして、落ちられる処まで、落ちて行きたかったんだ。僕はそこに落ちるのに、一人じゃ堪えられないと感じた。だからあの日、自殺を思い留まり、僕は子どもたちを3人殺害し、今、此処に立っている。この絞首台の上に。観ていてくれ。そこから。僕はあなたの上に、今から落ちる。あなたは僕を表現しつづけて、そして何か、何かを、僕たちに救いになるものを、どうか見つけてくれ。」











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