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君と花の小説

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秋桜、君と一輪

秋桜、君と一輪

彼女は毎年秋になると、秋桜を一輪だけ花屋で買って帰ってくる。

選ばれた秋桜は、二人暮らしのマンションの食卓に置いてある細長い一輪挿しに挿されるのだ。

僕達はまだ結婚していない。

そろそろプロポーズをしたいと思ってから、思い切って言うタイミングを掴めず、引き延ばし、1年が経ってしまった。

彼女はプロポーズを急かしてきたり、結婚を迫ってくるようなことはしないが、付き合って3年が経つ。

そろそ

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さざんかさざんか咲いた道で、君と焚き火がしたい

さざんかさざんか咲いた道で、君と焚き火がしたい

「ねぇ、あれ山茶花じゃないの?」

君と散歩していた時、知らない人の家の庭に、山茶花の木が植わっているのを見かけた。

「さざんかさざんか咲いた道、焚き火だ焚き火だ、落葉焚き」と歌い出す君。

「ねぇ、道で落ち葉焚くのって大丈夫なのかな?」

次の歌詞が分からなくなったらしく、歌うのを早々にやめ、誤魔化すように突然そう言い出した君。

「どういうこと?」

「ほら、煙とかさ、クレーム来そうだよね」

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君の髪からは金木犀の匂いがした

君の髪からは金木犀の匂いがした

あの子と僕は友達でも知り合いでもない。

赤の他人だ。

挨拶もない。

言葉を交わすこともない。

笑っているあの子はいつも眩しい。

休み時間に1人で読書をしているような僕とは違う世界の住人だ。

あの子は大抵、窓際で女友達とファッションとかメイクとか、休日のショッピングの予定とか、たぶんそんな話をしている。

次の授業は移動教室だ。

僕は化学の教科書を取り出し、おもむろに立ち上がり、教室を

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秋明菊のように白い白い君へ

秋明菊のように白い白い君へ

あの人の手は白い。

とても、とても。

男の人の手。

骨ばった手。

力を入れるとぐっと角ができる。

男の人の手。

透き通って見えなくなって、いつの間にか私の中から消えてなくなってしまいそうな。

日焼けをしていない白い肌が眩しい。

そういえば、私の手があの人の真っ白な手に一度だけ触れた。

夏。

「細い指。」

と笑うあの人の白い指が絡まった日。

サラリと触れ合う。

陶器のように

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