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波をつかまえようとする白くて小さな手


子どもが眠る時間になっていつも、ああもう今日のこの子に会えなくなる、と思って寂しくなる。



だっこしてよー! とえんえん泣いたとき、もっと早く手を止めたらよかった。洗濯物なんて後回しにすればよかった。もっとたくさん絵本を読んだらよかった。もっと抱っこしてあげたらよかった。
なーんていつも思うのだけれど、たぶんどんなにやっても足りない。
どれだけ一緒に遊んでも抱きしめても、この時間になるともっと遊んであげればよかった、もっとたくさん抱きしめればよかったって思う。


信じられないスピードで子はめきめきと成長し、
たった1年でぐんぐんと背が伸び、やわらかかった栗色の髪もいつのまにかすっかり生え変わっていて、ふわりとただようミルクの香りもいつのまにかなくなった。
写真や動画を見返すと、その変化の大きさに毎度衝撃を受ける。たったひと月前なのに、こんなに大きくなっている、顔立ちが全然違う、声もほんのり変わったみたい。


よくしていた仕草も気がつくと、そういえば最近あんまり見なくなったなぁって思うようになって、その頃にはもう次の仕草を取得している。最後にあの仕草をしたのはいつだったんだろう。


今日でもうこの仕草をしなくなるよ、もう明日からは栗色の髪じゃなくなるよ、この日に泣き声のトーンが変わるからね、なんてお知らせしてくれるときは当たり前だけど一度もなくて、わかりやすくバサッと入れ替わる瞬間なんてない。これからもきっとない。
毎日ゆっくり、それでいてメキメキと、たしかに成長し、変化していく。
こうして眠っている間に少しずつ、少しずつ大きくなって、変わらないようでいて昨日の坊やと同じ日はたった1日もない。

それがとっても嬉しくて、こんなふうにちょっぴり寂しいことだなんて全然知らなかった。



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すこし前に海に行った。坊やにとって、はじめての海だった。


その場にじっと立ち、不思議そうにしばらく見つめた後、よちよちと歩いてそっと波に触れた。
手のひらでしばらく感触を確かめ、しゃかしゃかと両手を動かし始める。こちらにやってくる波をつかまえようとしている。何度も何度も、小さな手のひらをめいっぱい広げて。


これからその手はあらゆるものに触れ、そのたびにたくさんのはじめましてが坊やの元にやってくる。
いつかそのはじめましてがすっかりと馴染んで日常となり、毎日の中に埋もれていくのだろう。
それが成長なんだけれど、坊やのはじめましてに立ち会えたときの嬉しさとかそのときの表情や仕草とか、周りの空気も温度も全部わたしの中に染み込んで、ひとつ残らず覚えていられたらいいのに、と思った。
それから好きなときに取り出せて、そのときのすべてを何度でも感じられたらいいのに、と思った。













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