小説のようなエトセトラ

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ノート

路上の宇宙飛行士

Street astronaut.

「宇宙っていいよな。
でかくてさぁ。なんか考えすぎたら怖くなるけどその感じもまたいい。
宇宙人って居るとおもう?絶対いるよな。なんかさ、多分みんながイメージするよりはいい奴だと思うんだよなぁ。侵略しにくるみたいなイメージあるじゃん?向こうは向こうで自分の星でちゃんとコミュニティとかあってうまいことやってるんだろうからそんな物騒なことしないよなさすがに。一緒

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空蝉

「んー。最近の先生の書く話はなんというか、こう、一般の人には難しいというか、わかりにくいような気がしますね、、、」
編集部の柏木は目線を原稿に落としたまま申し訳なさそうに言った。
「は、、、はぁ。そうですか。僕としては今回はすごく言いたいことが込められたかなと思ったんですけど、、、」
遠藤も柏木よろしく原稿に目を落としたまま答えた。
冷めて色が薄くなった緑茶のそこに沈んだ茶葉のカスが視界に入る。

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北海道を歩いていてなんか思い出したみたいに思いついた話。

等間隔に並ぶ街路灯に無機質さ以外の何かを感じるのはおそらくその一つ一つの経年劣化と電球の光がまちまちだからだろう。
彼女の少し後ろを歩きながら街路灯によって艶のある髪を滑らかに滑るハイライトを見つめていた。
早足で一歩踏み出すたびに小さな体に震度が伝わるのが髪の先のハイライトの破片によってわかる。
「どうしてこうなったでしょう?」
と、不意に彼女がいうので
「倦怠期ってやつのせい?」
と答えてしま

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寝室の砂漠

アルミ製のサッシには大きな磨り硝子がはまっていてそこから流れ込んだ朝日の予感が寝室に充満している。
光と呼ぶにはまだ幼いその予感は彼女の頬に柔らかな陰影を浮かび上がらせている。
砂漠の夜明けがその斜面を滑らかに描き出すように、そして細やかな砂の粒子によってその丘が形づくられるように、その寝顔には広大さと繊細さが同居している。
その世界の均衡をなるべく崩さないように抜け出し、リビングの椅子に座る。

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甘柑

彼女が壁に投げつけたオレンジはそろそろ焼却炉で灰になったころだろうか。厳密に言うと、オレンジは僕に投げつけられたのだが顔の横を掠めて壁に当たった。壁にはビートルズのリボルバーのジャケットが描かれたポスターが貼ってあった。真っ白な余白に飛んだオレンジの汁はまだあの時のままオレンジ色をしているのに、壁の方のシミはどんどんと色を変えまるで僕の心のようにどす黒く変わっていった。元の色に戻ることがないところ

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川端康成の雪国を読んで思いついたお話。

葉子という名前が古臭くて好きではなかった。
響きもさることながら、漢字なんて葉っぱの葉である。
物心ついたとき父にどうしてこんな名前をつけたのかと問い詰めた。
小説家志望で実際は郵便局員だった父は
「言葉にも葉書にも葉という字が入っているから。」
と答えた。父は寡黙で、そして嘘をつかない人だった。
自分の名前に「希望」とか「期待」とかそういうメッセージが込められていないということを知って幼い日の葉

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