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「自己啓発」ってなんでうさんくさく感じるんだろう?

今年の5月に、経済産業省が「未来人材ビジョン」を取りまとめたようだ。

2050年の社会に向けて、どのような人材および教育が求められるかをまとめた資料である。

その40ページ目には、衝撃的なデータが載せられていた。日本人の中で、社外学習・自己啓発を特に何も行っていない人の割合が46%と、アジア諸国の中で圧倒的1位だったのである。

これは一体なぜだろうか。

細かい原因を挙げようとすれば枚挙に暇がないだろうが、ここで考えてみたい原因の可能性の1つとして、「自己啓発って、なんかうさんくさくない?」という考えを持っている人が一定数いるのではないか、と思う。

今現在は、自ら前向きに学ぶことの何が悪いのだ、と思って自己啓発的なこともしている私だが、以前はどこかでうっすらとそのように思っていた時期がある。

このように、「自己啓発」という言葉になんだか良くないイメージがあるのはなぜだろうか?

ここでは私らしく、その「言葉の意味」を問うてみようと思う。

国語辞典によれば、「啓発」という言葉の意味は以下である。

[名](スル)《「論語」述而の「憤せざれば啓せず、悱(ひ)せざれば発せず」から》
人が気づかずにいるところを教え示して、より高い認識・理解に導くこと。「彼の意見には―された」「自己―」

デジタル大辞泉

人や子どもを教え導き、目を開かせて、より高い知性や理解を与えること。また、一般の人が気づかないような点について、専門の観点から教えること。開発。啓蒙(けいもう)。

日本国語大辞典

かの有名な孔子の「論語」からきているとは知らなかった。
ちなみに、その訳は以下のようである。

「子曰く、憤せざれば啓せず、悱(ひ)せざれば発せず」
(訳) 孔子が言われた。自分で理解に苦しみ歯がみをする程にならなければ、解決の糸口をつけてやらない。言おうとして言えず口をゆがめる程でなければ、その手引きをしてやらない。

したがって、「啓発」とは要するに、「まだ理解が足りていなかったり、認識が不足している人たちに対して、すぐに解答を与えるのではなく、本人の苦しみと共に教え導いて、より高い理解度や認識を与えること」である。

英語ではどうだろうか?

似た意味の言葉として、"enlightenment"という単語がある。
日本語訳としては、「啓発」「啓蒙」「教化」といった言葉が当てはまる。

この単語の意味を私なりに紐解いてみる。

"en"というのは、英単語によくある接頭辞で、「~にする(make)」に近い意味合いだ。
"ment"というのは、これまた英単語によくある接尾辞で、様々な単語を名詞化する役割を持つ。

最後に、最も重要な"light"であるが、これは何の光かというと、18世紀のヨーロッパ、特にフランスでおこった合理主義的思想の文脈における「理性の光」のことである。無知を理由に様々なことがらで悩み苦しんだり、暗闇の中をさまよっている人々に対して、合理的思考によってそこから抜け出すための道を明るく照らす、これがまさに「啓蒙(蒙を啓く)」である。

これで、「啓発」という言葉の語源や意味合いがなんとなくわかってきたわけだが、ではこの言葉のどこに「うさんくささ」が漂うのか。

それはおそらく、教わる側、無知な側にとって、教える側の上から目線に見えてしまうからだろうと思う。

巷によくある自己啓発本の類は、その表紙に書かれているインパクトのある言葉たちから、どうしても上から目線感を感じてしまうのは私だけだろうか。

確かに啓発というのは素晴らしい活動だ。そうした啓発活動により、人間は生まれたままの本能に支配された状態から、理性の力で客観的・合理的に物事を考えることができるようになるからだ。

しかし、その過程をうまく踏んでいかないと、教わる側にとっては嫌悪感がある場合がある。

だから、大事なことは、上下関係が生まれ過ぎないような、対等な仕方で行うことだ。啓発する側は、何かを教え込もうと躍起になるのではなく、あくまで対等に、共に考え、共に生きていこうとする態度を見せることだ。また、啓発される側は、自分自身が無知であることを認め、謙虚に学ぶ姿勢や態度を見せることだ。

そして「自己啓発」とは、それを自分自身の力で両者の役割をこなすことだ。自分自身が無知であることを認識し、自ら師や書物から学び取り、自らの認識を改めながら前に進む。

このことがわかってから、私は「自己啓発」に関するうさんくささが晴れ、前向きに取り組むことができるようになった。

こう聞くと難しく大変だと思うかもしれない。でも、少しでも人間らしく豊かに生きていくために、少しずつ前向きにやっていこうではないか。


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