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【初学者向け】質問紙調査

割引あり

心理学の研究では、質問紙法がよく使われる。
この記事は、質問紙調査の要点のみをまとめたものである。
心理学に関する卒論研究で質問紙調査を使う人などを対象にしたものなので、参考になれば嬉しい。


質問紙法

質問紙は、回答者が自分で質問文を読んで答えるもの全般を指す。最近では、ウェブ上で回答するアンケートを見かけることが多くなかったが、ウェブアンケートも「質問紙」に含まれる。この質問紙を用いて対象者からデータ収集を行う方法を、「質問紙法」と呼ぶ。

心理学の研究では、心理尺度を用いて、質問紙法による調査(以下、「質問紙調査」と表記する)を行い、人間の主観的な意識や態度に関するデータを集めることが一般的である。

①質問紙調査の手順

大きく分けると、5つのステップに分けることができる。

  1. 研究目的を明確にする。

  2. 研究に必要な心理尺度を選ぶ。

  3. 予備調査を行う。

  4. 本調査を行う。

  5. 集めたデータを分析する。

②質問項目の留意点

質問項目には以下のような点に注意する必要がある。

  1. 単純明快で誰でも理解できるような内容にする。

  2. 一つの質問項目の中に2つ以上の内容(「ダブルバーレル」と言う)を含まない。

  3. ある特定の意見などを加えた質問項目に回答を誘導しないようにする(「誘導質問」と言う)。

  4. 調査対象者が誰であるのか明確にする。

  5. 調査対象者に合わせた項目内容にする。

  6. 質問項目は研究目的に合わせて必要最小限にする。

③質問紙の教示

教示は、質問紙に回答するための説明文である。教示によっては、たとえ質問項目が同じでも回答傾向が変わる可能性がある。そのため、どのような教示で得た回答データなのかを理解する必要がある。
教示は、以下のように工夫して用いることもある。

【場面想定法】
場面想定法とは、教示によって、ある特定の状況を作り出し、その状況における回答者の心理傾向を測定する方法である。場面想定法で提示される状況設定刺激を「ビネット」と言う。

【回想法】
回想法とは、教示によって、過去の出来事、考え方、態度について思い出させ、回答者の心理傾向を測定する方法である。

④質問項目の回答法

質問項目の回答法には以下のようなものがある。

【リッカート法】
リッカート法は、Likert(1932)が開発した方法であり、別名で評定総和法とも呼ばれる。リッカート法では、質問文への当てはまりの程度を尋ねる。質問紙調査では、リッカート法が最もよく用いられる。

例えば、以下のように尋ねる。
質問文:現在の人生に満足している
回答選択肢:
1.全く当てはまらない
2.ほとんど当てはまらない
3.どちらとも言えない
4.やや当てはまる
5.とても当てはまる

なお、回答ラベルの表現は、織田(1970)が参考になる。

【二件法】
二件法は、「はい」と「いいえ」、「賛成」と「反対」、「好き」と「嫌い」などの2択で回答させる方法である。

【多肢選択法】
多肢選択法には、複数の選択肢から一つの選択肢を選択させたり(「単一回答法」と言う)、いくつかの選択肢を選択させる複数回答させたり(「複数回答法」と言う)する方法である。

【自由記述法】
自由記述法は、質問に対する回答を自由に記述させる方法である。

⑤質問紙調査の長所と短所

長所には以下の点が挙げられる。

  1. 多数の調査対象者に実施できる。

  2. データの収集条件を統一できる。

  3. 実施者の時間的、労力的、経済的な負担が少ない。

  4. 本人しか知らない内面的なこと、過去・未来のことについて尋ねることができる。

  5. 面接や実験と併用できる。

  6. 対象者の特性を多面的に把握できる。

  7. 一度に大量のデータを収集し分析することで、要因間の関係性を明らかにしたり、対象とする集団全体の傾向を推測したりできる。

  8. データ入力や分析が簡単である。

  9. 回答者の匿名性が守られる。

  10. 実施者と回答者が面識する必要性が低く、回答者のプライバシーを保護しやすい。

  11. デリケートな質問に対する回答を得やすい。

  12. 実施者の存在が回答者の回答に与える影響が少ない。

  13. 回答者は、自分の意志で自由に回答できる。

短所には以下の点が挙げられる。

  1. 調査対象者の嘘を見抜きづらい。

  2. 事実と異なる回答を得る可能性がある。

  3. 質問文そのものを理解できない可能性がある。

  4. 質問紙を作成するまでに工夫や対策が求められ、完成までに時間や労力がかかる。

  5. 対象者が主観的に回答するため、客観的なデータを得ることが難しい。

  6. 回答にバイアスが生じる。

  7. 文章を読むことが得意な人、読解力がある人、インターネットでの調査に慣れている人などが回答者になりやすい。

  8. 質問内容を自由に修正できない。

  9. 複雑な質問に回答を求めることは難しいため、質問内容は表面的になりやすい。

  10. 質問紙で尋ねる内容は、回答者の言語に依存する。

  11. 実施者は、回答者自身ではなく他人が身代わりで回答されても気づきにくい。

質問紙調査に用いられる心理尺度

心理尺度とは、「個人の心理傾向の程度を測定する道具」である。

心理測定尺度集という心理尺度がまとめられた本がある。
その内容の一部は、ネットで見ることができる。


以下の記事には、Web上でアクセスできる心理尺度についてまとめられていた。

心理尺度は適切に選ぶ

心理学では、たくさんの心理尺度が開発されてきた。その中には、研究目的や仮説検証のために優れた心理尺度もあれば、そうでないものある。
研究者は、たとえ論文に掲載されている心理尺度でも、自分の目で批判的に検討し、研究目的に適切な心理尺度を選ぶことが求められる。

質問項目を作成する場合

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