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映画『来る』 中島哲也はホームドラマ作家であるという暴論(ネタバレ感想文 )

監督:中島哲也/2018年 日

ケーブルテレビでたまたま放送していたものを何となく観始めたら、つい最後まで観てしまったので感想を書きます。
2018年12月の公開時以来の再鑑賞。
感想文は初回鑑賞時の焼き直し。

私は、長編第1作目『夏時間の大人たち』(1997年)で見初めて以来、新作は欠かさず映画館に足を運ぶ、中島哲也監督のファンです。
そんな私が、血みどろで賛否両論飛び交う中島哲也を「実はホームドラマ作家である」という暴論を語ります。
てか、どこかで『夏時間の大人たち』上映してくれないかな?

おそらく、『告白』(2010年)、『渇き。』(14年)、と本作『来る』は、3部作なんだと思うのです。
母娘、父子の物語を経て、今回は家族のあり方を問う物語。
ついでに言うなら、『告白』での語り部が変わる『羅生門』(1950年)話法と、『渇き。』の平成ハードボイルドだど!を組み合わせた映画だとも思うのです。

この映画は決してホラーではなく、むしろ娯楽作を撮っている趣きさえあります。
原作にはないという、オビワン(<そりゃケノービだ)だかブギワン(<そりゃEW&Fだ)だかを迎え撃つ終盤の「祈祷大作戦」は、もはやハリウッド的娯楽大作感すらある。
そうか?
いや、そうなんですよ。最近の日本映画は、辛気臭い話か貧乏くさい話ばかり。たまにある大作はテレビドラマの安いスケールアップしかない。
いま日本でこんな大作感ある映画を作れるのは、中島哲也か『藁の楯』(13年)三池崇史くらいしかいない。

さらに中島哲也は、別の大きな仕掛けも施します。

おそらく多くの観客が柴田理恵の怪演を意外に思ったことでしょう。

同様に、主要キャスト5人も、それぞれの役者に対して「世間が抱くイメージ」とは真逆のキャラ設定をしているように思えるのです。
これは、ブッキーが演じる「良きイクメン」と重なります。表の顔と裏の顔とでも言いましょうか。世間が抱くイメージなんぞアテにならんぞ、というわけです。

例えば黒木華ちゃんに抱く世間のイメージ、春のパン祭り松たか子に抱く世間のイメージ、そうしたイメージを壊しにかかる。中島哲也はそういう嫌らしいことをする。だってV6岡田君はジークンドーで倒せるだろう?そしてどんな役をやっても小松菜奈は可愛い。
そして世間的にはアウトローであるフリーライターとキャバ嬢が「救い」となる物語なのです。

「鬼の演出」「和気あいあいが一切ない現場」と噂される中島哲也ですが、この人の映画は意外にもホームドラマ的であると思うのです。
前述した『夏時間の大人たち』は子供の目線からの家族物で始まり、続く『Beautiful Sunday』(1998年)は夫婦物で始まります。
6年のブランク後、中島哲也の名を一躍有名にした『下妻物語』(2004年)は主人公2人の絆がメインで、『嫌われ松子の一生』(06年)は絆を求める女の放浪記。『パコと魔法の絵本』(08年)の疑似家族物を経た上で、前述した母子・父娘・家族の「悪意の三部作」(<勝手に命名)につながるのです。

もちろんそこには松竹大船調的な「世間が抱くホームドラマのイメージ」は存在せず、一部を除いて「善」に満ちた物語はほぼ皆無。むしろ「悪」を用いて絆を描く。まるで骨を切らせて肉を断つみたいな手法。

つまり中島哲也は、意外にも、一貫して人の絆をテーマにしているのです。
いやむしろ、悪意に満ちた現代社会の中で、「絆のあり方」を模索しているのかもしれません。

(2023.05.25 CSにて再鑑賞 ★★★★☆)

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